
不動産投資を始めるにあたり、多くの方が疑問に感じるのが「どこまでが経費として計上できるのか?」という点です。
例えば、「ローンの返済は経費になるのか?」「修繕費と資本的支出の違いは?」「税務調査で指摘を受けないための経費計上のポイントとは?」など、こうした疑問を正しく理解しておかないと、不動産投資の利益を最大化するどころか、余計な税負担が発生する可能性があります。
しかし、適切な経費計上を行うことで、節税効果を高め、キャッシュフローを改善することが可能です。ただし、誤った経費計上をすると、税務署に指摘されるリスクもあります。
本記事では、不動産投資における経費の基本から、節税テクニック、税務調査で否認されないためのポイントまでを、初心者にも分かりやすく解説します。
不動産投資の経費に関する正しい知識を身につけ、賢く節税しながら資産運用を進める方法が理解できるはずです。
それでは、詳しく見ていきましょう。
目次
不動産投資における経費とは?
経費の基本的な考え方
経費として認められる条件と税法上のルール
不動産投資において、経費として計上できるものには明確な基準があります。経費として認められるためには、税法上、以下の3つの条件を満たしていることが必要です。
① 事業の運営に直接関係する支出であること 経費は、不動産投資の運営や管理に必要な支出であることが大前提です。例えば、管理費や修繕費、広告宣伝費などは収益を生むために必要な支出と判断されるため、経費として認められます。
② 合理的な金額であること 仮に経費として計上した支出が、市場価格と比べて極端に高額であった場合、税務調査で否認されるリスクがあります。例えば、通常の相場を大きく上回るコンサルティング費用や、家族に支払った給与などは過度な節税目的とみなされる可能性があるため、注意が必要です。
③ 領収書や請求書などの証拠があること 税務調査では、実際に支出があったことを証明できる書類が求められるため、領収書・請求書・契約書などを適切に保管しておく必要があります。電子帳簿保存法の改正により、デジタルでの管理も認められていますが、経費の証拠書類を一定期間(原則7年間)保管する義務がある点には留意しておきましょう。
(国税庁: 必要経費の知識より)
経費計上するメリットとは?
適切に経費を計上することで、税金負担を軽減(節税)し、不動産投資のキャッシュフローを改善することが可能です。経費計上による具体的なメリットを見ていきましょう。
① 所得税・住民税の節税 経費は、不動産所得から差し引くことができるため、課税所得を減らすことができます。結果として、所得税や住民税の負担が軽減され、手元に残る利益を増やすことが可能です。
例: 1年間の不動産所得が500万円の場合、経費を100万円計上すれば、課税所得は400万円となります。これにより、税率が適用される所得額が減少し、最終的な税額を抑えることができます。
② キャッシュフローの最適化 特に、減価償却費などの「非現金支出」を適切に計上すると、実際のキャッシュアウト(現金支出)を伴わないにもかかわらず、経費として計上できます。これにより、税引き後の手元に残るキャッシュが増えるメリットがあります。
例) 事例:築20年の木造アパートを購入した場合 購入価格:2,000万円(建物部分:1,200万円 / 土地部分:800万円) 法定耐用年数:22年(木造の場合、新築時の耐用年数は22年) 残存耐用年数の計算:6年 減価償却費(建物部分): 1,200万円÷6年=200万円/年
耐用年数とは、建物の資産価値がなくなるまでの年数のことで、この例では国税庁が定める「中古資産の耐用年数の簡便法」に基づき、下記の計算式になります。
耐用年数=(法廷耐用年数-経過年数)+経過年数×20% 5年=(22-20)+20×0.2=6年
この場合、年間200万円を経費として計上できるため、所得税や住民税の課税対象となる所得が減ります。例えば、不動産所得が500万円だった場合、減価償却費200万円を差し引くと、課税所得は300万円に圧縮され、税金負担が大幅に軽減されます。
減価償却資産の耐用年数は用途や種類によって異なります。下記国税庁をご確認ください。
