賃貸物件の固定資産税はどうなる?計算方法や軽減措置、節税のポイントを解説
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丸山 優太郎
丸山 優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している。

賃貸物件で固定資産税の扱いがどうなるのか、気になる人も多いでしょう。固定資産税は誰が支払うべきなのか、またその計算方法や軽減措置、節税のポイントについても気になるところです。本記事では、固定資産税の基本から、節税に役立つ情報まで詳しく解説します。

目次

  1. 1.固定資産税の基礎知識
  2. 2.賃貸物件における固定資産税の取り扱い
  3. 3.固定資産税の計算方法と評価額の基準
  4. 4.固定資産税の軽減措置と注意点
  5. 5.賃貸経営に関連するその他の税金
  6. 6.賃貸経営を成功させるための節税ポイント
  7. 7.賃貸経営を始める前に確認すべきこと
  8. 8.賃貸経営は適切な経費の計上でキャッシュフローの黒字化を目指そう

1.固定資産税の基礎知識

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固定資産税は、不動産を所有する人に課税される税金です。都市計画税と両方支払っている人もいます。概要は以下のとおりです。

1-1.固定資産税とは?

固定資産税は、その年の1月1日時点で不動産を所有している人に課税される地方税です。一般的に年4回に分けて支払います。

固定資産税の算出基準になるのは、「固定資産税評価額」です。そこから特例などを加味した「課税標準額」を基に計算します。

固定資産税は土地と建物それぞれに課税されます。

1-2.都市計画税との関連性

都市計画税も固定資産税と同じくその年の1月1日時点で不動産を所有している人に課税される地方税です。

ただし、都市計画税はすべての不動産にかかるわけではありません。都市計画法で指定された市街化調整区域にある土地と建物が対象になります。固定資産税と同じように土地と建物それぞれに課税され、年4回に分けて支払います。

2.賃貸物件における固定資産税の取り扱い

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マイホームではない賃貸物件において固定資産税はどのように取り扱われるのか、確認しておきましょう。

2-1.一戸建て賃貸における固定資産税の支払い義務

一戸建ては共同住宅ではないので、賃貸であっても固定資産税を支払わなければいけないのではないかと考える人もいるでしょう。

しかし、固定資産税は先に述べたように土地・建物の所有者が支払う税金なので、賃貸で入居した人に支払い義務はありません。

固定資産税の税額は、固定資産税評価額が基になるので、面積やエリアなどの条件によって個々の物件で異なります。一戸建ての固定資産税の相場は一般的には年間10~15万円程度といわれています。

月にすると1万円前後なので、オーナーは家賃設定に固定資産税分を考慮するか検討する必要があります。

2-2.賃貸住宅での固定資産税の位置づけ

アパート・マンションなど賃貸住宅はどうでしょうか。こちらも同じく固定資産税の支払い義務はオーナーにあるので、入居者が支払う必要はありません。

オーナーの負担が大きくなりますが、その分賃貸住宅ならではの軽減措置も用意されています。後述する小規模住宅用地に対する軽減措置や新築賃貸物件に適用される軽減措置がその制度です。

2-3.固定資産税は経費として計上できる?

固定資産税は確定申告において、「租税公課」という費目で経費として計上できます。

不動産所得は「収入金額-必要経費」で計算されるため、固定資産税を必要経費として計上することで所得が減り、所得税の軽減につながります。

税金のうち、所得税、特別復興所得税、住民税、加算税、延滞税は経費になりませんが、それ以外の税金は必要経費になるので、漏れなく計上しましょう。

3.固定資産税の計算方法と評価額の基準

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必要経費になる固定資産税ですが、計算方法や評価額の基準は以下のとおりです。

3-1.固定資産税評価額とは?

固定資産税評価額とは、「固定資産評価基準」に基づいて、各市町村(東京23区は都)が土地や家屋の評価を個別に決める評価額を指します。各自治体の担当者が物件をひとつずつ確認して決定する仕組みです。

評価する基準は、土地なら市街地か農村地か、面積や形状、道路との接し方はどうかなどを基準に判定します。建物の場合は、住宅の規模や構造、築年数などが基準になります。

都市計画税や、物件を購入したときに課税される「不動産取得税」、登記するときにかかる「登録免許税」なども固定資産税評価額を基に計算されます。

3-2.固定資産税の税額計算

固定資産税と都市計画税の税額は、以下の計算式で算出します。

固定資産税=課税標準額×1.4%
都市計画税=課税標準額×0.3%

固定資産税・都市計画税は、土地部分と建物部分で計算方法が異なるので、分けて計算する必要があります。

3-3.土地と建物の固定資産税評価額のシミュレーション

土地と建物の固定資産税評価額をシミュレーションしてみましょう。

3-3-1.土地の固定資産税計算例

【設定条件】
賃貸マンション、10戸、土地面積200㎡、地価公示平米単価25万6,000円(2024年地価公示価格全国平均実数)、固定資産税評価額70%

25万6,000円×70%×200㎡=3,584万円(土地の固定資産税評価額)

