キャッシュフローとはその名の通り「お金の流れ」で、収入から各種支払いなどを差し引いた現金収支のことを指します。不動産投資でも、リスクの少ない資産運用のため、キャッシュフローで余剰金をストックしておくことは重要な要素です。
本稿では、キャッシュフローの概要や、多くのお金を手元に残す方法や残したお金の活用方法を解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
キャッシュフローとは?
キャッシュフローとは、収入から各種支払いなどを差し引いた現金収支のことです。不動産投資は基本的にローンを組み、金融機関から借入して事業を行っていきます。
キャッシュフローを把握していないと、金融機関への返済日までに現金がないため、返済が滞る事態に陥ってしまいます。
サラリーマンで不動産投資をしている場合、特に不測の事態に備え、資金に余裕を持たせておきましょう。
キャッシュフローには種類がある
ビジネスの世界では、キャッシュフローには「営業キャッシュフロー」「財務キャッシュフロー」「投資キャッシュフロー」などの種類があり、それぞれ計算方法も異なります。
不動産投資では、家賃収入から各種経費やローンの返済金を差し引いて残るお金の流れをキャッシュフローとすることが多いです。上記の中では営業キャッシュフローに近い考え方といえます。
正確には、残った家賃収入から所得税を納めるのですが、税率は所得によっても変動するため、不動産投資のキャッシュフローは納税前の余剰金を指すのが一般的です。
目先のキャッシュフローにとらわれず長期で考える
キャッシュフローは現金収支ともいい、家賃収入から経費やローン返済分などの支出を引いた手取り収入のことを指します。
例えば経費とローン返済の合計11万円の支出に対して家賃収入が10万5,000円とするとキャッシュフローは差し引きマイナス5,000円です。
このようにマイナスのキャッシュフローとなる可能性の高い物件に、難色を示す不動産投資家は少なくありません。
小売や製造業など一般的な事業経営においてもキャッシュフローは重要な経営指標の一つであり、やりくりができなければ仕入れができず営業できなくなってしまいます。
不動産投資が多くの投資と異なる点
ただし、不動産投資が多くの投資と異なる点は、運用期間が非常に長いということです。新築マンションの場合、保有期間が数十年になることもあります。
キャッシュフローが持つ価値について、この点を加味して考えなければなりません。例えば小売業でマイナスのキャッシュフローが数ヵ月続いた場合は運転資金が底をついてしまうため経営はかなり苦しくなるでしょう。
なぜなら仕入れてから売り上げを現金化するまでの期間が短くキャッシュフローがマイナスだと仕入れができなくなるからです。
物件を手放したとき、もしくは長期保有で最終的な収支が明らかになる
しかし、マンション経営を含む不動産投資では物件を手放したとき、もしくは長期保有に初めて最終的な現金収支が明らかになります。
ローン完済後は支出が大幅に減るため、その期間のキャッシュフローは大きくプラスになるでしょう。ローン返済期間中にマイナスになったとしても、その後の数年間で総合計がプラスに転じれば健全経営といえます。
金利や返済期間で目先のキャッシュフローは変わる
目先のキャッシュフローは、金利や返済期間などの要素で大きく変動します。
例えば鉄骨鉄筋コンクリート造りの住宅の法定耐用年数は47年ですが、47年間ローンを組むことができたら多くの物件でキャッシュフローはプラスになるでしょう。
しかし返済期間が長い分、金利がかさみ総支払額は増えます。そのため47年間、黒字ギリギリのキャッシュフローで回したとしても、すぐに物理的な限界を迎えてしまうかもしれません。
一方で鉄骨鉄筋コンクリート造りの住宅の法定耐用年数については47年で住めなくなるというわけではないため、その後も保有し続けることでキャッシュフローが大きく改善していきます。
いつローンを組んだかでキャッシュフローに差がつく
金利も大きく影響します。例えば2,000万円を35年元利均等返済で年利2%の場合、毎月の返済額は約6万6,252円です。年利3%の場合は毎月約7万6,970円となり金利が1%変わるだけで約1万718円増えます。
金利は政策金利や不動産価格によって変動するため、いつローンを組んだかによって目先のキャッシュフローに差がつくことになるのです。
