メタの大量解雇、史上かつてない株価急落……その先にV字回復はあるか
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本間 貴志
本間 貴志
ビジネス書・実用書専門の「アスラン編集スタジオ」の編集ライターを経てフリー。2015年より秋田県に移住、テレワークによる柔軟な働き方を実践中。

メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)は、業績不振、株価急落、大量解雇などネガティブな話題でメディアに取り上げられる機会が増えています。にもかかわらず、メタバースへの巨額投資を行い続けています。メタの大量解雇の先にV字回復の可能性があるかを探ります。

メタの株価は1年半で約4分の1まで暴落

メタの大量解雇、史上かつてない株価急落……その先にV字回復はあるか
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現在のメタの厳しすぎる経営環境は、株価チャートに如実に現れています。

下記のチャートは、直近10年のメタ・プラットフォームズ(以下メタ)の株価です。2013年から2021年までメタの株価はほぼ右肩上がりでした。2021年に400ドルに迫ろうとしていた株価ですが、2022年末には100ドル近辺まで値下がりしています。端的にいえば、メタの株価は約1年半で4分の1近くまで急落したのです。

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(出典:楽天証券「米国株式株価検索 METAメタ・プラットフォームズ(10年チャート)」)

次に、株価が急落した2022年のチャートに着目してみましょう。2022年の年間チャートを見ると、メタの株価はほぼ一貫して下がり続けていますが、とくに急落したのは2022年2月3日。このタイミングで急落したきっかけは、前日に発表された「2021年10-12月(第4四半期)決算/2022年1-3月(第1四半期)見通し」の内容です。

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(出典:楽天証券「米国株式株価検索 METAメタ・プラットフォームズ(1年チャート)」)

メタの株価は最大27%安となり、2,300億ドル(約26兆4,200億円)の時価総額が失われました。なぜ、メタの株価はここまで急落したのでしょうか。投資家の懸念を的確に表すのが、メタの決算に対するJPモルガンの下記のコメントです。

広告分野の伸びが著しく減速する一方、多額の費用と長い期間を必要とする先行き不透明なメタバースへの移行を開始している

(引用:米ブルームバーグ「史上かつてない急落、メタ株27%安-見通し「ひどい」との分析」)

メタは大量解雇を発表後も巨額投資を継続中

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メタは株式マーケットから厳しい評価を受けても、メタバースへの投資姿勢を崩していません。2022年10月26日の第3四半期決算の発表では、利益が前年同期比52%減の44億ドルになったにもかかわらず、2022年に850~870億ドル、2023年に960~1,010億ドルの巨額な費用計上を予定しています。

この決算の約2週間後の11月9日、メタ・プラットフォームズのCEOマーク・ザッカーバーグは従業員1万1,000人の大量解雇を発表。これは同社の全従業員の約13%に相当します。米ブルームバーグでは、大量解雇に至った要因として次の3つを挙げています。

1. デジタル広告市場の急減速
2. リセッション(景気後退)入り寸前の経済
3. メタバース(仮想現実)への巨額投資

メタバースの世界市場は2021-2030年で18倍に成長するとの予測も

メタの大量解雇、史上かつてない株価急落……その先にV字回復はあるか
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このような状況だけを見ると、メタの業績や株価が短期的に好転するのは難しいように感じられます。しかし、2030年までの長期的なスパンで見ると、ポジティブな材料もあります。それは、「メタバース市場拡大の予測」です。

メタバース市場の予測については様々な見解がありますが、例えば総務省の「情報通信白書」では、メタバースの世界市場は2021年(市場売上高:4兆2,640億円)から2030年(同78兆8,705億円)の間に約18倍成長するとしています。

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(出典:総務省「情報通信白書(令和4年版)」)

メタバース市場の急成長が現実化すれば、この分野に巨額投資をしてきたメタがアドバンテージを得て、先行者利益を手にすることも可能かもしれません。

メタバース市場が「ブームで終わる」との意見に対し、メタでメタバース事業のディレクターを務めるマイカ・コリンズ氏は、日経ビジネスのインタビューで下記のように反論しています。

「当時はセカンドライフをVRで体験する方法を研究する機関がいくつかあっただけでした。でも、今は違います。バーチャルな3次元空間に人々が集まり、物をつくり、体験をし、参加し、共有する。こうした経験を通じて社会的なつながりが持てるプラットフォームが数多く出現しています」

(引用:日経新聞 電子版「メタバース不振で株暴落の米メタ、5つの疑問を直撃」)

つまり、セカンドライフの時代と環境がまったく違うので、同じ仮想現実でもメタバースはリアルなビジネスに発展するという見立てです。

結局のところ、メタのV字回復があるかは、メタバース市場の成長をどう見るかで大きく変わってきます。ただし、仮にメタバース市場の成長が実現したとしても、「それまでメタの財務が耐えられるか」は別の話です。メタバース市場は急成長したものの、メタは生き残れなかったという結末もあり得ます。

最近のメタはどんなメタバース関連プロジェクトを進めている?

