収入がある程度ないと幸せを感じにくい。しかし、収入があるレベルに達すると収入が増えても幸福度は変わらなくなるといわれています。だから、お金の使い方が重要というのが本稿の提案する内容です。さまざまな識者やデータが示す「幸福度を高めるためのお金の使い方」をご紹介します。この機会に「幸福」について考えてみましょう。
お金があることは、幸福度を高めるのに有効である
「幸せはお金では買えない」といわれています。しかし、ハーバード大学の心理学者のダニエル・ギルバート氏は、共著となる論文で「この格言(幸せはお金では買えない)は素晴らしいし、世間一般に信じられていますが、ほぼ間違いです」といっています。
ダニエル・ギルバート氏は、論文でお金に余裕があることで「長生きができる」「健康的な生活を送ることができる」「余暇を楽しめる」など人生を謳歌することができ、それによって幸福度が上がると説いています。さらには「お金が幸せになるチャンスをくれる」ともいっています。
もちろん、なかにはお金がなくても健康的な生活や余暇を楽しめるので幸せという人もいらっしゃるでしょう。しかし、多くの人にとって「お金があること=幸せ」は、切っても切り離せないのです。
しかし「年収は高いほどいい」わけではない
だからといって、お金がたくさんあるほど幸福度が高まるわけではないようです。
ノーベル経済学賞を受賞している心理学者のダニエル・カーネマン氏と、同じくノーベル経済学賞を受賞しているアンガス・ディートン氏は、「年収が一定に達すると、それ以上増えても幸福度は上がらない」との研究結果を発表しています。
年収7万5,000ドル(日本円で約825万円※)を超えると、収入が増えても幸福度はほぼ横ばいになるそうです。
この研究結果に基づけば、年収が900万円でも年収2,000万円でも、感じる幸福度はあまり変わらないことになります。
※:1ドル110円とした場合
幸せになることを目標にするなら、ある程度のレベルまで年収を増やす努力は必要です。しかし、それだけで幸福度を高めることはできません。
さらなる幸福を求めるのならば、もっと幸せになるための方法を追求していく必要があるのはないでしょうか。
その1つのアプローチ方法が今回フォーカスする「幸福度を高めるお金の使い方」になります。そこで本稿では、「幸福度を高める3つのお金の使い方」をご提案します。
上記の3つの共通点は、カタチのない価値にお金を使っていることです。それぞれの内容をくわしく見ていきましょう。
- 【オススメ記事】
- お金はありすぎてもダメ!?「限界効用の逓減」に見る幸せな億万長者の条件
1.寄付
幸福度を高めるお金の使い方の1つ目は「寄付」です。
寄付が幸福度を高めることを示す研究は、海外で数多く行われてきました。ただ、海外に比べて寄付文化が根付いていない日本人に「寄付=幸福度アップ」の法則があてはまるかは不明でした。
しかし、ニッセイ基礎研究所が行った調査によって「寄付が幸福度を高めるのに有効であること」が示されました。この「寄付と幸福度の関連調査」では、事前に参加者の幸福度を測定し、その後ランダムに下記の3つのグループに振り分けています。
グループA くじ引きで当選 | 当たったポイントは自分のものになる |
---|---|
グループB くじ引きで当選 | 当たったポイントを強制的に寄付(※2) |
グループC くじ引きではずれ | くじ引きではずれ(何ももらえない) |
※2寄付先は日本赤十字社、日本ユニセフ協会、パラリンピックスポーツ日本代表の活動、令和元年台風19号の被災自治体から選択
上記の結果を知ったうえで、幸福度を再び測定するとグループBの「当たったポイントは強制的に寄付」のグループの幸福度がもっとも上昇したという結果になりました。
グループCの「くじ引きではずれ」はもちろん、グループAの「当たったポイントは自分のもの」さえも上回ったのです。
この実験では、寄付先があらかじめ設定されていました。同研究所のレポートでは、自身で寄付先を決めた場合、「さらに大きな幸福度を高める効果が期待できる可能性がある」と言及しています。