事業の基本は「安く買って高く売る」ことのため、不動産経営の場合は「良い物件を適正な家賃で長く貸す」ことにつきるでしょう。
金利や返済期間などの条件によって変化しやすいキャッシュフローは、経営の本質を表したものではありません。
なぜ不動産投資でキャッシュフローが大切なのか
不動産投資でキャッシュフローが大切といわれるのは、どのような理由があるのでしょうか。不動産投資は高い家賃を得られても、支出のバランスが取れていなければ成功とはいえません。
収入と支出をシミュレーションして不動産投資でキャッシュフローが黒字もしくは少ない出費で収まることは次のようなメリットがあります。
2.空室が出た場合に生活費や預貯金が圧迫されにくい
3.キャッシュフローが良好な物件は資産価値も高い
手元に現金を残すことで急な出費に対応できる
1つめの理由は、収支が黒字もしくは少ない支出で抑えられれば、入居者から急に修繕の要求があった場合でもすぐに費用を用意することができます。
雨漏りがあるなど、入居者の過失ではない修繕はオーナーが費用を負担する必要があり、手元にお金がないと費用の捻出が難しくなるなど、経営がうまく回らなくなる恐れがあります。
空室が出た場合に生活費や預貯金が圧迫されにくい
2つめの理由はキャッシュフローが黒字もしくは少ない支出であれば、空室が出た場合の穴埋めに生活費や預貯金が圧迫されにくいことです。例えば、1室の区分物件をローンで購入していた場合、空室が出たときに家賃収入がゼロになり、給料や預貯金からローンを支払う必要が出てきます。
キャッシュフローが良好な物件は資産価値も高い
もう1つの理由は、キャッシュフローが良好な物件は資産価値が高くなるという点です。実際に運用した結果キャッシュフローが黒字もしくは少ない支出で抑えられれば、その物件は稼げる力があると判断できます。
運用期間中に利益をもたらしてくれるだけでなく、売却する際もキャッシュフローが黒字であるという事実を買い手にアピールできます。結果的に売却時の査定額が高くなることが期待できるのです。
不動産投資におけるキャッシュフローの計算方法
続いてはキャッシュフローの計算方法を解説します。
マンション経営などの不動産投資で、キャッシュフローを計算するために必要な外部への支出金は、以下の2つがメインとなります。
2.ローンなどの返済金
各種経費
不動産投資における経費は維持管理費、清掃費、固定資産税などがメインになります。しかし、正確な金額の算出は難しいため、不動産投資でキャッシュフローを割り出す場合は「家賃収入の何%まで」と、およその数値で問題ありません。
経費の総額は、家賃収入の20〜25%を想定しておくのがベターといわれています。
ただし、中古や新築など物件条件によって、得られる家賃や発生する諸経費なども変わってきますので、あくまで目安として捉えておきましょう。
また、物件によって電気水道費、浄化槽費、保険費用がかかり、所有物件に空室が発生した際には広告費、修繕費などを支払う可能性も生じます。
空室が発生している期間は、その分家賃収入も下がってしまいますので、ある程度想定しておきましょう。
ローンの返済金
住宅ローンを組んだ場合の月々の返済額は、融資条件によって変わってきます。返済金額を決定する要素は借入金額、返済期間、金利の3つとなります。
・借入金額
・返済期間
・金利
返済期間が長く、金利が低ければ返済金額は減ります。金利の低さはキャッシュフローに貢献しますが、返済期間は注意しましょう。
住宅ローンにおいて「返済期間が長いため返済額が少なくなる = キャッシュフローが多い」という認識は誤りではありません。
しかし、返済期間が伸びるということは、何らかの事情で返済が滞ってしまうリスクも増すといえるのです。不動産投資では、空室リスク以外にも、家賃下落、災害リスク、金利上昇などのリスクがあります。
ローンの返済期間を長く設定すると、これらのリスクにより収入が減り、返済が滞る可能性も増します。バランスの取れた返済スケジュールを設定しましょう。
東京都内の新築ワンルームマンションでシミュレーション
東京都内の新築ワンルームマンションを例にしてキャッシュフローをシミュレーションしてみましょう。
購入してからキャッシュフローの黒字が見込めないような物件であることがわかっても手遅れになります。購入前に収支をシミュレーションすることはとても大切です。
なお、減価償却費は実際の現金の支出をともなわないので、ここでは除外して計算します。
