不動産投資は、よく「生命保険の代わりになる」といわれます。これは不動産投資ローンを組む際、団体信用生命保険(団信)に加入することで、生命保険が持つ「保障」「貯蓄」「節税」の3つの機能に近い効果を得られるためです。本稿では、この3つの機能を軸に不動産投資と生命保険を比較します。資産運用やライフプラン設計にお役立てください。
生命保険の主な機能は「保障」「貯蓄」「節税」
はじめに、生命保険が持つ「保障」「貯蓄」「節税」という3つの機能を整理しましょう。
保障機能:万が一のときに保険金が支払われる
保険の機能の代表格は「保障」です。死亡したときや病気・ケガをしたとき、契約内容に従って保険金が支払われます。保障の機能は、契約者がお金を出し合うことによって成り立ちます。しかし、保険金の支払事由となる出来事がなかった人は、保険料を支払っただけで何ももらえません。
貯蓄機能:条件を満たせばお金が戻ってくる
保険料のかけ捨てを避けたい人のために、貯蓄機能を持つ保険もあります。これは保障機能を備えながら、解約した場合は一定の割合でお金が返ってくるものです。満期になると保険金が支払われる、養老保険や学資保険という生死混合型の保険もあります。
節税機能:所得税の還付や住民税の減税ができる
生命保険は、さまざまな節税にも使われます。保険料を支払っている期間は、生命保険料控除によって所得税や住民税の減税ができます。また、生命保険は相続税対策にも使われます。
非課税枠が「500万円×法定相続人の数」まで認められるため、現金のまま相続するよりも死亡保障のある生命保険に加入したほうが相続税を少なくできるのです。
団体信用生命保険を利用した不動産投資は3つの機能を備えている
不動産投資ローンを組む際、団体信用生命保険(以下、団信)に加入するケースも多いです。団信とは、ローン返済中に契約者が亡くなったり、重い障害が残ってしまったりしたときにローン残債が0円になる仕組みです。融資をする前提として金融機関から団信加入を求められるケースもあります。
団信と不動産投資のスキームは、生命保険が持つ「保障」「貯蓄」「節税」の3つの機能に近い効果を備えています。
保障機能
契約者に万が一のことがあればローン残債0円に
契約者に万が一のことがあった場合、団信によってローン残債が0円になります。この残債のなくなった不動産を売却すればまとまった現金が手に入りますし、不動産を所有し続ければ家賃収入を受け取り続けることも可能です。契約者のご家族にお金が直接支払われるわけではないものの、この団信の仕組みは「生命保険の保障機能」にとても近いといえます。
疾病保障付き団信でさらに保障を手厚く
さらに、疾病保障付き団信に加入することで、保障機能を高めることができます。これは通常の団信の保障に加えて、指定された病気になったときにローン残債がなくなるものです。一般的には、通常の団信に金利を上乗せして契約するケースが多いです。
ただ、どのような病気になったときに保障されるかは、その団信によって異なります。代表的なのが「がん・急性心筋梗塞・脳卒中」をカバーする3大疾病保障付きの団信です。さらに保障の手厚い7大、8大疾病保障付きの団信(例:3大疾病プラス、高血圧症・糖尿病・慢性腎不全・肝硬変・慢性膵炎)などもあります。
※ただし、団信で保障されるのは、上記の病気になったうえで「一定の状況に該当する場合のみ」という点にご注意ください。
貯蓄機能
ローン完済後に売却すれば現金化できる
団信は貯蓄性のないかけ捨て型の保険ですが、不動産投資には資産形成の機能があります。具体的なスキームの一例としては、ローン返済中は団信でリスクヘッジをしながら資産形成を進め、完済後は不動産を売却してまとまった現金を得るというやり方もできます。
そのまま家賃収入を得続ける、家族が住むなどの選択も
また、ローン残債のなくなった不動産を賃貸物件のまま運用すれば、毎月コンスタントに家賃収入が入ってきます。あるいは、入居者が退去後の賃貸物件にご家族が住んで、それまで払っていた自宅の家賃を浮かすといった方法もあります。
節税機能
減価償却費でキャッシュアウトしていないお金を経費化
団信への加入にかかわらず、もともと不動産投資は節税にも役立つ面があります。まず、減価償却費を計上することで節税効果が期待できます。これは建物購入費を毎年一定額、継続的に経費として計上するものです。実際にキャッシュアウトしていないお金を経費計上することで節税が可能になります。
