新型コロナウィルスの感染が長期化の様相を呈し、観光業界に大きな影響を与えました。2024年11月現在、日本を含む各国で規制はほぼ無くなり、観光業界は盛り上がりを取り戻してきたように見えます。その中でアフターコロナ期に一足先に業績を伸ばし、ホテル業界の“勝ち組”に君臨した星野リゾートの経営戦略について分析します。
目次
コロナで倒産が相次いだホテル業界
新型コロナウィルス感染拡大で飲食業界と並んで大きな影響を受けたのが、旅行会社やホテル・旅館などの観光業界です。
また、日本を代表するホテルである帝国ホテルが2021年5月12日に発表した2021年3月期の決算は143億6,300万円の大幅な赤字となりました。
さらに、翌5月13日に発表されたロイヤルホテルの2021年3月期決算も93億3,400万円の大幅な赤字となっています。ホテル業界の惨状が数字に表れた形です。
他社が苦境に喘ぐなか、一足先に業績を伸ばした星野リゾート
そのなかにあって星野リゾートは「星野リゾート・リート投資法人」の決算ベースで、コロナ初期の2020年10月期が28億5,300万円(確定値)の黒字を計上。
新型コロナウイルスの感染拡大をめぐっては第7波を警戒する声もあったなか、一足先に業績の停滞から抜け出していました。
その実績の理由は、星野リゾートの臨機応変な経営戦略にありました。
ホテル業界の勝ち組、星野リゾートの経営戦略とは
では、星野リゾートはどのような戦略で黒字を確保したのでしょうか。
星野リゾートが打ち出したマイクロツーリズム戦略
2020年4~5月に発出された全国規模の緊急事態宣言でホテル業界が大きな打撃を受けた時期に、星野リゾートが打ち出したのが「マイクロツーリズム」という戦略です。
この時期は好調な業績をあげていた星野リゾートでも先行きに危機感を持ち、星野佳路代表が社内ブログで自社の倒産確率を発表したほどです。
3密を避け近場で過ごす新しい旅行スタイル
新企画である「マイクロツーリズム」は、3密を避けながら近場で過ごす新しい形の旅行スタイルです。遠出が難しいユーザーに地元の魅力を知ってもらうことで新たな需要を生み出しています。
たとえば自社温泉旅館ブランド「界」の「界 箱根」で「箱根寄木細工職人の工房を訪ねるツアー」を開催しました。
このような地元の魅力を発信する企画は現場の社員から出されるもので、自由に提案できる社風も星野リゾートの強みにつながっています。
都心の温泉旅館に泊まれる
星野リゾートは話題作りもうまく、「星のや東京」は東京・大手町という都心で温泉旅館に泊まれるコンセプトが評判を呼び、高額な価格帯にも関わらず予約は好調だといいます。
靴を脱いで玄関を上がると畳の廊下が続く意表を突いた仕様になっており、都心とは思えない温泉旅館気分を味わえるのが特長です。
地下1,500メートルからくみあげた温泉の露天風呂もあり、これもマイクロツーリズムの施策の1つといえるでしょう。
徹底したコロナ対策で信頼を高めた
星野リゾートは以下のようなコロナ対策を実施し、宿泊客からの信頼を高めました。
星野リゾートのコロナ対策の基本は「3密回避」と「衛生管理」です。感染対策に活かせるアイデアもあり、参考にするのもよいでしょう。
・エレベーターのボタンや手すりなどに抗ウィルスコーティング。合わせて利用人数の制限も行い、宿泊客同士が近距離で向き合わないように工夫。
・共用スペースでは換気を徹底するため、換気のレベルを測定する「CO2(二酸化炭素)濃度測定器」を全施設に設置。目標とする基準は800ppm以下(厚生労働省が定めた基準は1,000ppm以下)。
・客室はウッドデッキ付きや露天風呂付きなど、3密を回避するためのさまざまな開放的な部屋を用意。
・レストランは「新ノーマルビュッフェ」と題し、テーブルや椅子に抗ウィルスコーティングを施し、各料理に飛沫防止カバーを設置。お客様へマスクと手袋を配布するなどの感染対策を実施。
(参照:星野リゾート「最高水準のコロナ対策宣言」)
星野リゾートの積極的な“ブランド戦略”
星野リゾートには多くのブランドがあり、さまざまな旅行需要を取り込めるのも強みです。
2024年11月現在では以下の5つのブランドを展開しています。それぞれのコンセプトは次のとおりです。
星のや
星野リゾートの主力ブランドで8施設あり、日本国内だけでなくインドネシアと台湾にも進出もしています。非日常感に包まれる日本初のラグジュアリーホテルというコンセプトで高級感が売り物です。
界
最も多い22施設を展開しています。和にこだわった上質な温泉旅館というコンセプトで、温泉文化を現代的にアレンジした日本旅館です。和食のコースメニュー「日本旅会席」でご当地の味を食することができます。
リゾナーレ
スタイリッシュなデザインが魅力の西洋型リゾートホテルです。北海道、沖縄、八ヶ岳など7施設が大自然を満喫できる立地にあり、活動的なプログラムも用意されています。
OMO
京都、北海道、東京、神奈川、沖縄などに施設(合計17施設)あるカジュアルホテルです。観光を楽しみたい方にぴったりだといえるでしょう。
BEB
茨城県・土浦と長野県・軽井沢、そして沖縄の3施設のみ。「みんなでルーズに過ごすホテル」をコンセプトに、飲食の持ち込み推奨で、朝食とチェックアウトは遅れてもOKというユニークな経営方針を打ち出しています。
その他
以上の5ブランドのほかにも個性豊かな宿泊施設と、温泉、スキー、ゴルフなどを楽しめる日帰り施設があります。
ホテル業界でも突出した多ブランド展開で、さまざまな旅行の目的を取り込む戦略は今後も注目を集めそうです。
星野リゾートにはREITで投資できる
星野リゾートにはJ-REIT(上場不動産投資信託)で投資することができます。「星野リゾート・リート投資法人」は、星野リゾートがスポンサーになっている投資法人です。
資産規模は取得価格ベースでは2,266億5,000万円で、総客室数は8,673室となっています(2024年6月13日現在)。
2024年11月6日終値による投資口価額は23万2,500円です。2024年10月期の1口分配金は9,100円で予想分配金利回りは3.91%となります。
ただし、注意しなければいけないのは、星野リゾート・リート投資法人は星野リゾートの物件だけでなく、チサンイン、カンデオホテルズ、ANAクラウンプラザホテル、ザ・ビーなどほかのホテルグループにも投資していることです。
星野リゾートのホテルが好調だったとしても、ほかのホテルグループの低迷が続けば、REITの運用成績も緩やかな回復にとどまる可能性があります。
ここまで星野リゾートの経営戦略について見てきましたが、
・さまざまな旅行目的の顧客を取り込める多ブランド展開
・単なる宿泊で終わらない体験型プランの提案
・顧客からの信頼を高める徹底したコロナ対策
・現場の声が企画に反映される風通しのよい社風
など、星野リゾートの経営戦略から学ぶことは多いでしょう。
※本記事は星野リゾートの事業戦略を紹介するものであり、当該銘柄への投資を推奨するものではありません。
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