【計算例】
物件価格:2,600万円
頭金:200万円
借入金額:2,500万円
借入金利:1%(元利均等払い)
融資期間:35年
空室期間:1ヵ月
キャッシュイン(入ってくるお金)
家賃月:10万円
満室想定年間家賃収入:10万円×12ヵ月=120万円
キャッシュアウト(出ていくお金)
年間諸経費:15万円(固定資産税等)
空室損:(1ヵ月)10万円
年間経費:15万円+10万円=25万円
ローン返済額:月約7.7万円
キャッシュフローの計算式「純利益 - 年間ローン返済額 = キャッシュフロー」で計算するとキャッシュフローは次のようになります。
この物件のキャッシュフローは年間約3万円の黒字となり、預貯金を取り崩さなくても経営が成り立つと判断できます。
空室期間1ヵ月の例ですので、空室が出なければ黒字額は約13万円に増えます。
空室が出ないように入居者にとって住み心地の良い物件にすることが必要です。
キャッシュフローをさらに増やす方法
では、不動産投資でキャッシュフローの発生する資産運用を行うためには、どのような点に気をつければいいでしょうか。
2.低い金利でローンを組むために交渉や借り換えを行う
3.頭金を多く入れる 4.低金利のローンを選ぶ
5.実績のある管理会社を選ぶ
中古マンションよりも新築マンションの物件を購入する
一見、新築よりも中古マンションの方が購入費用を安く抑えられるため、キャッシュフローも多くなるように思われます。
しかし、中古マンションの場合、設定できる住宅ローンの返済期間が、新築マンションよりも短くなってしまう可能性がある点に注意しましょう。
中古マンションのローン返済期間は、以下のような計算式を用いて算出されます。
鉄筋コンクリート構造のマンションの場合、法定耐用年数は47年となります。
例えば、築20年の物件ですと、法定耐用年数をマイナスして27年となりますので、30年ほどのローンを組める可能性は低くなります。
「返済スケジュールが長ければ良いという訳ではない」とすでにご説明しました。それでもローン返済期間が10年違えば、月々の支払いは数万円単位で変わります。
以上の理由から「なるべく支出金を抑えるためにローンの返済期間を長く設定したい」と考えている場合、中古よりも新築の物件を購入するのがおすすめです。
また、将来的に購入した物件の売却を視野に入れるなら、中古よりも新築の方が値段の下落率も低く、売却時に買い手が見つかりやすい点もメリットです。
特に、ブランド価値のあるマンションなどは、経年による価格の減少幅も抑えられます。
低い金利でローンを組むために交渉や借り換えを行う
前述の通り、キャッシュフローを多くするためには、住宅ローンはなるべく低い金利で組むことが必要です。
仮に2000万円の融資を20年ローンで受けたとすると、月々の返済額は「金利2.0% = 10万円前後」「金利3.0% = 11万円前後」と、1万円前後の差があります。
多くの金融機関の場合、住宅ローンの金利に対して引き下げ幅が設定されています。引き下げ幅とは、本来設定されている基準金利に対してどの程度まで金利を下げられるかを示す数値です。
例えば「基準金利 = 2.5%」に対して「引き下げ幅 = 1.0%」の場合、最大で「1.5%」まで金利引き下げの可能性があります。
住宅ローンの金利の引き下げを行うには、金融機関と引き下げに関する交渉をしなければなりません。金融機関側からしても「ぜひ借りて欲しい」と思われる条件が揃っていた場合、金利引き下げの可能性も高まるでしょう。
金利交渉の際には収入の安定性や個人信用情報などが加味されます。事前にローンの借入に関する仮審査を行って、自分に交渉材料がどの程度あるか把握しておきましょう。
実際にローンを組んだ後でも、より金利の低いローンに借り換えを行うことも可能です。
「ローンを組んだ後で好条件のプランが登場した」、「収入源が減ってしまった」などのケースでは、ローンの借り換えも十分検討できます。
ただし、ローンを組むためには事務手数料、抵当権設定費、印紙税などの諸経費が発生します。そのため、住宅ローンの借り換えでは「一時的に支出が増え、キャッシュフローが少なくなる可能性がある」と念頭に置きましょう。
頭金を多く入れる
不動産の購入で頭金を多く入れることは、毎月のローンの返済額を減らすことにつながります。また、金融機関の融資審査でも有利になるので、初めてのマンション経営であれば頭金を多めに入れるほうが無難といえるでしょう。
