
アッパーマス層は、資産形成を考えるうえで一つの目標とされる世帯層です。この記事では、アッパーマス層の特徴やアッパーマス層を目指すためのアプローチなどについて解説します。
目次
1.アッパーマス層とは?

アッパーマス層とは、野村総合研究所が定義する資産階層の一つで、世帯単位で見た純金融資産保有額が3,000万円以上5,000万円未満の層を指します。
純金融資産保有額とは、預貯金や株式、債券、投資信託、一時払い生命保険、年金保険といった金融資産の合計額から負債を差し引いた額のことです。同研究所はこの純金融資産保有額を基準に、日本の世帯を以下の5つの階層に分類しています。
・超富裕層(5億円以上)
・富裕層(1億円以上、5億円未満)
・準富裕層(5,000万円以上、1億円未満)
・アッパーマス層(3,000万円以上、5,000万円未満)
・マス層(3,000万円未満)
アッパーマス層はこの中で下から2番目にあたり、最も世帯数が多いマス層(純金融資産保有額3,000万円未満)のすぐ上に位置します。
1-1.日本のアッパーマス層の割合
野村総合研究所が行った調査によると、2023年の日本における各層の世帯数は以下のようになっています。
【5つの階層別に見た世帯数】
階層 | 世帯数 | 割合 |
---|---|---|
超富裕層 | 11万8,000世帯 | 0.21% |
富裕層 | 153万5,000世帯 | 2.76% |
準富裕層 | 403万9,000世帯 | 7.25% |
アッパーマス層 | 576万5,000世帯 | 10.35% |
マス層 | 4,424万7,000世帯 | 79.43% |
総世帯数約5,570万4,000世帯のうち、アッパーマス層に該当するのは576万5,000世帯です。これは、全体の約10.35%にあたり、およそ10世帯に1世帯がアッパーマス層に属するという計算になります。
同調査によると、超富裕層・富裕層が増加の一途を辿り、準富裕層も「いつのまにか富裕層」になっていると指摘されています。一方でアッパーマス層は減少していますが、アッパーマス層から準富裕層や富裕層に昇格した割合が多いと考えられます。
このようにアッパーマス層はお金持ちの入口としても捉えられ、NISAなどが一般化するなかで資産をどのように増やしていくかの戦略やポートフォリオが差を生む要因となっています。
参照:野村総合研究所、日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆円と推計(株式会社野村総合研究所)
2.アッパーマス層の職業

純金融資産保有額が3,000万円以上5,000万円未満とされるアッパーマス層には、どのような職業の人が多いのでしょうか。ここでは、代表的な3つのタイプを紹介します。
2-1.インカムリッチ・プロフェッショナル
アッパーマス層には、高い専門性を活かして高収入を得ている「インカムリッチ・プロフェッショナル」が多く見られます。
弁護士、公認会計士、税理士といった難関資格を持つ専門職や、開業医などがその代表例です。また、トップアスリートや人気芸能人も、その才能や実績によって高収入を得ていることが多く、大手企業の役員などもこの層に含まれます。
ただし、どれだけ年収が高くても、資産として蓄積されなければアッパーマス層には到達できません。高所得になるほど税負担が重くなり、生活水準の上昇に伴って支出も増える傾向があります。収入を計画的に管理し、一部を着実に貯蓄や投資に回すといった工夫と行動が求められます。
2-2.給与以外の収入源がある人
アッパーマス層の中には、給与以外の収入源を持っている人も少なくありません。たとえば、親から受け継いだ不動産や、自ら取得した物件からの家賃収入によって、毎月安定した収入を得ているケースがあります。
また、株式の配当金や投資信託の分配金など、金融資産からの収益も資産形成に貢献します。これらはいずれも、長期的な運用によって得られる「インカムゲイン」と呼ばれるものです。
さらに最近は、副業を通じて本業以外の収入を得る人も増えています。本業のスキルを活かしたコンサルティング、ブログや動画配信による広告収入、週末起業など、収入を得る手段が多様化しているのも特徴です。
このように、収入源を複数持つことは、資産を増やすだけでなく、収入の安定やリスク分散にもつながります。アッパーマス層を目指すうえでも、有効な手段の一つといえるでしょう。
2-3.起業家
起業家も、アッパーマス層に多く見られるタイプの一つです。会社員とは異なり、事業が軌道に乗れば収入に上限はなく、役員報酬や自社株の価値上昇などを通じて、大きな資産形成につながる可能性があります。
一方で、経営には常にリスクが伴います。事業が順調に見えても、景気の変動や競合の台頭といった外的要因によって、収益が不安定になることは珍しくありません。また、得られた利益の多くが事業の成長や維持のために再投資されることも多く、経営者個人の資産としてすぐに蓄積されるとは限らないのが実情です。
そのため、アッパーマス層に属する起業家の多くは、事業の拡大と並行して、収益の一部を個人の資産形成にも充てる意識を持っています。こうした取り組みが、経営の不確実性に備えながら、安定的に資産を積み上げる手段となっているのです。
3.アッパーマス層に近づくポイント

