
これまで定期預金は元本保証という安心感から、堅実な資産の預け先として多くの人に利用されてきました。しかし、長引く低金利と物価上昇の影響により、「定期預金はおすすめしない」と言われることも増えています。
本記事では、「定期預金はおすすめしない」と言われる理由と、あなたのお金を「守り」「育てる」ための具体的なアクションプランを解説します。
目次
「定期預金はおすすめしない」と言われる3つの理由

なぜ、あれほど「安全・確実」と言われた定期預金が、今では「おすすめしない」と言われるようになったのでしょうか。その背景には、無視できない3つの本質的な理由があります。
理由1:資産価値が目減りする「インフレ負け」のリスク
定期預金が敬遠される理由の一つは、インフレに対抗できないことです。物価が上がると、お金の価値(購買力)は目減りしていきます。例えば、昨年まで100円で買えたものが、今年は110円必要になるような状況です。
実際、総務省の「2020年基準 消費者物価指数 全国2025年(令和7年)5月分」によると、2025年5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で+3.5%、コアCPIも+3.7%と、物価上昇が続いています。一方で、大手銀行の1年定期預金金利は、2025年7月現在でおおむね年0.275%前後にとどまっています。物価は年間で3%以上上昇しているのに、預金金利は0.3%にも満たないというのが実情です。
仮に100万円を定期預金に預けたとしても、1年間で得られる利息は税引後で2,000円程度にすぎません。にもかかわらず、生活コストは3万円以上増えている可能性があるのです。
理由2:お金が育たない「複利効果」の欠如
定期預金では、資産を効率よく増やすために重要な「複利効果」をほとんど享受できません。複利とは、元本だけでなく運用によって得られた利益にも再び利益が生じることで、資産が加速度的に増えていく仕組みです。長期的な運用においては、この複利の力が資産形成の成否を大きく左右します。
しかし、定期預金のような超低金利の商品では、得られる利息がごくわずかなため、複利の恩恵をほとんど実感できません。利息がわずかである以上、そこから再び得られる利益も微々たるものであり、長期間預け続けても資産の増加効果は極めて限定的です。
このように、時間を味方につけて資産を「育てる」ことが難しい点も、定期預金はおすすめしないと言われる理由の一つとなっています。
理由3:急な出費に対応しづらい「流動性の低さ」
定期預金は、一定期間お金を引き出さないことを前提とした預け入れ方式であり、緊急時であっても原則としてすぐに引き出すことはできません。
急な出費が発生した場合には中途解約も可能ですが、銀行窓口やインターネットバンキングでの手続きが必要となり、すぐに資金を確保するのは難しいのが実情です。さらに、満期前に解約した場合は、当初の金利が適用されず、普通預金と同程度かそれ以下の低い「中途解約利率」で利息が計算されてしまいます。
このように、いざというときに使いにくく、解約しても金利の恩恵が得られない点も、定期預金がおすすめしないと言われる理由です。
定期預金にもメリットはある

ここまで定期預金のデメリットを見てきましたが、もちろんメリットも存在します。一方的に否定するのではなく、長所と短所を正しく理解し、自分の目的に応じて使い分けることが大切です。
「絶対的な安全性」と「確実に貯められる仕組み」
定期預金の最大の強みは、何といってもその「安全性」にあります。まず、元本保証があるため、預けたお金が原則として減ることはありません。株式や投資信託などのように元本割れのリスクを心配する必要がなく、資産を安心して預けておける選択肢といえます。
さらに、預金保険制度(ペイオフ)の対象となっており、仮に金融機関が破綻した場合でも、1金融機関あたり元本1,000万円とその利息までが保護される仕組みです。
もう一つのメリットは、「手を付けにくいことによる貯蓄効果」です。定期預金は満期まで引き出しにくいため、それが逆に浪費を抑える働きを持ちます。簡単に使えないことで、強制的にお金を貯める環境が整い、貯金が苦手な人でも目標額まで着実に積み立てやすくなります。
参考:預金保険制度(金融庁)
定期預金が向いているのは「使う目的と時期が明確な人」
では、どのような人が定期預金を使うべきなのでしょうか。それは、「使う目的」と「使う時期」が明確に決まっているお金を、安全に確保しておきたい人です。
【定期預金の活用が向いているケースの具体例】
- 1年後の結婚式の費用:300万円
- 3年後の自動車購入の頭金:100万円
- 5年後の子供の大学入学金:200万円
使う時期が決まっていて、減っては困るお金は、値下がりのリスクを避けて安全に保管することが重要です。多少の物価上昇リスクを許容できるのであれば、定期預金は有力な選択肢の一つといえます。
3分類で考える、目的別マネープラン