ただし、手持ちの資金を全額頭金にしてしまうと運営資金に余裕がなくなってしまうので、一定額は手元に残しておく必要があります。
低金利のローンを選ぶ
不動産は高額なので、金利の水準によって収支に大きな差が出ます。低金利のローンを選ぶことによって、毎月の返済額や返済利息総額を低く抑えられるので、経営の安定につながります。
先に紹介したように1%の金利の違いで月にして1万円以上返済額に差が出る場合がありますが、支払利息の総額も以下のようにかなり大きな開きとなります。
【シミュレーション条件】
毎月返済額:6万6,252円
返済利息総額:782万5,861円
・借入金利:3%
毎月返済額:7万6,970円
返済利息総額:1,232万7,082円
毎月返済額で1万718円、返済利息総額で450万1,221円の差が出ます。低金利のローンを選ぶことの重要性がわかるでしょう。
実績のある管理会社を選ぶ
マンション経営においては管理会社との付き合いは欠かせません。特に初めてマンション経営を行う方にとってはわからないことも多いので、相談しながら進めるうえで良きパートナーとなります。
空室が出ても早めに次の入居者を見つけてくれる実績のある管理会社を選ぶことでキャッシュフローの向上につながります。
貯まったお金の活用方法
マンション経営では、貯まったお金をどのように活用するかも重要なポイントです。
キャッシュフローが黒字である限り少しずつ手元に現金が残っていくので、どのような目的のために使うかをあらかじめ考えて積み立てる必要があります。ここでは4つの活用方法を紹介します。
2.空室が出たときのローン返済に充てる
3.金利が上昇した場合に備える
4.次の物件を購入するための頭金にする
修繕の発生に備えて積み立てる
マンションを購入すると、経年につれていずれ修繕すべき箇所が発生します。貯まったお金の活用方法で最もオーソドックスなのが、修繕積立金にすることです。
リフォームされていない中古マンションを購入するとタイミングが悪ければすぐに修繕箇所が発生する可能性があります。
あまり修繕にお金をかけたくないのであれば、新築マンションを購入したほうがよいでしょう。
空室が出たときのローン返済に充てる
マンション経営の大きなリスクである空室の発生にも備えなければなりません。
3ヵ月程度の家賃相当分を積み立てておけば、空室が出ても次の入居者が見つかるまでのローン返済に充てることができます。
先に述べたように、空室が出ても短期間で入居者を見つけてくれる実績のある管理会社を選ぶことが大切です。
また、中古マンションよりも新築マンションのほうが空室リスクは低い傾向があるので、その点も考慮に入れて物件を選ぶとよいでしょう。
金利が上昇した場合に備える
ローンを組んで物件を購入した場合、金利の上昇がリスクの1つになります。
先にシミュレーションしたように、1%金利が上がると月に1万円以上返済額が増える場合があります。
家賃収入よりローン返済額が多くなったときに、貯めた手持ちの資金を活用すれば預貯金を取り崩さずに運用できます。
次の物件を購入するための頭金にする
貯まったお金を次の物件を購入するための頭金の一部にすることも有効な方法です。
1つめの物件の経営が軌道に乗ると、複数経営を考える方もいるでしょう。手元に残った利益を積み立てて、2つめの物件の頭金として入れれば、金融機関の審査も通りやすくなります。
以上のような活用方法が考えられますが、いずれにしても家賃収入から残ったお金は生活費として使用せず、事業用資金として積み立てておくことが大切です。
まとめ
不動産投資においてキャッシュフローの黒字化がとても重要な課題であることを見てきました。そのためには家賃収入と経費支出をシミュレーションし、黒字が見込める物件を購入することが大切です。
購入して実際に経営が始まったあとも、本稿で紹介した「キャッシュフローをさらに増やす方法」や「貯まったお金の活用方法」を参考にして、黒字を維持・活用できる物件にしていく必要があります。
キャッシュフローを黒字にするためにはローン金利も大きく影響するので、少しでも低い金利で借りられる物件を選ぶことも大切なポイントです。
マンション経営で成功を収めるために、キャッシュフローを充実させてゆとりのある経営体制を目指しましょう。
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