アッパーマス層には高収入の職業や起業家が多く見られますが、それだけが道ではありません。収支の管理や資産運用など、日々の行動を積み重ねることで、誰でも着実に近づくことができます。
3-1.現状を把握し資産を減らさない
アッパーマス層を目指す第一歩は、自分の現在地を把握することです。毎月の収入と支出、保有資産(預貯金、株、保険など)と負債(ローンなど)を洗い出し、純金融資産がどのくらいあるのかを明確にしましょう。
あわせて、資産を減らさない工夫も大切です。特に、家賃や通信費、サブスクリプションなどの固定費は、一度見直すことで、継続的な支出削減につながります。食費や交際費といった変動費も、あらかじめ予算を決めておくことで、無駄を抑えやすくなります。
さらに、病気やケガ、失業など、予期せぬ支出にも備えておきたいところです。生活費の3〜6ヵ月分を生活防衛資金として確保し、公的保障では足りない部分を民間保険で補うなど、リスクへの備えも重要です。
資産を増やす前に、まずは「減らさない」ことを意識し、家計の土台を安定させることがアッパーマス層への確かな一歩となります。
3-2.目標を設定し資産を増やす
資産を増やしていくためには、明確な目標を持つことが欠かせません。漠然と「お金を増やしたい」と考えるのではなく、「いつまでに、いくらの純金融資産を築きたいのか」を具体的に設定することで、日々の行動に意味と方向性が生まれます。たとえば「10年後に3,000万円」というように、金額と期限をセットで考えるのがポイントです。
目標が明確になれば、その達成に向けて取るべき行動も見えてきます。収入を増やすためにスキルアップや副業を検討する、支出を見直して無駄を減らすなど、取り組む内容が具体化されていきます。収支のバランスを見直し、資産形成に回せる余剰資金を少しずつ増やしていく意識が大切です。
また、目標を可視化して進捗を確認することも、モチベーションの維持につながります。定期的に状況を振り返りながら、無理のないペースで行動を積み重ねていくことが、資産を着実に増やす近道です。
3-3.資産運用のプロに相談する
資産形成や投資に不安がある場合は、専門家に相談するのも有効な選択肢です。相談相手としては、ファイナンシャル・プランナー(FP)、IFA(独立系ファイナンシャル・アドバイザー)、銀行や証券会社の担当者などが挙げられます。
FPはライフプラン全体を踏まえたアドバイスを得意とし、IFAは中立的な立場から幅広い商品を提案できるのが強みです。一方、金融機関の担当者は、自社商品に詳しく、サービス内容や手続き面でのサポートを受けやすいという利点があります。
こうした専門家に相談することで、自分では気づきにくい選択肢を知ることができ、情報収集の手間を減らすことにもつながります。
ただし、提案をそのまま受け入れるのではなく、自分自身で手数料や商品の仕組みをしっかり確認し、必要に応じて複数の意見を比較することが大切です。最終的な判断はあくまで自分で行うという意識が、納得のいく資産形成につながります。
4.アッパーマス層になれば早期リタイアできる?

アッパーマス層は、日本で最も多いマス層と比べて、生活にゆとりのある世帯といえます。一時的に収入が途絶えても、すぐに家計が厳しくなる心配は少なく、ある程度の安心感があります。
とはいえ、この段階で早期リタイア(FIREなど)を実現できるかというと、多くの人にとってはまだ難しいのが現実です。働かずに暮らし続けるには、毎年の支出を運用益だけでまかなう必要がありますが、それには、より多くの元本が求められます。
そのため、アッパーマス層に到達した後も、多くの人は一定のゆとりを保ちつつ、働きながら資産をさらに積み上げる道を選んでいます。経済的な自由に近づくうえで大きな通過点ではありますが、完全なリタイアを見据えるには、もう一段上の資産水準が必要になるでしょう。
5.リスク許容度別、資産運用法

