最終更新日:2024/9/26
 
東京ディズニーランドの経営戦略から学ぶ、他業種でも参考になる5つのポイント
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本間 貴志
本間 貴志
ビジネス書・実用書専門の「アスラン編集スタジオ」の編集ライターを経てフリー。2015年より秋田県に移住、テレワークによる柔軟な働き方を実践中。

東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドは、幅広い業種の経営やビジネスで参考になる会社です。例えば創業以来、同園は14回もの値上げを行っています。それにも関わらず、なぜ客離れが起きないのでしょうか。ここでは、東京ディズニーランドの経営戦略における5つのポイントを解説します。

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目次

  1. そもそも東京ディズニーランドはどう誕生したのか?
    1. 1960年の創業当初、東京ディズニーランドの構想はなかった
    2. 1970年代の欧米視察でディズニーランドと出会う
  2. 東京ディズニーランドの経営戦略5つのポイント
    1. 経営戦略1.値上げと価値向上をセットで行っている
    2. 経営戦略2.ゲスト1人あたりの売上を増やしている
    3. 経営戦略3.ゲストの滞留時間を伸ばしている
    4. ポイント4.財務基盤がしっかりしている
    5. ポイント5.低利率融資を実現している
  3. とくに注目したい東京ディズニーランドの経営戦略は?

そもそも東京ディズニーランドはどう誕生したのか?

東京ディズニーランドの経営戦略から学ぶ、他業種でも参考になる5つのポイント
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オリエンタルランドが設立されたのは今から60年以上前の1960年。独立したオフィスどころか、専用の電話回線さえなく、京成電鉄本社の一角に机が3つあるだけの会社でした。そんな小さな会社が、東京ディズニーランドを経営するようになった歩みを確認してみましょう。

1960年の創業当初、東京ディズニーランドの構想はなかった

オリエンタルランドの設立目的は壮大なもので、浦安沖の海面を埋め立てて、商業と住宅地の開発を行い、一大レジャーランドをつくるというものでした。ただし、この時点では東京ディズニーランドの構想は一切ありませんでした。

当時の浦安地区は、漁業の町でした。浦安沖の開発を行うには、漁師たちが権利を持つ漁業権を放棄してもらわなければなりません。オリエンタルランドは粘り強い交渉で漁業権の放棄を実現。浦安地区の土地造成や分譲に関する協定が千葉県との間で結ばれました。創業から2年後の1962年(全面放棄は1971年)のことです。

1970年代の欧米視察でディズニーランドと出会う

オリエンタルランドがディズニーランド経営に興味を持ち始めたきっかけは、創業から約12年後の1972~1973年に行われた欧米のレジャー施設視察です。この時点で、オリエンタルランドは、(ディズニーランドとまったく関係ない)独自のレジャー施設を舞浜地区につくる予定でした。

しかし、この独自のレジャー施設を実現するために行われた欧米の視察が、オリエンタルランドの運命を大きく変えることになります。この視察によって、オリエンタルランドが実現すべきプロジェクトは「ディズニーランド以外にない」という考えに至ったのです。

もちろん、海外で無名の企業が、ディズニーランド経営を実現することは簡単なことではありませんでした。オリエンタルランドがどのようにして交渉を成就させたのかについて、くわしく知りたい人は下記のサイトをご参照ください。

株式会社オリエンタルランド「ディズニーランド誘致の実現

そして、現在のオリエンタルランドの基本情報は以下のとおりです。売上規模、資本金、従業員数などを見ると、オリエンタルランドが大企業に成長したことが改めてわかります。

売上高売上高6,184億9,300万円
(2024年3月期)
従業員数社員 5,631名
準社員 20,030名
(2024年3月31日時点)
連結子会社数15社
(2022年6月29日現在)
上場証券取引所東京証券取引所 プライム市場

東京ディズニーランドの経営戦略5つのポイント

東京ディズニーランドの経営戦略から学ぶ、他業種でも参考になる5つのポイント
(画像=yoshitaka/stock.adobe.com)

オリエンタルランドでは、東京ディズニーランド来場者の動向や財務状況に関するデータをまとめた「FACT BOOK」を発行しています。そこに載っているのは数字やグラフが中心ですが、中身をひも解くと、東京ディズニーランドの経営戦略が垣間見えます。ここでは5つのポイントをご紹介します。

※記事内データの出所はすべて、株式会社オリエンタルランド「FACT BOOK 2022

東京ディズニーランドの経営戦略5つのポイントDear Reisious Online 編集部

経営戦略1.値上げと価値向上をセットで行っている

驚くべきことに東京ディズニーランドでは、チケット料金(ワンデーパスポート大人)を開園以来16回も値上げをしています。その結果、東京ディズニーランドのチケット料金は、1983年(3,900円)から2023年(10,900円)の間に、約2.5倍の値上げとなりました。

料金改定日値上げ後料金値上げ幅
1983年3,900円-
1985年4,200円300円
1989年4,400円200円
1992年4,800円400円
1996年5,100円300円
1997年5,200円100円
2000年5,500円300円
2006年5,800円300円
2011年6,200円400円
2014年6,400円200円
2015年6,900円500円
2016年7,400円500円
2019年7,500円100円
2020年8,200700円
2021年3月8,700円500円
2021年10月9,400円700円
2023年10月10,900円1,500円

この強気の値上げの背景には、ディズニーランドという唯一無二のコンテンツの存在があることが大きいでしょう。また、日常品の食料などではなく、非日常のレジャーという分野でビジネスをしていることも値上げをしやすい一因といえます。

