不動産は一生の買い物です。購入する側としては万が一欠陥などがあった場合はどうなるのか、気になる人もいるでしょう。保証について知るための重要なキーワードは、「契約不適合責任」です。
2020年4月の民法改正により、「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ変わりました。これにより、新築物件には売主に10年の保証が義務付けられています。
その詳細は新築マンションを購入するにしても、マンション経営にあたるにしても知っておきたいところです。そこで本稿、契約不適合責任が追及できるパターンや旧民法からの変更点、新築と中古による違いなどについて解説します。
目次
契約不適合責任とは
契約不適合責任は、契約内容に沿わない物件を購入してしまったとき、売主に責任をとってもらうためのルールです。
改正民法562条には以下のように謳われています。
「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる」
「追完を請求」とは、建物の補修や代わりとなる物件の提供を求められるということです。追完請求ができない場合は、その欠陥に応じた代金減額請求ができます。
さらに契約不適合は債務不履行に該当するため、損害賠償請求や契約解除も可能です。責任追及するためには、買主が欠陥を知ったときから1年以内にその旨を伝える必要があります。
これらの代金減額請求や補修、代替物の提供などは、旧民法ではごく限られた場面でしか認められていませんでした。改正により買主が請求できる対応のバリエーションが増えたことになります。
個別の契約によってなくすことも可能
契約不適合責任は、個別の契約によってなくすことも可能です。購入前に契約内容の詳細をよく確認しておかなければなりません。
ただし売主が宅建業者の場合、物件の引き渡しから2年以内に欠陥がある旨を通知すれば責任を問えることになっています。
契約不適合責任を追及できるパターン
上述したように、契約不適合責任を問えるケースは「どのような契約内容であったか」が重要になってきます。とはいえ実務では、従来の瑕疵担保責任を問える範囲の延長線上で追及できることになるでしょう。
また後述の通り、新築マンションでは品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)によって売主に対し契約不適合責任と同様の責任が問えます。
新築マンションにおいて、契約不適合責任を問えるパターンを紹介します。
建物の瑕疵
品確法によって契約不適合責任と同様の責任が問えるパターンは、住宅の構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分の欠陥です。
構造耐力上主要な部分とは、基礎や壁、柱など建物の構造上の強度に影響を及ぼすような部分をいいます。
最高裁の判例では
最高裁の2003年(平成15年)10月10日判決では、マンション建築工事の請負契約上、主柱に契約した太さの鉄骨を使用しなかったことが、構造上の欠陥にあたるとされました。
売買契約においてもこのような欠陥は、契約不適合責任が問われると考えられます。雨水の侵入防止については、屋根や壁、排水管などの欠陥が該当。
判例では、新築マンションの外壁タイルの剥離について売主の瑕疵担保責任を認めました。補修工事だけでなく経済的価値の低下部分の損害賠償請求も認められています。
生活に重大な支障をきたす欠陥は契約不適合責任が問える
他にも建物の欠陥について瑕疵担保責任が問われた判例には次のようなものがあります。
厚生労働省の環境基準を満たさないホルムアルデヒド濃度のマンションについて売主の瑕疵担保責任と契約解除が認められた東京地裁2005年(平成17年)12月5日判決の事例です。
また通気管の施工不良によって湿気と異臭が強くこもるマンションについて売主の瑕疵担保責任を認めた事例があります。
このような生活に重大な支障をきたす建物の欠陥については、契約不適合責任が問えるでしょう。
眺望や周辺環境に対しても契約不適合責任が問える
眺望などの周辺環境が実際には契約に適合していなかったり適合しなくなったりした場合、契約不適合責任を問えるケースがあります。
隅田川の花火を眺望できるマンションを分譲した業者が、その眺望を妨げる別のマンションを建設した東京地裁2006年(平成18年)12月8日判決の事例で裁判所は、分譲業者に損害賠償を認めました。
また電柱および送電線が見えることを説明していなかったマンションの売買契約の事例では、契約解除を認めています。
新築マンションと中古住宅の違い
新築マンションと中古住宅における最大の違いは、品確法による保証があることです。同法では、構造耐力上主要な部分と雨水の侵入防止について、売主に10年の保証が義務付けられています。
売主にお金がなかったり倒産したりした場合でも対応できるよう、必要な資金を供託金や保険で担保しておくことが住宅瑕疵担保履行法によって義務付けられているのです。
中古住宅で契約不適合責任が問える期間
一方、中古住宅では契約不適合責任を問える期間を、引き渡し後3ヵ月~1年程度に限定するのが一般的です。中古の場合、売主側に厳格な保証を求めるのは酷であるとの実務の流れが背景にあります。
瑕疵担保責任が免責とされる契約も珍しくありませんでした。大阪高裁の2004年(平成16年)9月16日判決の判例では、築19年の中古区分建物の屋根・外壁の老朽化、床鳴りなどについて告知していなかったとしても売主に瑕疵担保責任はないとされています。
契約に特に記載がない限り経過年数相当の劣化については、契約不適合責任を問えないと考えたほうがよいでしょう。
売主が宅建業者の場合は宅建業法の縛りがありますが、それでも2年しか責任を負わないのが現実です。
新築マンションの保証は手厚いという事実は民法改正後も変わらない
2020年4月に改正民法が施行され、契約不適合責任の概念が生まれました。マンション経営の実務では、以前から保証されていた瑕疵担保責任の延長であると考えられます。
保証されるのは生活に重大な支障があるような欠陥に限られるでしょう。契約不適合責任の請求は、買主が欠陥を知ったときから1年以内に通知すればよいことになっていますが、あくまでも任意規定です。
中古住宅の契約実務では、従来通り経年劣化を理由に売主側の責任が著しく制限されるでしょう。
新築マンションには、10年という長期間にわたって構造耐力上の主要な部分や雨水の侵入防止などに関する保証を受けられるメリットがあります。
よって、新築マンションはマンション経営にも適していると言えるでしょう。新築マンション経営についての詳しい情報はこちらの記事をご覧ください。