アッパーマス層を目指すうえで、資産運用は有効な手段の一つです。ただし、どこまでリスクを取れるかは人によって異なります。ここでは、リスクを「低」「中」「高」の3段階に分けて、それぞれ代表的な運用方法を紹介します。
5-1.リスク「低」の資産運用法
安定性を重視したい人には、リスクを抑えた運用方法が向いています。代表的なのが、「積立投資」です。毎月一定額を投資することで、購入時期が分散され、相場の変動による影響を和らげられます。
投資先としては、国内外の株式や債券を組み合わせた「バランス型投資信託」が選ばれることが多く、「つみたてNISA」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などの制度を活用すれば、非課税などの税制メリットも得られます。
元本保証はないものの、長期で資産を育てたい人や投資初心者にとって、はじめやすい選択肢といえるでしょう。
5-2.リスク「中」の資産運用法
ある程度の価格変動を受け入れながら、より高いリターンを目指したい人には、中リスクの投資が適しています。たとえば「個別株投資」は、企業の成長性や業績を見極めて銘柄を選び、株価の上昇益を狙う方法です。配当金や株主優待などを目的とした長期保有も選択肢となります。
また、「不動産投資」も中リスクの資産運用に分類されます。賃貸物件から家賃収入を得たり、物件の売却による利益を狙ったりと、収益の柱が複数あるのが特徴です。一方で、空室や家賃の下落、修繕費の発生、資産価値の下落といったリスクも存在します。初期費用が大きく、一定の知識や管理の手間も必要です。
ただし、管理会社に運営を委託すれば、物件管理や入居者対応といった手間を減らすことができます。ローンを活用すれば、自己資金を抑えて投資を始めることも可能です。リスクを理解し、計画的に取り組めば、比較的安定した収益が見込める投資といえるでしょう。
5-3.リスク「高」の資産運用法
高いリターンを狙いたい人には、ハイリスクの資産運用という選択肢もあります。ただし、大きな損失を被る可能性もあるため、慎重な判断が必要です。
代表例は「FX(外国為替証拠金取引)」です。為替の変動を利用して利益を狙いますが、レバレッジをかけることで少ない元手で大きな取引ができる反面、損失も拡大しやすくなります。「暗号資産(仮想通貨)」への投資も高リスクに分類されます。ビットコインなどは短期間で大きく値が動くこともありますが、同時に急落リスクも伴います。
こうした投資は、専門的な知識や経験、迅速な判断力が求められるため、資産の一部にとどめるなど、リスク管理を徹底することが欠かせません。初心者にはおすすめしにくい選択肢です。
6.忙しい会社員には不動産投資がおすすめ

資産運用にはさまざまな方法がありますが、安定した収入があり、日中は本業に専念している会社員には、不動産投資がおすすめです。
6-1.不動産投資で利益を得る仕組み
不動産投資で得られる利益は、大きく分けて「インカムゲイン」と「キャピタルゲイン」の2つがあります。
インカムゲインとは、マンションやアパートなどの物件を賃貸に出すことで得られる家賃収入のことです。家賃からローン返済や管理費、修繕積立金、固定資産税などの経費を差し引いた残りが実際の利益となります。入居者を安定して確保できれば、継続的な収入が見込める点が魅力です。
キャピタルゲインは、不動産を購入時より高い価格で売却した場合に得られる差益を指します。物件の立地や将来性を見極めて購入することが重要ですが、市況の変化によって価格が下落するリスクもあるため、慎重な判断が求められます。
また、多くの人は不動産の購入にあたって金融機関から融資を受けます。これにより、少ない自己資金で大きな投資が可能になる「レバレッジ効果」が期待できます。ただし、ローン返済や金利上昇などのリスクもあるため、インカムゲインを軸にしながらキャピタルゲインも視野に入れた資金計画が重要です。
6-2.不動産投資が会社員に向いている理由
会社員には、安定した給与収入があるという強みがあります。この「安定性」は金融機関からも評価されやすく、ローンを組んで物件を購入する際に有利に働きます。少ない自己資金からでも投資を始めやすいのは、大きなメリットといえるでしょう。
また、たとえ一時的に空室が出たり、家賃収入が下がったりしても、本業の収入でカバーできるため、資金面でのリスクを抑えやすいのも会社員ならではの強みです。
「忙しくて運用なんてできないのでは」と思うかもしれませんが、実際の管理業務は管理会社に任せることができます。入居者対応や修繕の手配なども代行してもらえるため、本業を続けながら無理なく不動産投資を行うことが可能です。
さらに、ローン契約時には団体信用生命保険(団信)に加入するのが一般的です。万が一のときにはローン残債が保険で支払われるため、家族に無借金の不動産を残すことができるという安心感もあります。
7.アッパーマス層への道は、堅実な資産形成から

アッパーマス層を目指すためには、収入の高さだけでなく、お金の使い方や増やし方にも意識を向けることが大切です。まずは日々の支出を見直し、無駄を減らすことから始めましょう。そのうえで、無理のない範囲で資産運用を取り入れていけば、少しずつ資産を積み上げていくことが可能です。
投資に不安がある場合でも、積立投資やNISA、iDeCoといった制度を活用することで、リスクを抑えながら長期的に安定した資産形成を目指すことができます。また、不動産投資も選択肢の一つです。安定収入が見込めるうえ、会社員であれば融資を受けやすく、物件管理を専門会社に任せることで日常的な負担も抑えられます。
大切なのは、できることを少しずつ継続する姿勢です。派手な成功を追い求めるのではなく、自分のペースで着実に資産を築いていく。この積み重ねが、アッパーマス層への現実的な一歩になります。
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