投資用不動産を購入するときに、なぜ融資期間が大事なのでしょうか。レバレッジ効果と、融資期間の重要性を考えてみましょう。
投資用不動産を購入する場合、多くの方が不動産投資ローンを利用します。ローンを組む場合、返済期間は長期と短期どちらが良いのでしょうか。また、銀行はどのような基準で融資期間を決めているのか?融資期間別のメリット・デメリットも交え、返済期間について考えます。
目次
なぜ融資期間が大事なのか
そもそも融資を受けることでレバレッジを効かせられる
少ない資金で高額な不動産を購入できるのは、レバレッジを効かせられるからです。レバレッジとは「テコの原理」のことで、少ない力で大きな効果を発揮します。
物件を購入するときに、自己資金のみの場合と、融資を受けた場合でシミュレーションしてみましょう。1つは年間家賃収入が120万円見込める3,000万円の物件を自己資金のみで購入した場合。もう1つは同じ物件を100万円の自己資金と、2,900万円を借り入れて購入した場合で比較すると下表のようになります。
レバレッジを効かせない場合 | レバレッジを効かせた場合 | |
---|---|---|
購入物件価格 | 3,000万円 | 3,000万円 |
自己資金 | 3,000万円 | 100万円 |
借入金額 | - | 2,900万円 |
年間家賃収入 | 120万円 | 120万円 |
利回り | 4% | 4% |
自己資金利回り | 4% | 120% |
※計算をわかりやすくするため、諸条件は考慮していません。イメージとしてご覧ください。
得られる家賃は同じでも、投資する自己資金が少ないため、自己資金に対する利回りは120%という数値になります。
月の返済額が少なくなる
不動産投資では月の返済額も重要になります。融資期間が短ければ総額で支払う利息は少なくなりますが、各月に支払うローン返済額は多くなります。逆に長期でローンを組むことが出来れば毎月のローン支払い額は少なくなります。
銀行はどうやって融資期間を決めているのか
銀行は融資期間をどのように決めているのか、気になる方もいるでしょう。おもに以下のような基準で判断されるといわれています。
建物の法定耐用年数が基準
融資期間を決める基準は法定耐用年数が基本になります。不動産を減価償却するときに使われるのが法定耐用年数です。金融機関は基本的に「法定耐用年数-経過年数」で融資期間を決めるといわれています。法定耐用年数は、建物の構造別に定められています。
物件の構造別の法定耐用年数
国税庁ホームページ「耐用年数(建物/建物附属設備)」で定められている、物件の構造による法定耐用年数は下表のとおりです。
構造・用途 | 細目 | 耐用年数 | |
---|---|---|---|
木造・合成樹脂造のもの | 22年 | ||
木骨モルタル造のもの | 20年 | ||
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの | 47年 | ||
れんが造・石造・ブロック造のもの | 38年 | ||
金属造のもの | 重量鉄骨 | 骨格材の肉厚が 4㎜を超えるもの | 34年 |
軽量鉄骨 | 3㎜を超え4㎜以下のもの | 27年 | |
3㎜以下のもの | 19年 |
よほど特殊な構造のマンションでない限り、最近建てられたマンションはほとんどが鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造です。したがって、法定耐用年数は47年になります。
具体的な計算例で算出する融資期間
金融機関の法定耐用年数に対する融資期間は、「法定耐用年数-経過年数」ですが、新築と中古では基準が異なります。鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造の新築マンションは耐用年数が47年ですが、「47年ローン」というのはありませんので、不動産投資ローンの場合最長35年になるのが一般的不動産投資ローンの場合最長35年になるのが一般的です。
一方中古マンションの場合は、経過年数の計算式が基準になります。築20年の鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のマンションの場合は、「法定耐用年数47年-経過年数20年=27年」が融資期間になります。
プロパーローンとアパートローン
金融機関が行っている不動産への融資方法に、プロパーローンとアパートローンがあります。一般的に知られているアパートローンは、ローンを申し込む本人の年収や借入金額に制限があり、借入期間も限定されています。