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これを踏まえると、メタの将来を考えるうえでは、メタバース分野で具体的にどのようなプロジェクトを進めているのかも重要です。

ハード面のトピックとしては、VR端末「メタクエストプロ」の発売(2022年10月25日)があります。メタのCEOマーク・ザッカーバーグはこの新製品について「仕事での利用や優れた体験を求める利用者を想定した上位機種(日経新聞 電子版 2022年10月12日付)」と解説しています。

メタが過去に発売したVR端末「クエスト2」と今回発売の「メタクエストプロ」比べたとき、新規性はありませんが機能は大きく向上しています。

メタのVR端末「クエスト2」と「メタクエストプロ」の比較

光学レンズユニット部40%薄くなった
液晶ディスプレー37%向上した
処理能力50%向上した
価格メタクエストプロ:22万6,800円
クエスト2:5万9,400円
※価格はメタ公式サイト上の最低価格(2023年1月8日現在)

一方、ソフト面では、2022年10月11日、メタはマイクロソフトとの提携を発表。内容は、「マイクロソフトチームズ(Microsoft Teams)」をメタクエストで接続可能にするというものです。こちらは現実化すれば、これまでの会議の概念を変える新規性があります。

日経BP社のインタビューでメタのディレクターマイカ・コリンズ氏は「チームズとの連携で、バーチャルな会議室が現実の会議室と接続できるようになります」と述べています。

リセッションにより、さらなる大量解雇の可能性も?

メタの大量解雇、史上かつてない株価急落……その先にV字回復はあるか
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ここまでお話ししてきた内容をもとに、現在のメタが置かれている経営環境の「ポジティブな要素」と「ネガティブな要素」を整理すると、以下のようになります。

メタのポジティブな要素
・新製品の機能向上
・マイクロソフトとの提携発表
・大量解雇によるコスト圧縮
・メタバースの市場拡大
・メタバースへの巨額投資による先行者利益の可能性

メタのネガティブな要素
・アメリカや世界経済のリセッション(景気後退)のリスク
・上記に伴うデジタル広告市場の縮小
・メタバース(仮想現実)への巨額投資

メタのネガティブな要素の中で、とくに気になるのはアメリカ経済や世界経済のリセッションのリスクです。メタの株価は2022年末に回復傾向にありましたが、リセッションが深刻になれば、さらなる業績悪化や株価急落によってメタバースへの継続的な巨額投資が危ぶまれます。

2022年11月に経済協力開発機構(OECD)が発表した世界経済見通しによると、アメリカの2023年の経済成長率は0.5%。前年の1.8%から大きく落ち込み、これが現実になれば本格的なリセッションの可能性が高まります(ただし、現時点ですでにリセッションに入っているとの見方もあります)。

対象エリア2022年2023年2024年(予測)
アメリカ1.8%0.5%1%
日本1.6%1.8%0.9%
ユーロ圏3.3%0.5%1.4%
世界全体3.1%2.2%2.7%
出典:OECD「OECD Economic Outlook 2022

翌2024年に入っても、アメリカの経済成長率は1%にとどまると予測されています。このOECDの見通しに近い経済成長率、あるいは、下回る経済成長率になれば巨大テック企業の業績が数年以上停滞することも考えられ、メタのさらなる売上低迷や大量解雇も否定できません。

参考までに2023年1月時点ですでに米アマゾン・ドット・コムは一時解雇の人数を当初見込まれていた1万人から1万8,000人に拡大させています。

メタの今後の行方については、アメリカ経済がリセッション入りするか、もしリセッション入りするならハードランディング(景気の急速な失速)になるか、ソフトランディング(景気の緩やかな低下)になるかでも状況が変わってきそうです。いずれにしても、メタにとって2023年は将来の分岐点となる1年になりそうです。

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