コロナショックから見る金融投資行動の変化
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新井 智美
新井 智美
トータルマネーコンサルタント ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員 コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)を行う他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に金融メディアへの執筆及び監修も行い、現在年間200本以上の執筆及び監修をこなしている。これまでの執筆及び監修実績 は1,000本以上。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で私たちの生活環境は大きく変わりました。仕事や学校、日常生活にもその変化は及んでいます。このような状況下で私たちの金融投資行動にはどのような影響があったのでしょうか。

コロナショックによる変化点

具体的にコロナショックは私たちの生活環境にどのような変化を与えたのでしょうか。家計に着目すると2020年3月に小中学校の一斉休校によってパートなどを休まざるを得ず収入が減少した家庭もあります。その後、非正規雇用や学生のアルバイトを中心に収入が減り一方で食費(外食除く)などの支出が増えるといった生活様式の変化によって家計が変化する現象が起きました。

また緊急事態宣言が発出された同年4月以降では、テレワーク推進に伴い残業代がなくなるなど所定外の給与が減額され給与全体が前年に比べ1%以上下がる状況が続いています。また大手企業における夏のボーナスの集計を見ても多くの業種で減額が目立ち特に鉄鋼で-24.8%、機械金属が-11.21%、私鉄は-9.55%でした。

そのため「住宅ローンのボーナス時加算がある」「保険料の年払いをしている」「毎月の赤字をボーナスで補てんしている」といった世帯においては大きなダメージになっていることが予測されます。こうした状況において国民1人当たり一律10万円を給付する特別定額給付金の早期支給を求める人や緊急小口資金、総合支援資金、持続化給付金の申し込みに殺到する人などが見られました。

働きたくても働けなかったり営業したくても営業できなかったりする状況が続き経済的に困窮する人の様子が報じられたことは、記憶に新しいのではないでしょうか。

投資に対する損失の恐怖

日本では、新型コロナウイルスの感染拡大前から少子高齢化や長寿による経済的な不安が問題視されていました。老後のために備えようとしても預金の金利は、2021年2月時点大手銀行の定期預金で0.002%と歴史的に見ても低い状況です。そのため1990年ごろのバブル期のように10年で資産が2倍に増える状況にはなりません。

資産が増えない状況を「何とかしなければ」とは思うものの、その最大の壁となるものが「投資に対する損失の恐怖」です。また投資に対する知識や経験不足を感じながらそれらを学ぶ時間がなかったりその方法が分からなかったりするなど投資をためらってしまう理由は人それぞれあります。そのため投資の必要性は認識しているものの、第一歩を踏み出せていない人は少なくないといえるでしょう。

コロナショックと株価の推移

新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年10月に日本では、消費税が8%から10%へ引き上げられました。増税後の買い控えの対策もかねて「キャッシュレス・消費者還元事業」などさまざまな対策が講じられています。しかし2020年3月9日に内閣府が発表した2019年10~12月期の国内総生産(GDP)の改定値は、物価変動を除いた実質で前期比1.8%減、年率換算では7.1%減でした。

消費税増税で経済が落ち込んでいたところに新型コロナウイルスが発生してしまったのです。では、コロナショックにより株価はどのように変化したのでしょうか。2020年2月10日から見てみると同年3月19日までの1ヵ月弱の間に日経平均株価は30%近く下落。ところがその後の株価の推移は、2020年の年末に2万7,000円を突破し、さらに2021年2月15日には30年ぶりに3万円台に達しました。

<日経平均株価推移>

コロナショックから見る金融投資行動の変化

コロナショックの特徴と投資行動

今回のコロナショックは、これまでの金融危機の特徴とは異なります。従来の金融危機とは一線を画す中で私たちの投資行動にはどのような変化があったのでしょうか。

経済状況の動き

コロナショックは、米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーズが2008年9月経営破綻したことをきっかけに起きたリーマンショックと比較されます。リーマンショックは、投資と直接的な関係があったため、金融システム不安が広がり株価が暴落しました。一方で今回のコロナショックは、人の生命に対する影響から人工的に経済をストップさせたために起こった暴落とも考えられます。