一方のプロパーローンは、各金融機関が独自に調達した資金を、金融機関がリスクを負担して貸し出しているローンで、アパートローンとは融資の基準が異なります。プロパーローンは、アパートローンのように一律の条件はありません。本人の属性や物件の収益性などは審査されますが、借入金額や借入期間の条件は個々の物件によって変わってきます。プロパーローンは保証会社を介さないため、銀行独自の審査で貸し出しが判断されるのが特徴です。
不動産投資ローンの金利について詳しく知りたい方はこちらの「金利3%の不動産投資ローン。これって高い?」も合わせてご覧ください。
融資期間を長くした場合のメリット・デメリット
返済期間の長さで何が変わるのでしょうか。長く設定した場合と短く設定した場合の違いをメリットとデメリットで比べてみましょう。はじめに、長く設定した場合のメリット・デメリットは以下のとおりです。
融資期間を長くした場合のメリット
融資期間が長くなれば月々の返済額が少なくなり、賃貸経営も安定します。
家賃収入から経費を引いて手元に残る分があれば、貯金して急な出費に備えることができます。不動産投資では経過年数によって修繕費用が発生することは避けられません。毎月の収益は生活費とは別にして、貯蓄しておく必要があります。
不動産投資が軌道に乗れば、新たな物件を購入して複数経営を考えるオーナーもおられるでしょう。収益を積み立てておけば物件購入の頭金にすることができます。そうすると2件目の物件からも収益が生まれるようになり、複利効果で資産評価額がどんどん高くなります。
ライフスタイルの変化にも注意しなければなりません。サラリーマン大家の場合、仕事の収入が減る場合もあるでしょう。そのときでも、毎月の返済額が少なければ対応していけます。
融資期間を長くした場合のデメリット
一方のデメリットは、毎月の返済額が少ない分、元本の返済が遅くなるので、利息額が増加することです。さらに、ローンに保証料がかかる金融機関では、返済期間が長いと保証料が高くなる場合があります。
もう一点、老後の生活にも影響が出る点に注意が必要です。35歳で35年ローンを組んだ場合、完済は70歳になるので、定年退職後も支払いが続くことになります。年金だけで払いきれなければ預貯金を取り崩すことになるため、ローンを組む年齢によって慎重に返済期間を設定することが大事です。
融資期間を短くした場合のメリット・デメリット
次に、融資期間を短くした場合のメリット・デメリットは以下のような点が考えられます。
融資期間を短くした場合のメリット
融資期間を短くした場合のメリットは、毎月の返済額が多くなるため、元本をはやく返済することができるので、結果的に利息の支払総額が少なくて済むことです。30歳で30年ローンを組んだ場合は60歳で完済するため、老後はローンの返済がなく生活にゆとりをもてます。金融機関によってはローンの保証料が安くなる場合もあります。
融資期間を短くした場合のデメリット
一方のデメリットは、毎月の返済額が大きくなることです。また、融資期間を短期間で組んだものは基本的に延長できないというデメリットもあります。長期間で組んだ場合は繰り上げ返済という方法がありますが、無理して短く組んだ場合は変更する方法がないことを心得ておく必要があります。
長期融資と短期融資の返済額シミュレーション
返済期間でどの程度の違いが出るのか、具体的にシミュレーションしてみます。金融機関から年利2.5%の変動金利で3,000万円の融資を受けたとします。元利均等方式で返済期間が35年の場合と25年の場合で、返済額にどれだけの違いが出るのでしょうか。今回の計算式では管理費・修繕費は含まずに考えてみます。
返済期間 | 20年 | 25年 | 30年 | 35年 |
---|---|---|---|---|
毎月の返済額 | 16万0,368円 | 13万5,690円 | 11万9,444円 | 10万8,014円 |
総支払額 | 3,848万8,277円 | 4,070万6,941円 | 4,299万9,877円 | 4,536万5,861円 |
返済期間が35年の場合 返済回数は合計420回、月々の返済額は10万8,014円、支払総額は4,536万5,861円となります。
返済期間が25年の場合 返済回数は合計300回、月々の返済額は13万5,690円となり、支払総額は4,070万6,941円です。
返済期間25年の場合、支払総額が35年の場合と比べて少なく、お得に感じられるかもしれませんが、例えば手取りの家賃収入が10万円と想定した場合、毎月の持ち出しが8,014円(10万円-10万8,014円)か、3万5,690円(10万円-13万5,690円)かと考えてみると、返済期間を長期で設定するメリットも見えてくるのではないでしょうか。
金利を下げるのと、融資期間を短縮するのはどっちが有利か?