【小規模住宅用地の適用計算例】
減額率=固定資産税1/6、都市計画税1/3

・固定資産税
3,584万円×1/6×1.4%=8万3,627円
・都市計画税
3,584万円×1/3×0.3%=3万5,840円

固定資産税8万3,627円+都市計画税3万5,840円=11万9,467円

3-3-2.建物の固定資産税計算例

【設定条件】
RC造マンション、200㎡、工事単価30万4,000円(2024年全国平均RC造の工事費用1㎡当たり実数)、固定資産税評価額60%

請負工事金額:30万4,000円×200㎡=6,080万円
建物の固定資産税評価額:6,080万円×60%=3,648万円

・固定資産税
6,080万円×1.4%=85万1,200万円
・都市計画税
6,080万円×0.3%=18万2,400円

固定資産税85万1,200円+都市計画税18万2,400円=103万3,600円

土地・建物合計の税額は11万9,467円+103万3,600円=115万3,067円と高いように見えますが、10戸なので、1戸当たりは11万5,307円となり、一戸建て相場の10~15万円とそれほど差はありません。

また、後で述べますが、新築物件の場合税額は1/2に減額されます。

4.固定資産税の軽減措置と注意点

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固定資産税には「小規模住宅用地に対する軽減措置」と「新築賃貸物件に適用される軽減措置」が用意されています。

4-1.小規模住宅用地に対する軽減措置

小規模住宅用地の軽減措置は、土地の上に住宅を建てることで、土地部分の固定資産税が軽減される措置のことをいいます。

▽住宅用地特例の減額措置

固定資産税の課税標準小規模住宅用地(200㎡以下の部分)1/6に減額
一般住宅用地(200㎡を超える部分)1/3に減額

この制度は賃貸住宅に有利といわれています。一戸建ての場合は、250㎡の家なら200㎡を超える50㎡の部分は一般住宅用地になって減額幅が小さくなります。

しかし、賃貸住宅の場合は、「住宅1戸につき200㎡までの部分」が基準であるため、2戸なら400㎡まで、3戸なら600㎡までと比例して対象面積が拡大します。したがって、賃貸住宅はほとんどの場合全戸が小規模住宅用地として認められます。

4-2.新築賃貸物件に適用される軽減措置

賃貸物件を新たに建築する場合にも軽減措置があります。新築賃貸物件に適用される軽減措置は、住宅を新築した一定期間のみ、税の減額を受けられる措置のことをいいます。

新築で以下の要件を満たすと減額を受けることができます。

・2026年3月31日までに建築された住宅であること。
・住宅として使用する部分の床面積が床面積全体の2分の1以上であること。
・居住用部分の床面積が50㎡以上280㎡以下であること。

賃貸住宅の場合は「住宅1戸につき居住用部分の床面積が50㎡以上280㎡以下」が基準なので、ほとんどの場合、全戸が対象になるため有利です。

マンションの場合、要件を満たすと一般の住宅で5年間、長期優良住宅で7年間、建物の固定資産税が1/2に減額されます。

4-3.更地や空き家を放置した場合のリスクと税負担

近年全国規模で問題になっているのが、所有者不明のまま放置された更地や空家の存在です。所有する空き家を適切に管理せず放置した場合、上述した住宅用地特例の対象外となり、普通に固定資産税を課税されることになります。

以下のような状態の場合は、住宅用地特例の対象外となる「特定空家」に指定されるので注意が必要です。

・そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態。
・そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態。
・適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態。
・その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態。

したがって、いくら安くても築50年以上など著しい築古木造アパートは、すべての入居者が退去した後はそのままずっと空き家状態になる可能性があるので、購入は避けたほうが無難です。

5.賃貸経営に関連するその他の税金

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固定資産税のほかにも、賃貸経営に関連する税金には以下のようなものがあります。

5-1.償却資産税

償却資産税は、固定資産の中の償却資産に課税される税金です。償却資産は、事業用の固定資産が対象で、法人税法や所得税法で減価償却費を損金算入できるものに限られます。

計算式は「課税標準額×1.4%」で、課税標準額が150万円以下の場合は非課税です。

毎年1月1日時点で所有している償却資産について申告が必要です。ただし、土地や家屋は課税対象になりません。

5-2.個人事業税

個人事業税は、マンション経営など個人事業を行っている個人に課税される税金です。以下の要件をすべて満たす人は課税の対象になります。

・事業を行うための事務所や事業所を所有していること。
・所得金額が290万円を超えていること。
・法律に定められた70業種に該当すること。

70業種は以下のとおり区分されており、不動産貸付業は第1種事業にあたり、税率は5%です。

5-3.所得税・住民税

所得税と住民税は賃貸経営に限らず、一定以上の収入がある人が納める税金です。

しかしながら、賃貸経営は不動産所得と給与所得を損益通算できるため、サラリーマンが副業で行う場合に大きなメリットが生じます。

▽所得税税率表

課税される所得金額税率控除額
1,000円から1,949,000円まで5%0円
1,950,000円から3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円以上45%4,796,000円