ここまで見てきたように、定期預金は「守る」ことには優れていても、「育てる」ことにはあまり向いていません。では、今の時代にお金を適切に管理し、将来に向けて賢く増やしていくには、どうすればよいのでしょうか。
その答えは、お金を目的ごとに分けて管理することにあります。一つの財布にすべてを入れてしまうのではなく、それぞれの役割に応じて使い道を明確にすることで、無駄なく、計画的にお金を活かせるようになります。
生活防衛資金:不測の事態に備える「いつでも使えるお金」
病気やけが、失業、自然災害など、予期せぬ出来事は誰にでも起こり得ます。こうした不測の事態に備えて、すぐに引き出せるお金を確保しておくことが、精神的な安心につながります。
このお金には、増やすことよりも流動性と安全性が求められます。多少金利が低くても、すぐに使える状態にしておくことが重要です。
役割:緊急時に生活を守るための資金
目安金額:生活費の3ヵ月〜1年分程度
ライフイベント資金:使う時期が明確な「目的のお金」
結婚、車の購入、子どもの進学など、将来的に発生することが確実な支出は、あらかじめ計画的に備えておく必要があります。
このようなお金は、タイミングを逃さずに使えることが最優先であり、元本が確実に守られる手段で準備するのが理想です。リスクのある運用で資金を減らしてしまっては、せっかくの計画が台無しになってしまいます。
役割:将来予定されているイベントに備える資金
目安金額:イベントに応じて必要額から逆算して設定
余裕資金:当面使う予定のない「長期で増やすお金」
生活防衛資金とライフイベント資金を準備したうえで、当面使う予定のないお金があれば、それは将来のために「育てていく」ことができます。
こうしたお金は、インフレの影響を避けるためにも、運用によって収益性と複利効果を狙うことが効果的です。短期的な値動きに一喜一憂する必要はなく、コツコツと積み立てることが成功への近道になります。
役割:将来のために増やしていく資金
目安金額:10年以上使う予定のない資金
3分類したお金の「最適な置き場所」