金利を下げるのと、融資期間を短縮するのはどっちが有利なのでしょうか。具体的にシミュレーションして比較してみましょう。3,000万円を金利2.5%、ボーナス払いなし、返済期間35年で借りた人が、金利を0.5%下げた場合と、返済期間を10年短縮した場合の返済額の差をみてみます。
金利を下げた場合 | 融資期間を短縮した場合 | |
---|---|---|
借入額 | 3,000万円 | |
借入金利 | 2.5% | |
返済期間 | 35年 | |
毎月返済額 | 10万8,014円 | |
総元利金返済額 | 4,536万5,861円 | |
金利変更後 | 融資期間変更後 | |
借入金利 | 2.0% | 2.5% |
返済期間 | 35年 | 25年 |
毎月返済額 | 10万0,006円 | 13万5,690円 |
総元利金返済額 | 4,200万2,320円 | 4,070万6,941円 |
金利を0.5%下げた場合
金利を0.5%下げると毎月の返済額は8,008円減少します。それほど大きく減るわけではありません。しかし、総返済額は約336万円と大幅に減らすことができます。
融資期間を10年短縮した場合
融資期間を35年から25年に10年短縮した場合、毎月の返済額は2万7,676円と大きく増加しますが、総返済額は35年返済のパターンと比較すると、約465万円の削減となります。
金利を下げるよりも、融資期間を短縮した方が毎月の返済額は増加するものの、トータルでの支払い金額は大きく削減することが出来ます。
金利は個人の希望で変更することは難しいですが、返済期間は変更できる可能性があります(変動金利の場合)。各個人の資産背景の応じて、毎月の支払額を減少させるのか、総返済額を削減するのか、変えることができるのもメリットといえます。
長期融資を引き出すポイント
長期融資を引き出すポイントは、金融機関に「この人なら貸しても大丈夫」という信頼を得ることです。そのためのポイントがいくつかあります。
まず1つは返済能力です。属性と呼ばれる借り手のプロフィールが良好であることが大事です。勤務先、勤続年数、年収、現在の資産残高、ほかに借金がどれくらいあるかといった点が審査の対象になります。
返済が滞ったとき、回収が可能かどうかも重要なポイントです。ローンを組んでいる金融機関にある程度まとまった預金があれば、信用度が高くなります。
もう一点、金融機関は人柄もよくみていることを忘れてはなりません。資金管理がルーズな人と思われるのはマイナスです。毎月の口座引き落としで延滞しないように、残高は常に余裕を持って用意しておくなどの日ごろの努力が求められます。
返済期間は長期を選ぶべき
さらに10年間は35年、金利2,5%で返済し、300万円を繰り上げ返済した場合のシミュレーションが下記となります。
35年で融資を組んだ場合 | |
---|---|
借入額 | 3,000万円 |
借入金利 | 2.5% |
返済期間 | 35年 |
毎月返済額 | 10万8,014円 |
総元利金返済額 | 4,536万5,861円 |
11年目に300万円を繰り上げ返済した場合 | |
毎月返済額(11年目以降) | 9万4,445円 |
総元利金返済額 | 4,129万5,167円+繰り上げ返済金300万=4,429万5,167円 |
繰り上げ返済金額300万円と総元利金返済の合計は4,429万5,167円と約107万円ほどの削減になります。また、毎月の返済金額は9万4,445円と圧縮することができます。
ここまで、返済期間が長い場合と短い場合の違いを、メリット・デメリットや簡単なシミュレーションによる金額の違いも交えてみてきました。
老後資金とする場合は長期保有が前提
不動産投資の目的を「老後資金の準備」と考えた場合、長期保有が前提となります。そのため、返済期間を長くして月々の返済額を低くし、負担を減らしながらコツコツ続けていけることは大きなメリットとなるでしょう。現在のような低金利の場合、このメリットはより大きくなります。
確かに返済期間が長いと、金利の支払総額は増加します。ただ、そうして生まれた余裕こそが長く不動産投資を続けられる秘訣ともいえます。
投資物件とする場合は月々の返済額に余裕をもたせる
投資物件を取得する場合、ローンの返済期間は可能な範囲で長期に設定し、月々の返済額に余裕をもたせることが、投資活動としてもリスクヘッジの観点からも好ましいといえます。
自由度が上がるので、不動産以外の資産運用に取り組むこともでき、ライフスタイルに変化があった場合でも対応できます。その上で、ボーナスなどで十分な余裕ができた場合に、繰り上げ返済を行い、金利負担を軽減するというのが理想です。
とくに初めてマンション経営を行うオーナーにとっては、やはりデビューはきれいな新築物件でスタートしたいという思いもあるでしょう。そのためにも返済期間を長めにし、月々の支払額を抑えて余裕のある経営を目指すことが望ましいといえそうです。
融資期間に関するQ&A
それでは最後に融資期間に関する疑問を確認しておきましょう。
Q1.融資を受けることが大切なのはなぜですか?
A.以下の理由があげれます。
・レバレッジが効かせられる
レバレッジとは小さな力で大きなものを動かす「てこの原理」のことをいいます。自己資金だけでなく、金融機関から融資を受けることで、自己資金に対する利回りが高くなります。
Q2.金融機関はどのようにして融資期間を決めているのですか?
A. 金融機関が融資期間を決める際、基準としているのが「法定耐用年数」です。詳しくは第2章の「2.銀行はどうやって融資期間を決めているのか」をご覧ください。
Q3.融資期間が長くした場合のメリット・デメリットを教えてください
A.融資期間を長くした場合のメリットは以下の通りです。
●メリット
・月々の返済額が少なくなる
・手元に残ったお金を預金や急な出費に回せる
・手元に残ったお金を新たな物件の購入にあてられる
●デメリット
・利息が高くなる
・ローン保証料が高くなる
・老後もローンを払い続ける可能性がある
詳しくは第3章の「3.融資期間を長くした場合のメリット・デメリット」をご覧ください。
ちなみに融資期間を短くした場合のデメリットは以下の通りです。
●メリット
・月々の返済額が多くなるが元本をはやく返済することができる
・支払総額が少なくて済む
・ローンの保証料が安くなる
●デメリット
・月々の返済額が多くなる
・融資期間の延長が基本的にはできない
詳しくは第3章の「4.融資期間を短くした場合のメリット・デメリット」をご覧ください。
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