<国税庁:主な減価償却資産の耐用年数表>
③ 長期的な資産形成がしやすくなる 不動産投資は、長期的な資産形成を目的とするケースが多いため、適切な経費計上による節税対策は欠かせません。特に、法人を活用することで、より税負担を最適化し、利益の再投資を加速させることが可能になります。
経費にできるもの・できないものの違い
不動産投資では、適切な経費計上を行うことで、税負担を軽減し、キャッシュフローを改善することが可能です。しかし、すべての支出が経費として認められるわけではありません。
税務署に否認されるリスクを避けるためにも、「経費として計上できるもの」と「できないもの」の違いを正しく理解することが重要です。以下の表で、具体的な支出の例を整理しました。
支出の種類 | 経費にできる支出 | 経費にできない支出 |
---|---|---|
物件購入にかかる諸費用 | 登記費用、仲介手数料、司法書士報酬など | 土地の購入費用、頭金 |
ローン関連費用 | ローンの利息、事務手数料、保証料 | ローンの元本返済額 |
管理・運営費 | 管理費・共益費、修繕費、修繕積立費、火災保険・地震保険 | 大規模リノベーション(資本的支出)、団体信用生命保険料(団信) |
広告宣伝費 | 賃貸募集の広告費、ホームステージング費用 | 投資用の自己PR目的の広告費 |
減価償却費 | 建物・設備の取得費用分 | 土地の取得費用分 |
通信費・事務費 | 投資関連のインターネット代、事務用品費 | 私的なインターネット・携帯代 |
交通費・旅費 | 物件視察の交通費・宿泊費 | 観光目的の旅行費用 |
接待交際費 | 投資関連の打ち合わせの飲食費(※法人OK) | 家族や友人との食事代 |
税金 | 固定資産税、不動産取得税 | 所得税・住民税・法人税 |
表をもとに項目に関して説明します。
物件購入時にかかる諸費用で経費計上できるもの
不動産仲介手数料
物件購入を仲介する不動産会社に支払う手数料で、購入金額が高いほど高額になるのが特徴です。法定で上限が決められていますが逆にどこまで割引するかは不動産会社によって異なります。また、土地の取得部分についての仲介手数料は経費計上できないので注意が必要です。
司法書士報酬
不動産登記を司法書士へ依頼した場合の報酬です。以前は、司法書士報酬規定で額が定められていましたが、2003年4月1日からは撤廃され司法書士ごとに報酬額が異なります。また実際の登記では報酬以外にも全部事項証明書の取得費用などの諸費用も請求されます。
ローン関連費用で経費計上できるもの
ローン事務手数料
物件購入でローンを利用する際は、金融機関に事務手数料を支払います。金額は借入先によって数万~数十万円と非常に幅があります。
ローン保証料
ローンの支払いが難しくなったときに返済を立て替えてくれる保証会社へ支払うのがローン保証料です。借入額や期間によっては大きな金額が必要になりますが、返済金利に上乗せして借入時に用意せずに済む保証会社もあります。
ローンの利息・金利
ローンで物件を購入した場合の支払額に含まれている利息分も諸費用となります。
税金で経費計上できるもの
不動産取得税
不動産を取得した場合に1回のみ納める税金です。一般的に購入した後、数ヵ月経過してから通知が届き都道府県に納付します。税額は、物件の売買価格ではなく固定資産税評価額を元に算出されるのが特徴です。
固定資産税・都市計画税
毎年1月1日時点で土地や建物を所有していると固定資産税と場所によって都市計画税が課税されます。それぞれの課税評価額に則り税額が決まりますが3年ごとに見直しが行われ建物は古くなるごとに税額が減っていくのが特徴です。
印紙税
不動産の売買契約書を作成するときにかかる税金です。収入印紙を売主と買主それぞれの契約書に貼付して納税します。税額は、売買の金額によって定められています。
登録免許税
登録免許税は、購入した不動産を自分名義にしたり抵当権設定をしたりする登記でかかる税金です。現金で金融機関に収める方法と収入印紙で納める方法があります。
管理・運営費で経費計上できるもの
賃貸管理委託費