だからといって、値上げを繰り返せば、客離れが起きるリスクもあったはずです。

それが起きなかった理由としては、東京ディズニーランドが「値上げと価値向上」をセットで実行してきたことが考えられます。オリエンタルランドは、新規のアトラクション投入や話題性のあるイベントなどを行いつつ、それと合わせて、値上げを行ってきました。

「日本人はデフレに慣れているので、インフレ局面でも値上げがしにくい」といわれます。しかし、この「日本人の値上げアレルギー」説は、ディズニーランドの経営戦略の前では通用しないようです。

経営戦略2.ゲスト1人あたりの売上を増やしている

単にチケットの値上げを行うだけでなく、ゲスト1人当たりの売上高を追求しているのも東京ディズニーランドの経営戦略です。例えば、2020~2023年の売上高の推移を見ると、以下のようになります。

時期1人あたり売上うち商品販売うち飲食販売
2020年3月1万3,642円4,122円2,982円
2021年3月1万4,834円4,548円3,237円
2022年3月1万5,748円4,822円3,105円
2023年3月1万6,644円5,157円3,258円

売上全体で大きな割合を占めているのはチケットですが、それ以外の商品・飲食の売上も年を追うごとに増加していることがわかります。

売上拡大というと、顧客数に目が向きがちですが、顧客1人あたりの売上を増やすことも重要です。このことを頭で理解していても、つい新規顧客を追いかけてしまう会社やビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。

まずは、目の前のお客様にさらに満足してもらうにはどうしたらいいか、クロスセル(組み合わせ購入の提案)やアップセル(客単価を増やす取り組み)の機会をつくれないかなどを再チェックしてみましょう。

経営戦略3.ゲストの滞留時間を伸ばしている

東京ディズニーランド(東京ディズニーシー含む)のゲストの滞留時間も開園以来ずっと伸び続けています。開園から約1年後の1984年3月と2019年3月を比較すると、3.7時間もゲストの滞留時間は伸びています。

ゲストの滞留時間
1984年3月6.2時間
2019年3月8.9時間
上記の差3.7時間

滞留時間が延びている大きな理由は、アトラクション数が増加したからでしょう。開園当初32だった東京ディズニーランドのアトラクション数は、2023年3月時点で45と13も増えています。

滞留時間が伸びたからこそ、チケット料金を値上げしてもゲストの抵抗感がなく、東京ディズニーランドでゲストが商品や飲食で使うお金が増えやすいといえます。つまり、ゲストの滞留時間が伸びることは、ここまでお話してきたポイント2・3とリンクしているということになります。

売上や利益を増やそうと考える前に、お客様との接触機会や滞留時間を増やせないかを考えてみましょう。

ポイント4.財務基盤がしっかりしている

新型コロナウイルス感染が広がる前、オリエンタルランドの財務は優良企業のお手本でした。着実に売上高を伸ばすとともに、営業利益もしっかり積み上げ、フリーキャッシュフロー(企業が自由に使えるお金)もしっかり確保していました。

2024年3月期の財務状況

売上高6,184億円
営業利益1,654億円
経常利益1,660億円
フリーキャッシュフロー948億円

この強い財務基盤があったからこそ、オリエンタルランドはコロナ禍による逆風に耐えやすかったといえます。

とはいえ、長期休園などの影響を受け、オリエンタルランドの有利子負債は、2020年3月期の870億円から、コロナ禍の間に2,426億円まで膨らみました。しかし、借金を急増させたにもかかわらず、オリエンタルランドは第三者機関の格付で高評価を受けています(例:日本格付研究所のAAなど)。

つまり、この借金増加で東京ディズニーの経営が揺らぐ可能性は低いということです。

自分たちの力ではどうしようもない不可抗力がいつ起こるかわかりません。それが起こったときでも、中長期的に耐えられるよう、会社や店舗、事業部、チームなどの売上と支出のバランスを厳しい目で再チェックしてみましょう。

ポイント5.低利率融資を実現している

コロナ禍の影響で借金(有利子負債)が増えてしまったことは、オリエンタルランドの経営においてネガティブな要素です。しかし、その中身を見ると、低利率の負債が中心のため、今後の東京ディズニーランド経営への影響は最小限と考えられます。

例えば、オリエンタルランドは、新型コロナウイルス感染が日本で広がった以降の2020年9月~2022年1月までの間に1,800億円の社債を発行していますが、以下のように低利率に設定しています。

社債発行日発行額利率(年)
2020年9月400億円0.150%
2020年9月300億円0.200%
2020年9月300億円0.290%
2021年9月300億円0.001%
2021年9月200億円0.090%
2022年1月300億円0.040%

このほか、金融機関などからの借入金もありますが、やはりこちらも1%を大きく下回る低利率です。

残高平均利率
1年以内に返済の借入金52億円0.276%
長期借入金74億円0.626%

このような低利率の融資が可能なのは、東京ディズニーランドというブランドへの信用力に加えて、ポイント4で紹介したような強固な経営基盤があったからでしょう。有利な条件でいつでも借金ができるよう、健全な収支や財務基盤を目指しましょう。

とくに注目したい東京ディズニーランドの経営戦略は?

東京ディズニーランドの経営戦略から学ぶ、他業種でも参考になる5つのポイント
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ここで、お話しした東京ディズニーランドの経営戦略5つのポイントのなかで、とくに注目したいのは1つ目の「値上げと価値向上をセットで行っている」です。

今、商品価格やサービス料金を値上げすべきか、据え置くべきかで悩んでいる企業や店舗は多いと思います。そこには原材料高という要因があるのはわかりますが、だからといって企業都合の値上げは消費者の反発を招きやすいのも事実です。

東京ディズニーランドのような「値上げと価値向上をセットで行う」努力をすることで、消費者の反発を招かずに、値上げしていくことが可能かもしれません。経営やビジネスのヒントにしてみましょう。

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