

不動産投資をするのであれば、融資の活用が欠かせません。融資を購入価格のどの割合まで受けるかによって、その後の戦略が大きく変わってきます。
したがって、不動産投資の戦略を考える上で「頭金」が重要なキーワードになります。不動産投資を行うためには頭金として数百万円や数千万円貯めないといけないというイメージをお持ちの方もいますが、決してそんなことはありません。
本記事では、不動産投資の頭金の目安や、頭金が「多い・少ない」のメリット・デメリットを紹介します。あわせて不動産購入にかかる初期費用についても詳しく紹介します。
目次
1.不動産投資の頭金の目安
不動産投資を行う場合、多くの人は銀行融資を受けるでしょう。その際に必要になるのが頭金(自己資金)です。金融庁が平成31年3月に実施した「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」によると、金融機関のうち銀行の95%、信用金庫・信用組合の87%が顧客に頭金を入れさせています。
また、銀行の15%、信用金庫・信用組合の17%では頭金を絶対条件にしており、フルローン(頭金なし)では受け付けないことがわかります。
しかし、それ以外の金融機関では案件によって頭金の有無を判断しているようです。銀行で最も多い回答が「約2/3以上の案件で行っている」となっています。多くの案件で頭金を入れさせているものの、1/3はフルローンも可能なケースがあると考えられます。
では、頭金を入れるとして、どの程度の比率で入れればよいのでしょうか。マンション購入の頭金について、住宅金融支援機構が実施した「2021年度フラット35利用者調査」によると、新築・中古別の頭金(手持金)の比率は以下のように示されています。
1-1.新築マンションの場合
新築物件の頭金比率は全国平均で17.4%です。融資金は78.7%、その他の資金は4.0%となっています。融資を受けた結果、毎月の平均返済額は12万3,600円となっています。
1-2.中古マンションの場合
中古物件の頭金比率は全国平均で13.8%です。融資金は81.8%、その他の資金は4.4%となっています。融資を受けた結果、毎月の平均返済額は8万7,000円となっています。物件価格が安いことで必然的に頭金比率が低くても融資審査が通るものと考えられます。
1-3.アパートの場合
アパートの場合はどうでしょうか。アパートは一棟購入なので、購入方法は「土地を持っているオーナーが所有地に建築」(新築で建築費のみ)、「土地を購入して建築」(新築で土地代+建築費)、「既存のアパートを購入」(新築または中古)の3つがあります。
必要資金に差があるため、頭金の明確な基準がありません。不動産業界のコンセンサスも10~30%程度と開きがあります。必要資金が高額になることを考えると、マンションの頭金(価格の10~20%)よりは頭金を多めに用意したほうが融資審査は通りやすくなるでしょう。
2.頭金を用意しなくてもマンション経営は可能

マンションを購入する場合に、自宅用であっても投資用であっても自己資金100%というケースはほとんどありません。多くの人は、銀行を始めとした金融機関から融資を受けてマンションを購入します。
野村不動産ソリューションズが2021年6月に実施した「不動産投資に関する意識調査(第13回)」によると、「購入時、自己資金を何割充当しましたか」との問いに最も多かった答えが「購入価格の1割未満」(37.2%)でした。「購入価格の1~2割未満」(26.3%)がこれに続き、2割未満の頭金しか入れなかった人が全体の60%以上を占めています。
投資用マンションであれば、賃貸に出して家賃収入を獲得し、そこからローン返済を続けるというのが一般的なやり方です。
この際、頭金をいくら払うのか常に議論の的となります。頭金をたくさん払えばローンの返済額が小さくなる代わりに、貯金が一気になくなってしまい生活が苦しくなるリスクがあります。逆に頭金ゼロで物件を購入すると、自己資金を他の用途に使用できる代わりに、ローン返済額が大きくなります。
頭金の分だけ自己資金を貯めないとマンション経営ができないかというと、そんなことはありません。前出した金融庁の調査でも頭金を入れることを条件としない金融機関が銀行で5%、信用金庫・信用組合で13%と少数ですが存在します。購入した物件自体を担保としてフルローン(購入価格と同額のローン)を組むことも可能であるため、自己資金が少なくてもマンション経営をスタートできる場合があります。
もちろん頭金ゼロであればローン返済額が大きくなるため、入居者のつきやすい物件を購入することが大前提となります。そもそも入居者がつきやすく物件価値の高い物件でないと、金融機関も頭金ゼロのフルローンを承認してくれることはほぼないでしょう。
そのためにも、優良物件を確実に保有する不動産会社を選定することが重要です。初心者向けの不動産投資セミナーに参加してみたり、直接担当者に話を聞いてみたりして、質のよい物件を保有する信頼性の高い会社を選ぶようにしてください。
3.不動産投資で頭金は多く入れるべき?