2.旅行
幸福度を高めるお金の使い方の2つ目は「旅行」です。
とはいっても、単に旅行にお金を使えば幸福度が高まるわけではありません。大事なのは旅行に行く「頻度」です。
東北大学加齢医学研究所と旅行大手のクラブツーリズムの共同研究では、「旅行頻度が高い人は幸福度が高まる」との結果が出ています。
この研究の対象者となる旅行ツアー参加者は835人。旅行に行く頻度が高い人ほど「拡散的好奇心」が高まる傾向が見られました。拡散的好奇心とは、いろんなことに幅広く興味を持つタイプの好奇心です。
旅行に行く人は主観的幸福度が高い
さらに東北大学加齢医学研究所らの研究によって、拡散的好奇心が強い人は「主観的幸福度」が高い傾向があることも判明しました。
主観的幸福度とは、所得が高い、健康であるといった表面的な指標ではなく、「生活満足度」や「ポジティブとネガティブ両面の感情」などを指標にしたものです。その人が本当に幸せを感じているか否かを判断するのに有効な指標といえるでしょう。
ちなみに拡散的好奇心の数値が高い(=幸福度を感じやすい)のは、年10回以上、旅行に行く人でした。これに対して、旅行頻度が下がるごとに好奇心の数値が下がっていくことも確認されています。
あわせて、旅行は認知症リスクにもよい影響をもたらす可能性があります。
東北大の滝靖之教授は、「頻度が高い人は、旅行を通じて主観的幸福度が高まることで、将来の認知機能低下を抑える効果が期待できる」(日経新聞2021年7月12日付)と述べています。
3.経験
幸福度を高めるお金の使い方の3つ目は「経験」です。
といっても、やみくもにいろんな経験をすれば幸福度が高まるわけではありません。そこには法則があります。
ベストセラー作家・星渉氏と慶應義塾大学大学院教授で幸福研究の第一人者・前野隆司氏の共著『99.9%は幸せの素人(出版社:KADOKAWA)』では、科学的に証明されている「幸福度が高まる経験の4条件」を挙げています。
上記の4条件のうち、1と2はお金がいらない、またはお金をそれほどかかけなくてもできる経験です。
例えば、ボランティアに参加するなどで1の「世の中とのつながりが実感できる経験」は可能です。また、仕事や趣味の大きなチャレンジを通して、2の「繰り返し語ることができる思い出となる経験」を得ることもできます。
これに対して3と4については、必ずしもお金がなくてはできない経験ではないものの、お金を使うことで機会創出のチャンスが広がります。
一例では、スキルアップのための講座に通うことで3の「理想とする自分のイメージにつながる経験」が可能です。
また、M&Aで会社を買収することで、サラリーマンをしながら4の「めったにないチャンスを得られる経験」ができるといった具合です。
人生の目標が「どこまでもお金増やすこと」にならないように……
国連の「2021年世界幸福度報告書」では、人生に対する満足度のランキングにおいて日本は95ヵ国中40位です(2020年度のスコア)。
日本人は、社会インフラや教育システムが充実している恵まれた環境にも関わらず、決して幸福度が高くありません。私たちはもっと「幸せを感じるにはどうしたらいいか」を追求していく必要がありそうです。
冒頭でお話ししましたが、(傾向的に)幸福度を高めるには一定の収入が必要です。それと同時に「幸福度を高めるお金の使い方」のスキルを磨いていく必要もあります。
このスキルが抜け落ちると、人生の目標が「幸せになること」ではなく「どこまでもお金増やすこと」になってしまいます。そこにゴールはありません。
今回取り上げた、幸せになるためのお金の使い方である「寄付」「旅行」「経験」はあくまでも一例です。どんなことにお金を使うと幸せを感じるかは、人それぞれ違います。ほかにも自分なりに幸福度を高めるお金の使い方はないかを模索していきましょう。
>>【無料eBook】30代で知りたかった「お金」の極意 後悔しない8つのポイント