

「不動産事業における最大の目的は、キャッシュフローを得ること」……このような内容の発言が不動産投資家の書籍やブログなどで見受けられることがあります。
しかしキャッシュフローは、不動産経営における経営指標の一つに過ぎません。手元に現金を残すことだけを目的にすると不動産経営の大事なことを見落としてしまうおそれがあります。
そこで今回は資産運用の手段として、不動産経営を検討している人に向けて「キャッシュフローだけを目的にしないほうがよい理由」と他の大切な要素について解説します。
目次
キャッシュフローは長期で考える

キャッシュフローは現金収支ともいい、家賃収入から経費やローン返済分などの支出を引いた手取り収入のことを指します。
例えば経費とローン返済の合計11万円の支出に対して家賃収入が10万5,000円とするとキャッシュフローは差し引きマイナス5,000円です。
このようにマイナスのキャッシュフローとなる可能性の高い物件に、難色を示す不動産投資家は少なくありません。
小売や製造業など一般的な事業経営においてもキャッシュフローは重要な経営指標の一つであり、やりくりができなければ仕入れができず営業できなくなってしまいます。
不動産経営は運用期間が長い
ただし、不動産経営が多くの事業と異なる点は、運用期間が非常に長いということです。新築マンションの場合、保有期間が数十年になることもあります。
キャッシュフローが持つ価値について、この点を加味して考えなければなりません。例えば小売業でマイナスのキャッシュフローが数ヵ月続いた場合は運転資金が底をついてしまうため経営はかなり苦しくなるでしょう。
なぜなら仕入れてから売り上げを現金化するまでの期間が短くキャッシュフローがマイナスだと仕入れができなくなるからです。
しかし、不動産経営では物件を手放したときに初めて最終的な現金収支が明らかになります。
ローン完済後は支出が大幅に減るため、その期間のキャッシュフローはプラスになるでしょう。ローン返済期間中にマイナスになったとしても、その後の数年間で総合計がプラスに転じれば健全経営といえます。
金利や返済期間で目先のキャッシュフローは変わる

目先のキャッシュフローは、金利や返済期間などの要素で大きく変動します。
例えば鉄骨鉄筋コンクリート造りの住宅の法定耐用年数は47年ですが47年間ローンを組むことができたら多くの物件でキャッシュフローはプラスになるでしょう。
しかし返済期間が長い分、金利がかさみ総支払額は増えます。そのため47年間、黒字ギリギリのキャッシュフローで回したとしても、すぐに物理的な限界を迎えてしまうかもしれません。
するとローン完済後にもたらされるキャッシュフローの大幅なプラスで利益を伸ばすことはできなくなります。保有期間を通じた利益は、とても少なくなるでしょう。
金利も大きく影響します。
例えば2,000万円を35年元利均等返済で年利2%の場合、毎月の返済額は約6万6,252円です。年利3%の場合は毎月約7万6,970円となり金利が1%変わるだけで約1万718円増えます。
金利は政策金利や不動産価格によって変動するため、いつローンを組んだかによって目先のキャッシュフローに差がつくことになるのです。
不動産経営の基本は「良い物件を適正な家賃で長く貸す」
事業の基本は「安く買って高く売る」ことのため、不動産経営の場合は「良い物件を適正な家賃で長く貸す」ことにつきるでしょう。
金利や返済期間などの条件によって変化しやすいキャッシュフローは、経営の本質を表したものではありません。
早く始めれば将来受け取るキャシュフローを増やすことができる可能性あり

キャッシュフローを経営指標として考えるのであれば、もう少し専門的な知見を加えてみると良いでしょう。
不動産に投資すべきかどうかを判断する際に専門家が使うDCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)では、売却で得る収入を加えたキャッシュフローの総額と購入価額を比較します。
プロは目先の手取り収入ではなく将来を見据えて判断するのです。
サラリーマンのかたわら不動産経営に取り組む人は、DCF法ほど厳密に考える必要はありません。立地のよい東京23区などの物件であれば、ある程度の将来性は保証されます。
その中でさらなる有望な物件を不動産会社から紹介してもらえばより安心です。物件探しはプロに任せたほうが良いでしょう。
物件選定よりも大事なのは早く始めること
物件選定よりも大事なのは早く始めることです。
キャッシュフローがマイナスになる場合、給与収入の一部を運転資金に回しているようなものですから定年退職までに返済しておくのが理想といえるでしょう。
本業をがんばることによって給与収入を増やせれば第2第3の物件を購入することも検討できるため完済後に受け取れるキャッシュフローは2倍、3倍になることも期待できます。
返済期間に比較的余裕のある若いうちに始めることで選択肢が広がるのです。
目先のキャッシュフローに目を奪われない

キャッシュフローは金利や返済期間など変動しやすい要素の影響を受けるため、不動産経営における経営状態の一側面を表す指標に過ぎません。
専門家が用いるDCF法でもキャッシュフローはすべての保有期間を合計して考えます。
大切なのは目先の収入に惑わされず早く不動産経営を始めて給与収入に余裕があるうちにローンを完済することといえるでしょう。
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