近年、投資家の間で「ESG」と呼ばれる運用に注目が集まっています。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの頭文字から取られた外部要因と経営をより一体化させた企業戦略のことです。これまでの投資では企業の財務状況を要としていましたが、ESGでは、財務に表れることのない企業特性にも目を向けているのが特徴です。本稿では、新時代の投資戦略の一つであるESG投資について説明します。
ESG投資とは
この10年の間に投資家による企業への目線が変わりました。ただ目先で儲かれば良いというのではなく、たとえば環境破壊や第三世界からの搾取などについても着目し、これらをリスク要因として捉えることで投資対象として的確であるか否かについて判断するようになったのです。
ESG投資はこれらに対応した新しい投資手法です。企業の利益に対する視点は確保しつつも、たとえば途上国における環境対策や女性の社会進出支援、企業内コンプライアンスの遵守といった「環境・社会・ガバナンス」に寄与するものを投資基準としていることが特徴です。
ESG投資は比較的近年に始まった投資手法ですが、毎年飛躍的な伸びを見せており、2012年には約13兆ドルだった世界の運用資産が、2018年には70兆ドルにものぼっていることから、その重要性が窺えます。
ESGとSRI・CSRとの違い
ESG投資はSRI( Socially Responsible Investment:社会的責任投資)やCSR(corporate social responsibility:企業の社会的責任)と比較されることが少なくありません。ではESGはそれらとどこが異なるのでしょうか。
そもそもESG投資は比較的新しい投資手法ではありますが、SRIはそのルーツに該当します。SRIの歴史は古く、1920年代にまでさかのぼることができます。元来は欧米のキリスト教会が、教会の資産を運用するにあたって武器やギャンブルなどへ投資しないことを定めたことに由来します。
一方、SRIで排除されたものは、人間の根源的な欲望に根ざした高いリターンのものが多いため、SRIは多くの投資家からはあまり好まれない投資方針でもあったという面も否めません。
また、CSRは各企業が自発的に定めた道徳面であると言えます。このため、CSRはブランディングとしての価値向上には寄与するものの、明確なかたちで企業の財務に貢献しているわけではありません。
一方、ESGはあくまでも戦略として活用されているものであり、必ずしも社会貢献であるわけではありません。リスク要因を排除し、多くの投資家・消費者に受け入れられる安定した企業経営であることを打ち出すことで、長期的かつ持続的な成長を図る企業戦略なのです。
ESGをどう活用するか
ESGは投資家からの観点のみならず、それを経営する側にもメリットがあります。日本国内の年金運用を委託しているGPIFは2006年、投資対象としてEGSをピックアップしました。世界最大規模の投資機関であるGPIFがEGSを扱いだしたことにより、世界の機関投資家はもとより、投資対象である企業もにわかにESGに着目するようになりました。
日本においてもそれは同様です。国内においてESG経営で評価の高い企業はいくつかありますが、たとえばESG経営の国内評価でトップ3に入るアサヒグループは、2016年よりESGを中期経営方針の重点課題として採り上げるようになりました。
アサヒグループはビール等の飲料の健康価値を重視した商品開発や被災地等の地域産業の活性化、製造における水質の管理や再利用など、環境や社会と経営戦略を一体化させた経営方針を打ち出すことで、成長性と安定性を保持したビジョンを投資家に打ち出すことに成功しています。
将来的な伸びしろが期待できるESG投資
ESG投資はまだまだ成長の余地のある市場です。企業側としても、自社の強みを活かした新しい戦略を打ち出すことのできるため、検討する価値は十二分にあるでしょう。これからの時代、環境や社会と企業の戦略はより一体化していくことが予想されます。
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