賃貸物件の入居者対応や建物の維持管理を管理会社に委託すると手数料がかかります。賃料に対して掛け率で請求するところが一般的です。
管理費
管理費は、エントランスや廊下、階段などの修理や電球交換、掃除などの費用や電気代、水道料金などに充てられる費用のことです。毎月定額を管理組合や管理会社に支払います。
修繕費
建物の築年数が経過し劣化や損傷が発生すれば費用をかけて修繕することが必要です。程度や範囲によっては、非常に大きな金額になることがあります。
修繕積立金
分譲マンションでは、将来の建物共用部分の修繕費用を準備するため、区分所有者から修繕積立金を集めています。これにより適正なタイミングで建築時に計画された修繕が行われます。
火災保険・地震保険料
賃貸物件に火災などが起きた際に被害を補償してくれる保険で多くの金融機関でローンの必須条件としていることも多い傾向です。火災だけでなく自然災害による被害や修理中の家賃を補償するなど手厚い保険もあります。
広告宣伝費
物件が空室になると新たな入居者を募集するため、ネットや情報誌に広告を掲載したりチラシを作成して配布したりする費用です。
経費として計上できないものと注意点
不動産投資において、経費を適切に計上することは節税対策として重要ですが、すべての支出が経費になるわけではありません。 税務上、不適切な経費計上をすると、税務調査で指摘されるリスクが高まります。
ここでは、経費として認められない支出の具体例と、注意すべきポイントを解説します。
経費計上がNGとなる支出の例
次に経費計上がNGとなる支出について解説します。
① 生活費や私的な出費(食費・衣類など)
不動産投資とは無関係な個人的な支出は、経費にできません。投資家自身の生活費(食費・衣類・美容費など)は、たとえ不動産投資をしているからといって経費として認められません。
【 NG例】 ・物件視察のついでにプライベートの外食をした ・スーツを購入し、不動産の打ち合わせで着用した ・投資関連のセミナー後に、個人的な買い物をした
生活費と事業経費は明確に分けること、物件管理のための出張費など経費として認められる支出との区別をしっかりつけることが重要です。
② ローンの元本返済
ローンの「利息部分」は経費になるが、「元本部分」は経費になりません。不動産投資ローンの支払いに関して、元本返済部分は「すでに取得している資産」とみなされるため、経費にはならないのが原則です。
【NG例】 ・毎月のローン返済額(元本+利息)をすべて経費計上 ・建物購入時の頭金を経費計上
ローン利息部分のみが「支払利息」として経費計上が可能です。
③ 交際費(ビジネス目的が不明確な場合)
「事業に関連した接待や交際費」のみが経費として認められます。交際費は事業活動に必要な支出であることが明確でなければ、経費計上できません。
【NG例】 ・家族や友人との飲み会代を経費にする ・投資仲間とのプライベートな食事代を経費計上 ・ビジネス目的があいまいな接待費
一方で、不動産管理会社との打ち合わせや、賃貸募集の業者との会食など、事業に関連性が明確なものは経費として認められることが多いです。 また法人の場合、交際費の上限が決まっているため注意が必要です。
節税対策としての経費活用法
不動産投資では、正しく経費を活用することで節税効果を高め、キャッシュフローを最適化することが可能です。 特に、青色申告・減価償却・法人化の3つの方法をうまく組み合わせることで、税負担を抑えながら資産形成を加速できます。
ここでは、初心者でも実践しやすい節税対策のポイントを解説します。
青色申告で経費を最大限活用する
青色申告を活用すると、家族への給与を経費として計上できる「青色事業専従者給与」という制度があります。
これは、不動産投資を家族経営で行っている場合に、配偶者や子どもに給与を支払うことで、課税所得を抑えることができる仕組みです。
例えば、家族に毎月10万円(年間120万円)の給与を支払うと、120万円分の所得を経費として計上でき、節税につながるというわけです。
<青色事業専従者給与の適用条件> ・青色申告をしていること ・給与を受ける家族が事業に従事していること(不動産管理、契約業務など) ・給与額が適正(相場より高すぎると税務調査で否認される)
