最終更新日:2023/08/31
 
不動産所得の事業的規模とは?基準やメリット・デメリットを解説
(画像=guy2men/stock.adobe.com)
大西 勝士
大西 勝士
フリーランスの金融ライター(AFP、2級FP技能士)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。10年以上の投資経験とFP資格を活かし、複数のメディアで執筆しています。

個人が不動産投資で受け取る家賃収入は、不動産所得として所得税・住民税の課税対象となります。不動産所得は他の所得(給与所得など)と合算して課税されるため、所得が増えるほど税率が上がり、税負担も増えます。ただし、所有不動産が増えて「事業的規模」と認められると、さまざまな税務上の特典を受けられるようになります。不動産投資で収益を増やしていきたいのなら、事業的規模について理解しておくことが大切です。今回は、不動産所得の事業的規模の基準や税務上の特典と必要な手続きについて解説します。

目次

  1. 不動産所得の事業的規模とは
  2. 事業的規模の基準は「5棟10室」
  3. 不動産投資を事業的規模で行うメリット
    1. 青色申告特別控除を利用できる
    2. 家族への給与を経費に計上できる
    3. 回収不能となった家賃を経費に計上できる
    4. 建物の取り壊しなどの損失は全額経費に計上できる
  4. 事業的規模のデメリット
    1. 個人事業税の支払が必要になる
    2. 複式簿記による記帳が必要になる
    3. 配偶者控除や扶養控除を受けられなくなる
  5. 事業的規模へ変更するには「青色申告承認申請書」の提出が必要
  6. 不動産投資を行うなら事業的規模を目指そう

不動産所得の事業的規模とは

不動産所得の事業的規模とは、「不動産投資(不動産の貸付け)が事業として行われている」と認められる基準のことです。不動産所得は、不動産投資が事業として行われているかどうかで所得金額の計算上の取扱いが変わってきます。

事業的規模として認められるとさまざまな税務上の特典を受けられるため、税負担の軽減が期待できます。不動産投資の規模を拡大していく予定なら、事業的規模を一つの目標にするといいでしょう。

事業的規模の基準は「5棟10室」

不動産投資が事業的規模に該当するかは、原則として、社会通念上事業と称する程度の規模で行われているかで判断されます。国税庁のホームページでは、事業的規模の判定として以下の基準が示されています。

  • 貸与できる独立した室数がおおむね10室以上(マンション、アパートなど)
  • 独立家屋の貸付けはおおむね5棟以上(戸建てなど)

(出典:国税庁「事業としての不動産貸付けとの区分」)

この基準から、一般的には「5棟10室」といわれます。たとえば、所有しているアパート1棟の室数が10室以上の場合、区分マンションを10室所有している場合は事業的規模とみなされます。

上記の基準はあくまでも「おおむね」であるため、「5棟10室」と同程度の規模であれば、事業的規模と認められる可能性もあります。自分で判断できない場合は、税務署や税理士に相談してみましょう。

不動産投資を事業的規模で行うメリット

不動産投資が事業的規模と認められると、以下の税務上の特典を受けられるようになります。

青色申告特別控除を利用できる

青色申告特別控除とは、不動産所得から最高65万円まで控除できる制度です。複式簿記に基づいて記帳し、貸借対照表及び損益計算書を添付して確定申告(青色申告)を行うと、55万円の控除を受けられます。

また、所得税の確定申告書、貸借対照表及び損益計算書を提出期限までにe-Tax(国税電子申告・納税システム)で提出すると、控除額が10万円上乗せされ、最高65万円が不動産所得から控除されます。

事業的規模と認められない場合は青色申告でも10万円しか控除できないため、大きなメリットといえるでしょう。

家族への給与を経費に計上できる

不動産投資が事業的規模になると、家族に給与として支払った金額を必要経費として計上できます。

青色申告の場合は「青色事業専従者給与」に該当し、給与額の上限は定められていません。ただし、「労務の対価として相当であると認められる金額」という条件があるため、金額が多すぎると必要経費として認められない可能性があります。

また、「生計を一にする配偶者その他の親族」「15歳以上」「6ヵ月超、専従者として事業に従事」などの条件を満たす必要もあります。家族への給与をいくらに設定するか判断できない場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。

白色申告の場合は「事業専従者控除」が適用され、事業専従者が事業主の配偶者なら86万円、配偶者以外の親族は専従者一人につき50万円が不動産所得から控除できます。事業専従者控除についても、年齢や事業に従事している期間などの条件が設定されています。

回収不能となった家賃を経費に計上できる

事業的規模になって青色申告が認められると、回収不能となった家賃が生じた場合に、その家賃を必要経費に計上できます。回収不能となった家賃をその年の経費に計上すれば課税所得が下がるため、所得税・住民税の節税になります。

建物の取り壊しなどの損失は全額経費に計上できる

事業的規模になると、建物の取り壊しなどで生じた損失は全額必要経費に計上できます。また、控除しきれない損失(純損失)が生じた場合は、その損失を翌年以降3年にわたって繰り越して各年の所得から控除できるので、所得税・住民税の節税になります。

事業的規模でない場合、必要経費に計上できる損失はその年の不動産所得の金額が限度です。控除しきれなかった損失があっても、翌年以降に繰り越すことはできません。

事業的規模のデメリット

不動産投資が事業的規模になると、以下のようなデメリットも生じます。

個人事業税の支払が必要になる

事業的規模で不動産投資を行う場合は、個人事業税の支払が必要になります。個人事業税は、各都道府県に納める地方税です。

個人事業税の税額は、青色申告特別控除を適用する前の所得から事業主控除(年290万円)を差し引いた金額の5%となります。所得税の確定申告をしていれば、個人事業税の申告は不要です。各都道府県から納税通知書が送付されるので、内容を確認して納期限までに納めましょう。

複式簿記による記帳が必要になる

青色申告特別控除をはじめとする税務上の特典を受けるには、複式簿記により記帳を行い、貸借対照表や損益計算書などの書類を作成しなくてはなりません。作成した帳簿や書類は、原則として7年間保存する必要があります。 会計ソフトを利用すれば、個人でも複式簿記による記帳は可能です。しかし、会計知識に不安がある場合や本業が忙しい場合は対応が難しいかもしれません。その場合は、確定申告も含めて税理士に依頼する方法もあります。

事業的規模になって安定した収益を確保できているなら、必要経費と割りきって税理士報酬を払うのも選択肢といえます。

配偶者控除や扶養控除を受けられなくなる

事業的規模で不動産投資を行い、配偶者や親族に事業専従者給与を支払うと、配偶者控除や扶養控除は適用対象外となります。給与額によっては、かえって不利になることがあるので要注意です。家族に給与を支払う場合は、配偶者控除や扶養控除を考慮して金額を決めましょう。

事業的規模へ変更するには「青色申告承認申請書」の提出が必要

所有不動産が事業的規模に達して税務上の特典を受けるには、その年の3月15日までに、所轄税務署に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。また、家族への給与を経費として計上するには、「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出も必要です。

手続きをしなければ、事業的規模になっても青色申告特別控除などの特典を受けられません。自動的に特典が適用されるわけではないので、手続きを忘れないようにしましょう。

不動産投資を行うなら事業的規模を目指そう

所有不動産が増えて事業的規模になると、青色申告特別控除をはじめとする税務上の特典を受けられます。個人事業税が生じたり、複式簿記による記帳が必要になったりするデメリットはありますが、青色申告が認められることによる節税効果は大きいといえます。

家賃収入を目的に不動産投資に取り組むのなら、所有不動産を増やして事業的規模を目指しましょう。

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