損益通算で全体の所得を圧縮できるケースもある
また、不動産投資にかかった必要経費(管理委託費、修繕費、減価償却費など)が家賃収入を上回った場合、給与所得や事業所得などと損益通算することで全体の所得を圧縮し、所得税の還付や住民税の減税を受けられるケースもあります。
相続税の対象になるのは不動産のみ、団信にはかからない
「団信で支払われた死亡保険金は相続税の対象になるのか」について気になる人もいらっしゃるでしょう。通常の死亡保険金は(控除を超えた分に限って)相続税の対象になります。一方、団信で保障された分の死亡保険金は相続税の対象になりません。これは「相続前に債務が消滅した」と見なされるからと考えられます。
なお、ローン残債のなくなった不動産は相続税の対象になります。とはいえ、不動産の相続税評価額は時価の7~8割で評価されることも多いため、現金のまま相続するよりも税金を抑えやすいといえます。
どの機能を比べても不動産投資は魅力
3つの機能「保障」「貯蓄「節税」すべてにおいて、不動産投資は生命保険に対するメリットがあります。
保障機能を比較:団信だと保険料が不要
一般的な生命保険と団信の「保障機能」を比較してみましょう。
どちらも契約者に万が一のことが起こったとき、あるいは、重い障害が残ったときに「保険金でカバーしてくれる」という根本は同じです。団信の場合は、ご家族に直接現金が支払われるわけではありませんが、不動産を売却、あるいはそのまま賃貸し続けることで現金を得られます。
一方、生命保険と団信の大きな違いは、「定期的に支払う保険料が必要か否か」という点です。生命保険は定期的に支払う保険料が必要ですが、団信には保険料がありません(※)。同じ保障機能がありつつも「保険金の支払いが不要」という点は大きな優位性といえるでしょう。
※ただし、疾病保障付きの団信は上乗せ金利のあるケースが多いです。
貯蓄機能を比較:不動産投資のほうが資産価値が多くなることも
貯蓄機能に関しては、ローンを完済して手元に残る資産価値を考えるとわかりやすいでしょう。
たとえば自己資金が300万円で、ローン返済期間中の実質的な負担を月5,000円とします。30年間で完済したとすると、総支払額は480万円です。東京など需要が多いエリアのマンションであれば、築30年でも資産価値が1,000万円以上期待できるため、トータルで見ると資産がプラスになるといったケースです。
節税機能を比較:不動産投資は節税の上限がない
一般的な生命保険による節税は、所得税と相続税いずれも控除できる上限が決まっていますが、不動産投資の場合、上限はありません。控除の仕組みは基本的に同じなので、より多く節税できる可能性があるのは不動産投資ということになります。
生命保険のメリットも活用する
もちろん、生命保険にもメリットはあります。資産運用で合理的なのは、メリットの多い不動産投資を優先し、必要に応じて生命保険を利用するやり方です。多くの人はすでに生命保険に加入しているでしょうから、不動産投資を始める前に生命保険を見直すことをおすすめします。
生命保険のメリットは迅速性
生命保険のメリットのひとつは迅速性です。保険金は1週間程度で振り込まれるため、遺族はすぐに生活資金を確保できます。
生命保険でリスクヘッジする手も
不動産投資のリスクはエリアに大きく左右されます。大都市である東京や名古屋などは空室リスクが低いですが、その他の地方都市で行う場合、人口減少の影響で将来的な空室率が高まる可能性があります。思ったような成果が出ないときに備えて、貯蓄機能のある保険を活用してリスクヘッジするのも一案です。
保険と不動産にはそれぞれの役割がある
団信付きのローンを組んで不動産投資を行うと、「貯蓄」「保障」「節税」の機能を備えた生命保険の代わりになります。生命保険のメリットは、保険金がすぐに振り込まれることです。それぞれの節税機能に着目し、2つを併用する人もいます。不動産投資を行う際には、生命保険を見直すと機能の重複が見つかり、無駄を省けることがあります。
【オススメ記事】
・副業で考える人生設計|マンション経営も視野に入れた副業の可能性
・首都圏でのマンション経営|覚えておくべき「相場感」を紹介
・始める前に読んでおきたい 初心者向け長期資産運用のコツがわかる本5冊
・土地とマンションの資産価値は?「売却価値」と「収益価値」
・人生はリスクだらけ……でもサラリーマンが行う対策は1つでいい