不動産投資で頭金をどれくらい入れるかは迷うところでしょう。頭金を多く入れる場合と、少なくする場合のメリット・デメリットを確認しておきましょう。
3-1.頭金を多く入れるメリット・デメリット
頭金を多く入れるメリットは、毎月のローン返済額が少なくなることです。ローン返済額が少なければキャッシュフローが黒字になる可能性も高まります。また、頭金を多く入れると融資審査が通りやすくなるメリットもあります。融資金額が少なくなるので、金利上昇の影響も低減します。
頭金を多く入れるデメリットは、不測の事態に備えるお金が少なくなることです。マンション経営では空室や修繕の発生で予期せぬ出費が必要になることがあります。手持ち資金をある程度確保するには、頭金を目一杯入れることは控えたほうがよいでしょう。
3-2.頭金を少なくするメリット・デメリット
頭金を少なくするメリットは、複数物件を購入しやすくなることです。例えば、手持ち資金1,000万円の人が3,000万円のマンションを購入する場合、1,000万円すべてを頭金として入れてしまうと、1つの物件しか購入できません。
しかし、500万円の頭金で購入できれば同じ価格帯の物件をもう1つ購入することができます。分散投資になるので、片方に空室が出てももう1室は稼働しているので、空室リスクが低減します。
頭金を少なくするデメリットは、融資を受ける金額が大きくなることから、毎月の返済負担が多くなることです。返済額が多いとキャッシュフローの黒字を確保できるハードルが高くなります。また、融資審査に通りにくくなるというデメリットもあります。さらに、融資金額が多くなるので、金利上昇の影響を受けやすくなります。
4.融資条件は「属性」によって異なる

いくら融資してもらえるのかは、属性によって異なります。属性とは、具体的には職業や勤続年数、年収、資産額などの総称です。金融機関は融資条件を明示しているわけではありませんので、実際にこうした指標を判断材料にしているかどうかは確かではありません。しかしながら、ローンに申し込んだ人の信用性を判断するのに、こうした属性が有効と考えられています。
例えば、大手企業や公務員ですと倒産や収入激減のリスクが極めて小さいため、融資が通る確率が高まります。さらに勤続年数が長く、年収や資産額が多いとよいでしょう。逆に自営業者や個人事業主、中小企業の代表などの場合、地位が不安定であると判断され、審査が厳しいものとなる可能性があります。
さらに物件自体の価値も重要です。前述の通り、入居者がつきやすく価値が下がりにくいと考えられる物件であれば、担保価値も高く頭金ゼロに近い融資を受けられる可能性が高まります。
5.購入時の諸経費を考える