節税効果が大きいため、家族経営の不動産投資家にとっては有効な手段となります。しかし、不動産賃貸業の場合、事業的規模(5棟10室以上)であることが条件となります。また専従者給与の金額の基準は明確に定められているわけではないので、適性額を超えると認められないケースもあります。
最大65万円の控除を受ける方法
青色申告を行うことで、最大65万円の特別控除を受けることができます。これにより、不動産所得の課税対象額を減らし、税金を大幅に削減することが可能です。
<65万円控除を受ける条件> ・複式簿記による帳簿付けを行う ・貸借対照表・損益計算書を作成し、確定申告時に提出する ・事業規模の不動産賃貸(一般的には5棟10室以上)であること
減価償却を戦略的に活用する方法
不動産投資における減価償却とは、建物の購入費用を耐用年数に応じて分割し、毎年経費として計上できる仕組みのことを指します。
新築物件の減価償却
耐用年数が長いため、1年あたりの減価償却費が少なく、節税効果は限定的になります。長期間での資産運用には向いているが、短期的な節税には不向きと言えるでしょう。
中古物件の減価償却
法定耐用年数が短縮されるため、減価償却費を早く計上でき、節税効果が高くなります。初期のキャッシュフローを増やしたい投資家にとっては有利と言えます。
木造、RC造の耐用年数と経費の関係
建物の種類によって法定耐用年数が異なり、減価償却できる年数も変わります。
建物の構造 | 法定耐用年数 | 特徴 |
---|---|---|
木造 | 22年 | 減価償却が早く、節税効果が大きい |
軽量鉄骨造 | 27年(3mm以下)/34年(3mm超) | 木造より耐久性があり、耐用年数が長い |
鉄筋コンクリート造 | 47年 | 減価償却が遅いが、資産価値が長持ち |
一概には言えませんが、短期間での節税効果を求めるなら「築古の木造物件」、長期間の安定収益を求めるなら「RC造・鉄骨造の物件」で検討してみるのが良いでしょう。
法人化すると経費メリットはどう変わる?
法人化することで、不動産投資の経費計上の幅が広がり、節税の選択肢が増えます。特に、個人と法人での税負担の違いを理解しておきましょう。
項目 | 個人投資家(青色申告) | 法人(不動産管理会社) |
---|---|---|
税率 | 累進課税(最大55%) | 法人税(15〜23%程度) |
青色申告特別控除 | 最大65万円 | なし |
役員報酬 | なし | 自分に役員報酬を支払い、法人税を抑えられる |
経費計上 | 限定的(家族への給与は要件あり) | 役員報酬、退職金、法人向け生命保険など経費の幅が広い |
社会保険料 | 個人負担のみ | 会社負担あり(経費計上可) |
法人化が向いているケース
法人化すると、不動産投資の利益を会社内に留保できるため、個人の所得税を抑えられるメリットがあります。特に、以下のケースでは法人化を検討する価値が高いでしょう。
・不動産所得が年間900万円以上になる場合(累進課税の影響を受けにくい) ・物件を複数所有し、長期的に運用する場合(法人内での資産形成が有利) ・将来的に相続を考えている場合(法人で管理することで相続税対策になる)
不動産投資の経費を正しく活用し、節税を最大化しよう
不動産投資における経費の適切な計上は、節税とキャッシュフロー改善に直結します。青色申告を活用すれば最大65万円の控除を受けられ、減価償却の戦略的な活用により、課税所得を抑えることが可能です。また、法人化することで、経費計上の幅が広がり、より柔軟な節税対策が取れます。
ただし、経費として認められない支出を誤って計上すると、税務調査で否認されるリスクがあるため注意が必要です。土地の購入費用や住宅ローンの元本返済などは経費にはならないため、正しく仕訳を行いましょう。
経費を最大限活用し、合法的に税負担を軽減することで、不動産投資の利益を最大化しましょう!
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