「今、賃貸アパートに住んでいるけど、固定資産税って私も払う必要があるの?」
「これからアパート経営を始めたいけど、オーナーになると固定資産税って一体いくらかかるんだろう?」
「賃貸」と「固定資産税」というキーワードには、このように【借主(入居者)】と【貸主(オーナー)】、それぞれの立場からの切実な疑問が隠されています。
この記事では、両方の疑問を解決するために、まず「誰が払うのか」という根本的な疑問を解消、その上で、特に不動産オーナーやこれからオーナーを目指す人に向けて、賃貸経営を成功させるために不可欠な固定資産税の計算方法、強力な軽減措置、そして経費計上による節税テクニックまで、必須知識を徹底的に解説します。
目次
【結論】賃貸物件の固定資産税を支払うのは誰?借主と貸主の負担義務
読者の皆様が最も知りたいであろう「賃貸物件の固定資産税は、結局誰が払うのか?」という疑問に、それぞれの立場から明確にお答えします。
【借主(入居者)向け】固定資産税を支払う必要は一切ありません
アパートやマンションの入居者(借主)が固定資産税を直接支払う義務は一切ありません。
なぜなら、固定資産税は「その年の1月1日時点での不動産の『所有者』」に対して課税される税金だからです。入居者はあくまで物件を「借りている」だけであり、「所有者」ではないため、納税義務者にはなりません。
ただし、オーナー(貸主)が支払う固定資産税は、物件の維持管理コストの一部なので、支払っている家賃には、固定資産税の負担分が間接的に(コストとして)含まれていると考えることはできます。
【貸主(オーナー)向け】支払い義務はすべて所有者であるオーナーにあります
前述の通り、納税義務は1月1日時点の所有者、つまりオーナー(貸主)にあります。
固定資産税は、賃貸経営における非常に大きなランニングコストの一つです。この税金の仕組みを正しく理解しているかどうかが、賃貸経営の収益性を大きく左右します。
ここからは、物件の所有者であるオーナー、またこれからオーナーを目指す人に向けて、賃貸経営における固定資産税の必須知識を徹底的に解説します。
【オーナー向け】そもそも固定資産税・都市計画税とは?基本を再確認
不動産オーナーにとって、固定資産税は家賃収入から毎年必ず出ていく経費です。まずは、その基本的な仕組みを正確に再確認しましょう。
固定資産税とは?
固定資産税とは、土地や建物(家屋)などの固定資産を所有していることに対して課税される税金です。
- 納税義務者:毎年1月1日時点の所有者
- 課税対象:土地、家屋(および償却資産)
- 納付先:物件が所在する市町村(東京23区の場合は東京都)
- 納税時期:年4回(6月、9月、12月、2月など)に分けて納付するのが一般的
毎年4月~6月頃に、自治体から「納税通知書」が送られてくるので、それに基づいて納付します。
都市計画税とは?
固定資産税とセットで請求されることが多いのが「都市計画税」で、これは、道路や公園、下水道などの都市計画事業や土地区画整理事業の費用に充てるための税金です。
ただし、課税されるのは物件が「市街化区域内」にある場合のみです。「市街化区域外」の物件(例:郊外や田舎の土地)にはかかりません。税率の上限は0.3%と定められています。
賃貸物件の固定資産税はいくら?計算方法を4ステップで完全ガイド
一番気になるのは、「結局、いくら払うの?」ということでしょうが、その疑問に答えるため、税額の計算方法を4つのステップに分けて解説します。
ステップ1:「固定資産税評価額」を納税通知書で確認する
計算のすべての大元となるのが「固定資産税評価額」です。
これは、売買価格(時価)とは異なり、総務省が定めた基準に基づき、各自治体が個別に算定する「公的な資産価値」のことです。この評価額は3年に1度「評価替え」で見直されます。
この金額を知るには、毎年送られてくる「納税通知書」に同封されている「課税明細書」を見るのが一番早くて確実です。「価格」や「評価額」と記載されている欄の金額がこれに該当します。
ステップ2:「課税標準額」を算出する(カギは軽減措置)
次に、税率を直接かける前の金額である「課税標準額」を算出します。
多くの場合、「固定資産税評価額 = 課税標準額」ですが、賃貸住宅(アパート・マンション)の場合、後述する「軽減措置(特例)」が適用されます。
たとえば、「住宅用地の特例」が適用されると、土地の固定資産税評価額が1/6または1/3に大幅圧縮されます。この圧縮後の金額が「課税標準額」となります。
このステップこそが、オーナーにとって節税の最重要ポイントです。
ステップ3:「課税標準額×税率(標準1.4%)」で税額を計算する
課税標準額が確定したら、あとは税率をかけるだけです。
固定資産税 = 土地の課税標準額 × 1.4% + 建物の課税標準額 × 1.4%
都市計画税 = 土地の課税標準額 × 0.3% + 建物の課税標準額 × 0.3%
(※市街化区域内の場合)
税率の「1.4%」や「0.3%」は標準的な税率であり、お住まいの市町村によって異なる場合があります(例:1.5%など)。
【物件別】固定資産税額の目安をリアルにシミュレーション
計算方法が分かったところで、物件タイプ別に具体的なシミュレーションを見てみましょう。
計算は簡略化しており、あくまで目安です。軽減措置の詳細は次章で解説します。
※区分マンションの土地特例について……「200㎡以下」の判定は、マンション敷地全体を総戸数で割った面積で行います。1戸所有の場合、通常は200㎡以下となり、最も有利な軽減(固定資産税1/6、都市計画税1/3)が適用されます。
ケース1:都心ワンルームマンション(中古・25㎡)の場合
- 設定:東京都新宿区、築10年、専有面積25㎡、土地持分面積15㎡