続いて、3つに分類したお金の最適な置き場所を考えていきましょう。目的が違えば、最適な置き場所も当然変わってきます。
「生活防衛資金」と「ライフイベント資金」の置き場所
この2つの資金は「守る」ことが目的です。したがって、置き場所は安全性が絶対条件となります。
資金の種類 | 最適な置き場所 | 理由 |
---|---|---|
生活防衛資金 | 普通預金(金利の高いネット銀行など) | 即座に引き出せることが最優先。ATMやネット送金で対応可能な場所が安心。 |
ライフイベント資金 | 定期預金/個人向け国債 | 元本保証が必須。定期預金よりも金利の高い個人向け国債も有力な選択肢。 |
「余裕資金」の置き場所
ここからが資産形成の本番です。「増やす」ことを目的とする余裕資金は、投資の世界に足を踏み入れることになります。初心者の方が無理なく始められるよう、リスクの低いものから順に「リスク階段」として3つのステップを紹介します。
ステップ①:個人向け国債(変動10年)
「投資はまだ怖い。でも、定期預金のままでは物足りない」という方にとって、個人向け国債(変動10年)は非常に良いスタート地点になります。
- 元本保証付きで、国が利子と元本の支払いを保証
- 半年ごとに金利見直しがあり、将来的に金利が上昇すれば受け取れる利子も増加
- 1年経てば中途換金可能(※直近2回分の利子相当額を差し引き)
限りなく預金に近い感覚で、わずかでも「利回り」を求めたい人に最適な選択肢です。
ステップ②:投資信託(インデックスファンド)
投資信託は、資産運用のプロが自分に代わって複数の銘柄に分散投資してくれる仕組みで、初心者でも世界中の株式や債券に広くアクセスできるのが最大の魅力です。
なかでも「インデックスファンド」は、日経平均株価やS&P500などの指数に連動するように設計された低コスト型の投資信託で、長期的な資産形成に適しているといえます。
【NISAで非課税メリットを最大化】
投資信託を始める際に、ぜひ活用したいのがNISA(少額投資非課税制度)です。通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、NISA口座を通じて投資すれば、運用益や配当金が非課税で受け取れるため、資産形成の効率が大きく向上します。
特に長期的な資産形成を目指す場合、「税金がかからない」という仕組みは、複利効果をより大きく引き出すために非常に有利な条件となります。また、NISAは国が用意した制度ということもあり、制度の信頼性が高く、初心者にも取り組みやすいのが魅力です。対象ファンドも厳選されており、無理なリスクを取らずに、安定的に資産を増やす道筋が整っています。
ステップ③:J-REIT、株式、現物不動産など
投資に慣れてきたら、さらにリスクとリターンの幅を広げた方法にチャレンジするのも一つの手です。
投資対象 | 想定利回り | メリット | 注意点 |
---|---|---|---|
J-REIT(不動産投資信託) | 約3〜5% | ・不動産に手軽に分散投資できる ・安定した配当収入を得やすい |
・市況や金利の影響を受ける ・分配金が保証されているわけではない |
個別株式投資 | 0〜10%以上(幅が大きい) | ・成長企業なら大きな値上がり益も ・銘柄を選ぶ楽しみがある |
・企業ごとのリスクが大きい ・情報収集や勉強が欠かせない |
現物不動産投資 | 約3〜8% (物件次第) |
・家賃収入による安定的なキャッシュフロー ・売却によるキャピタルゲインも狙える |
・初期費用やローンの負担が大きい ・空室リスク・修繕リスクを伴う |
・J-REIT(不動産投資信託)
J-REITは、複数の商業施設やマンション、物流倉庫などに分散して投資する仕組みのため、1物件ごとの価格変動に振り回されにくいのが特徴です。通常の不動産投資とは異なり、証券口座から株式と同じように売買できるため、流動性が高く、少額から始められるというメリットもあります。また、決算ごとに分配金が得られるので、安定したインカムゲイン(収入)を重視する人に向いています。
・個別株式投資
個別株は、自分で企業を選び、その企業の業績や将来性に直接ベットするスタイルです。指数連動型のファンドとは異なり、当たり外れの差が大きく、利益も損失もすべて自己責任で受け止める必要があります。その一方で、長期的に成長が期待される企業に早期に投資できれば、大きなリターンが得られる可能性もあります。企業分析が好きな人や、自ら情報を集めることに積極的な人に向いています。
・現物不動産投資
現物のマンションやアパートを購入して賃貸に出すことで、家賃という実収入を得ることができるのが最大の特徴です。管理会社に運営を委託すれば手間は抑えられますが、現物資産である以上、流動性の低さや突発的な修繕、空室といったリスクは避けられません。また、管理会社との連携や税務対応など、資産運用というより事業経営に近い側面もあります。投資というより「運用力」が問われる分野といえるでしょう。
インフレ時代に強い「実物資産」として、不動産が再注目されている

先に紹介した投資方法のなかでも、インフレ局面で強さを発揮するとされているのが「現物不動産」です。インフレが進むと、現金の実質的な価値は目減りしますが、不動産は物価上昇にあわせて価格が上がりやすく、資産価値が維持されやすいといわれています。
さらに、賃貸物件であれば、家賃収入も物価に連動して増加が見込めるため、安定したインカム収入を確保しながら、資産全体の価値を守る役割も期待できます。
こうした特性から、インフレ下では「将来的に現金の価値が下がること」を見越して、長期的に保有できる投資先として不動産を選ぶ動きが多く見られるようになります。不動産は、資産を守りながら育てるという両面の機能を備えた、現代に合った実物資産といえるでしょう。
お金の将来の価値を守るには「置き場所の見直し」が鍵

定期預金は、確かに安全性という点では優れた選択肢です。しかし、物価が上がり続ける現在の環境では、ただ「預けるだけ」ではお金の価値が目減りしてしまう可能性もあります。
大切なのは、お金の役割に応じて適切な場所に置き直すことです。すぐ使うお金や使う時期が決まっているお金は流動性・安全性重視で、当面使わないお金は将来に向けてしっかり「育てる」。そうしたバランスの取れた考え方が、これからの資産管理には欠かせません。
インフレに備える意味でも、「現金一択」から一歩踏み出して、実物資産や非課税制度を活用した投資へ視野を広げていくことが、資産を守り、将来に安心をもたらす確かな一歩になるはずです。
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