【損益通算の計算例】
給与所得が400万円で不動産所得が赤字100万円の例

・給与所得のみの場合
課税給与所得400万円×税率20%-控除額42万7,500円=37万2,500円(所得税)

・損益通算した場合
給与所得400万円-不動産所得赤字分100万円=300万円(課税所得)
課税所得300万円×税率10%-9万7,500円=20万2,500円(所得税)

損益通算により、37万2,500円-20万2,500円=17万円も所得税を節税できたことになります。

一方、住民税の所得割は課税所得に10%をかけて計算します。

【住民税の計算例】
上記と同条件

・給与所得のみの場合
課税所得400万円×10%=40万円

・損益通算した場合
課税所得300万円×10%=30万円

40万円-30万円=10万円住民税が軽減されました。

損益通算を利用することにより、所得税17万円+住民税10万円=27万円を節税できるので、大きなメリットといえるでしょう。

5-4.消費税

居住用住宅から発生する家賃に消費税はかかりません。共益費、礼金、更新料も非課税です。一方で、店舗やオフィスなど非住宅物件を貸し出して得た家賃には消費税がかかります。

駐車場料金に関しては、家賃とセットで貸し出す場合は非課税となりますが、単独で駐車場のみを貸し出す場合は課税対象になるので注意が必要です。

6.賃貸経営を成功させるための節税ポイント

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賃貸経営で節税するポイントは、経費の適切な計上と青色申告の活用です。

6-1.経費の適切な計上

賃貸経営においては経費を適切に計上することが成功への近道になります。賃貸経営は区分マンションなら1戸、賃貸マンションなら10戸などキャパシティが決まっているので、売上を伸ばすのは限度があります。そこで以下のような経費にできるものは、とことん計上して利益率を上げることが大切です。

・固定資産税や都市計画税などの税金
・火災保険、地震保険などの保険料
・不動産管理会社へ支払う管理手数料などの維持管理費
・長期修繕積立金
・不動産投資ローンの利息部分
・青色専従者給与(青色申告を選択している場合)
・司法書士報酬や税理士報酬
・減価償却費
・その他経費

減価償却費は実際の支出を伴わない費用で、帳簿上のみ計上するので、手元には現金が残ります。

6-2.青色申告の活用

青色申告は大変有利な制度なので、利用できる環境にあるなら上手く活用することが節税に有効です。青色申告を利用すると、青色申告特控除を最大65万円計上でき、家族を従業員にすることで青色専従者給与を計上できるなどのメリットがあります。

青色申告を利用するには、始める前に所轄税務署に個人事業主の開業届と、青色申告承認申請書を提出する必要があります。

6-3.報酬費用の削減

士業と呼ばれる専門家に依頼することで発生するのが報酬費用です。相続が発生したときは弁護士、司法書士、行政書士に依頼することがありますが、日常の賃貸経営では依頼することがあるのは税理士くらいでしょう。

区分マンション1室のみの経営であれば、インターネットの記事を参考にしながら、自分で経理を行えば報酬費用がかからず、ランニングコストを削減できます。

7.賃貸経営を始める前に確認すべきこと

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賃貸経営を始める前に、確認すべきこととして以下の2つが挙げられます。

7-1.賃貸経営が自分に適しているかを判断

賃貸経営にも人によって向き不向きがあります。賃貸経営に向いているのは、以下のような目的を持った人です。

・長期的視点に立って、定年後に年金以外の収入を得たい。
・不動産を使って相続税対策をしたい。
・遊休地を持っているので土地活用で賃貸経営を行いたい。
・金融商品より安定した不動産を持っていたい

逆に短期で大きな収益を得たい人は、賃貸経営には向いていません。

7-2.税金以外の関連知識も身につける

賃貸経営は節税だけが目的ではないので、税金以外の不動産関連知識を得ることも必要です。建築基準法や宅建業法、民法などの知識を持つことで、有利に不動産取引を進められるケースも考えられます。不動産会社との付き合いの中で、徐々に知識を増やしていくと良いでしょう。

8.賃貸経営は適切な経費の計上でキャッシュフローの黒字化を目指そう

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賃貸経営はローンを組んで物件を購入した場合、キャッシュフロー(お金の出と入り)が黒字ぎりぎりになるのが一般的です。そのため、経費を適切に計上して少しでも利益率を高めることが求められます。

固定資産税も必要経費になりますが、記事中で紹介した軽減措置を利用することで、納税額を減らすこが可能です。

もし、土地活用を考えている場合は、賃貸マンションを建築することで、固定資産税を大幅に軽減できます。開発事業部を持つ総合不動産会社であれば、土地活用について詳しい説明が聞けるので、まずは気軽に問い合わせてみることをおすすめします。

※本記事は2024年9月1日現在の情報を基に構成しています。各種軽減措置は終了または継続される場合があります。制度を利用する場合は、最新の情報をご確認ください。

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