- 固定資産税評価額(仮):土地300万円、建物900万円 = 合計1,200万円
- 土地(200㎡以下のため1/6):課税標準額 300万円 × 1/6 = 50万円
- 建物(中古のため軽減なし):課税標準額 900万円
- 計算:
- 固定資産税:(土地50万 + 建物900万)× 1.4% = 13.3万円
- 都市計画税:(土地50万×2 + 建物900万)× 0.3% = 3.0万円 ※都市計画税の特例は1/3
- 年間合計(目安):約16.3万円
ケース2:郊外ファミリーマンション(新築・70㎡)の場合
- 設定:愛知県名古屋市郊外、新築、専有面積70㎡
- 固定資産税評価額(仮):土地400万円、建物1,400万円 = 合計1,800万円
- 土地(200㎡以下のため1/6):課税標準額 400万円 × 1/6 = 約66.6万円
- 建物(新築軽減1/2が3年間):課税標準額 1,400万円 × 1/2 = 700万円
- 計算(軽減期間中):
- 固定資産税:(土地66.6万 + 建物700万)× 1.4% = 約10.7万円
- 都市計画税:(土地66.6万×2 + 建物1,400万)× 0.3% = 約4.6万円
- 年間合計(目安):約15.3万円
- ※4年目以降は建物の軽減がなくなるため、約25.1万円に上昇します。
ケース3:地方の一棟アパート(木造・4戸・敷地300㎡)の場合
- 設定:地方都市、新築、木造2階建て、敷地300㎡
- 固定資産税評価額(仮):土地900万円、建物2,000万円 = 合計2,900万円
- 土地(住宅用地の特例):
- 200㎡までの部分:900万×(200/300)×1/6 = 100万円
- 100㎡の部分:900万×(100/300)×1/3 = 100万円
- 土地の課税標準額 = 200万円
- 建物(新築軽減1/2が3年間):課税標準額 2,000万円 × 1/2 = 1,000万円
- 計算(軽減期間中):
- 固定資産税:(土地200万 + 建物1,000万)× 1.4% = 16.8万円
- 年間合計(目安):約16.8万円 (※市街化区域外と仮定し都市計画税なし)
- ※4年目以降は建物の軽減がなくなるため、約30.8万円に上昇します。
必ず知っておきたい固定資産税の軽減措置(節税策)
シミュレーションでも活用した「軽減措置」は、オーナーの収益性を左右する最重要知識です。これは申請しなくても自動的に適用されることが多いですが、仕組みの理解は必須です。
土地に関する軽減措置(住宅用地の特例)
これは賃貸経営において最も強力な節税策です。アパートやマンションなど、人が住むための建物(住宅)が建っている土地は、その面積に応じて土地の課税標準額が大幅に圧縮されます。
- 小規模住宅用地(200㎡以下の部分):
- 固定資産税の課税標準額が 1/6 に
- 都市計画税の課税標準額が 1/3 に
- 一般住宅用地(200㎡を超える部分):
- 固定資産税の課税標準額が 1/3 に
- 都市計画税の課税標準額が 2/3 に
更地にアパートを建てると土地の固定資産税が劇的に安くなるのは、この特例のおかげです。
建物に関する軽減措置(新築住宅の減額措置)
新築の賃貸住宅を建てた場合、建物にかかる固定資産税が一定期間1/2に減額されます。
- 対象:新築された住宅(床面積などの要件あり)
- 減額内容:建物にかかる固定資産税額が 1/2 に
- 減額期間:
- 一般の住宅(木造アパートなど):3年間
- 3階建て以上の耐火・準耐火建築物(RC造マンションなど):5年間
新築物件は当初数年間の税負担が軽くなりますが、期間終了後は税額が上がるため、収支計画に織り込んでおく必要があります。
賃貸経営(不動産投資)における固定資産税の実践知識
最後に、税金の知識を実際の賃貸経営にどう活かせばいいのでしょうか。
固定資産税は「経費」として計上し、所得税・住民税を節税する
オーナーが支払った固定資産税・都市計画税は、全額を不動産所得の**「必要経費」として計上できます(勘定科目は「租税公課」)。
経費が増えれば、その分「不動産所得(家賃収入-経費)」が圧縮されます。その結果、あなたが納めるべき所得税や住民税が安くなる**という、もう一つの重要な節税効果が生まれます。
固定資産税の上昇リスクと家賃設定への考え方
固定資産税評価額は、3年に1度「評価替え」で見直されます。周辺の地価が上昇しているエリアでは、この評価替えによって固定資産税評価額が引き上げられ、税額が上昇するリスクがあります。
賃貸経営は30年以上の長期戦です。物件購入時の収支シミュレーションでは、こうした将来的なコスト増もある程度織り込んだ上で、無理のない家賃設定や返済計画を立てることが、安定経営のカギとなります。
固定資産税を正しく理解し、計画的な賃貸経営を
賃貸物件の固定資産税について、借主と貸主それぞれの視点から、特にオーナー向けにその詳細を解説しました。
- 固定資産税を支払うのは、入居者(借主)ではなく、100%オーナー(貸主)
- オーナーにとって税額の計算は必須であり、特に「実質利回り」を把握することが重要
- 「住宅用地の特例」や「新築の減額措置」といった軽減措置を正しく理解することが、収益性を高めるカギ
- 支払った固定資産税は「経費」に計上でき、所得税・住民税の節税にもつながる
固定資産税は、賃貸経営における避けられないコストです。しかし、それは同時に、知識によってコントロール可能なコストでもあります。仕組みを正しく理解し、軽減措置を最大限活用し、計画的な収支管理を行うことが、あなたの賃貸経営を成功に導く確かな一歩となるでしょう。
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