リーマン・ブラザーズが破綻した2008年9月15日前の同年9月12日の日経平均株価は1万2,214円(終値)でしたがその後急落し同年10月28日には7,621円まで暴落しました。2009年1月7日には、9,239円まで値を戻すものの、2009年3月9日には7,086円まで下げてしまい、いわゆる二番底の状態に陥りました。

ところが先述した通りコロナショックでは、2020年3月19日に1万6,552円まで暴落したものの二番底といわれるような状況にならないまま同年年末に29年ぶりの高値を付けています。このような株価の動きは、リーマンショックとコロナショックの大きな違いの一つといっても過言ではありません。

個人投資家の行動

リーマンショックやコロナショックのような世界経済へ与える影響が大きい出来事が起こると株価が暴落するのが一般的です。株価の下落局面では、なかなか投資をする勇気がわきませんが逆に考えれば投資のチャンスともいえるでしょう。今回のコロナショックにおいて個人投資家は投資を避けるのではなく投資を行う動きがあったと見られています。

2020年5月23日の日本経済新聞によるとインターネット証券大手5社での少額投資非課税制度(NISA)口座の開設が急増し、同年4月に大手5社で約11万件と前年同月の2.8倍まで増加。これは、新型コロナウイルス感染症拡大による経済の停滞で2020年3月に株式市場が急落したことによる安値を資産形成の好機ととらえた個人投資家の流入が起こっていることの表れともいえます。

では、なぜ個人投資家はこのような投資行動をとったのでしょうか。2020年4月の緊急事態宣言の発令により人との接触・会話や移動が抑制されたため、出社しないリモートワークが急ピッチで導入されました。そのような背景から今回は株価の下落のほか日々の生活が変わり「投資」を検討する時間的余裕ができたことも投資を行う人が増えた要因の一つと考えられそうです。

また、以前からiDeCoやNISAなど投資を身近に感じていたことも関連し、将来への不安を感じた結果「貯蓄から投資へと意識が変化した」といえるかもしれません。しかし注意しなければならないのは、この株価の動きは実体経済を伴ったものとは考えにくい点です。頻繁に言及されることですが相場の予想は誰にも読むことはできません。つまり現状の上昇局面の相場がそのまま続くとは断言できないのです。

今後における投資行動

では、今後投資を行う際にはどのような点に気を付ける必要があるのでしょうか。

行動経済学から考える

行動経済学の一つに「損失回避性」があります。損失回避性とは「人は利得より損失を嫌う程度が強い」というものです。私たちは利得を目前にしたとき安全が確実でリスクを回避する行動をとります。例えば経済が右肩上がりに成長し、年を重ねるほど年収がアップしていくのであればリスクのある投資より元本が保証されている預金のほうが安全です。

一方で損失を目前にすると「リスク追求的」な選択をしがちになります。損失の可能性が高い場合、私たちは損失を確定させたくないため、一か八かの勝負をしがちです。つまり「これ以上損をしたくない」という考えが先行しあえてリスクをとる行動をしやすくなります。「新型コロナウイルスに感染してしまうのではないか」「雇用や収入は確保できるのか」などの不安を感じる人もいるかもしれません。

投資市場の活況を受けて短期目線での利益を狙った投資を始めた人もいるでしょう。しかしその場合は少し注意が必要です。投資には、長い時間や地道な作業の積み重ねや冷静な判断力が必要となり、簡単に身につくものではありません。投資を行って利益を得ている人もこれまでにさまざまな失敗を繰り返したからこそ最終的に利益を生み出せている可能性があります。

今後のライフプランを意識し長期的な目線をもって自分自身を成長させながら行うことを心がける必要があるといえるでしょう。

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