不動産を購入するときには、諸経費がかかってきます。購入時の諸経費としては、以下のような費用が挙げられます。
・購入代金にかかる消費税
・不動産仲介手数料
・不動産取得税
・不動産登録免許税
・不動産登記手数料
・司法書士報酬
・印紙税
・固定資産税
・火災保険料
・地震保険料 など
物件購入代金
物件購入代金は法定耐用年数によって減価償却費として毎年少しずつ経費として計上していきます。マンションは一般的に鉄筋コンクリート造(RC造)または鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)で、法定耐用年数は新築の場合47年です。
中古の場合は「償却期間=(法定耐用年数-経過年数)+(経過年数×0.2)」(法定耐用年数が終わってない場合)または「償却期間=法定耐用年数×0.2」(法定耐用年数が終わっている場合)で計算します。
物件代金にかかる消費税
物件代金のすべてに消費税がかかるわけではなく、土地部分は非課税です。したがって、税抜価格5,000万円(土地価格2,000万円、建物価格3,000万円)の物件を購入した場合の消費税は3,000万円×10%=300万円となります。
不動産仲介手数料
不動産会社に支払う仲介手数料は下表の速算式計算方法で簡単に計算できます。ただし、新築マンションを建設した不動産会社が直接販売する場合は「売主物件」となるため、仲介手数料はかかりません。
物件価格が200万円以下の場合 | 5% |
物件価格が200万円超400万円以下の場合 | 4%+2万円 |
物件価格が400万円超の場合 | 3%+6万円 |
不動産取得税
不動産取得税は不動産を取得した人に課税される税金です。納税額の計算式は、「不動産の評価額×税率4%=税額」ですが、令和6年3月31日までは3%の軽減税率が適用されます。
不動産登録免許税
不動産登録免許税は、不動産の登記をした際に課税される税金です。税率は土地と建物に分けて、下表のように定められています。

不動産登記手数料
不動産の登記事項証明書を発行するには、下表のような各種手数料がかかります。

司法書士報酬
登記手続きを司法書士に依頼する場合は、司法書士報酬の支払いが発生します。司法書士報酬の目安は下表のとおりです。
売買による所有権移転登記 | 2万2,000~15万円 |
相続による所有権移転登記 | 2万8,000~12万円 |
所有権保存登記 | 1万3,000~5万5,000円 |
抵当権設定登記 | 2万~7万5,000円 |
印紙税
印紙税は、日常の経済取引で発生する契約書や領収書などに課税される税金で、印紙を購入して契約書等に貼付する形で納税します。不動産契約書にかかる印紙税額は下表のとおりです。(領収書は契約書と異なる基準)
▽印紙税税額表(不動産契約書)
記載された契約金額 | 税額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下のもの | 400円 |
50万円を超え100万円以下のもの | 1,000円 |
100万円を超え500万円以下のもの | 2,000円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 1万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下のもの | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下のもの | 6万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 20万円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
固定資産税
不動産が売買された場合、固定資産税および都市計画税は引き渡し日の前日までを売主、引き渡し以後を買主が負担します。日割り計算となるため計算が複雑ですが、司法書士事務所のWebサイトで公開されている自動日割り計算ソフトに入力すれば簡単に算出できるので、利用するとよいでしょう。
司法書士かがやき法務サービス「固定資産税・都市計画税自動日割計算」
火災保険料と地震保険料
火災保険の加入は法律上の義務はありませんが、不動産を購入する際に融資を受ける場合は火災保険の加入が条件になるケースがあります。火災保険は火災だけでなく、台風や豪雨などの自然災害でも補償を受けられる場合があります。
また、地震保険は火災保険とセットで加入する決まりとなっているため、地震大国である日本に物件を持っている以上、両方の保険に加入しておいたほうが無難でしょう。
これらの諸経費も含めて融資でまかなうことも可能な場合があります。これをオーバーローンと呼びます。フルローンやオーバーローンが実現すれば、頭金なしでも物件を購入して不動産の運営を開始できるのです。
6.頭金が少なくても融資でカバーできる不動産投資

不動産投資の魅力は、融資を活用して効率よく資産形成を実現できる点にあります。決して頭金(自己資金)が少ないから不動産投資ができないということはなく、融資してもらいやすい物件を選ぶことで頭金の少なさを十分にカバーできるわけです。
頭金の必要額は物件形態や融資を受ける人の属性などによっても変わってきます。本記事で紹介した頭金の比率はあくまで目安でしかありません。頭金が少ないからといってマンションの購入を諦める必要はないのです。
もちろん、どんな条件でも必ず融資を受けられるとは限りません。信頼できる不動産会社を選び、入居者のつきやすい物件を購入することが重要です。頭金をコツコツ貯めることは大事ですが、まずはセミナーや個別相談などで不動産会社に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。
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