「サラリーマン大家」がごく一般的な会話で用いられるようになった今、不動産投資に興味を持っている会社員は少なくありません。またその目的も、純粋な投資としての興味から節税、老後の備えにいたるまでさまざまです。しかし不動産投資というと、どうしても高額な買い物といったイメージが拭いきれない人もいるようです。
とくに不動産投資に興味はあるけれど、年収の目安がわからずに躊躇している人もいるかもしれません。そこで本記事では、不動産投資を行うにあたっての平均的な年収や融資を受けやすい人と受けにくい人の属性などについて解説し、併せて年収別の融資可能額をシミュレーションします。
目次
不動産投資はいくらから始められるの?
不動産投資というと高額な資金がないと始められないイメージがあるかもしれません。実際には自己資金が少なくても金融機関から融資を受けることによって始められる場合があります。不動産投資を始める年収の目安はどれくらいなのでしょうか。
不動産投資は融資を受けて始めるのが基本
不動産投資は全額自己資金で始める人は少なく、融資を受けて始めるのが基本です。一般的には自己資金(頭金)の目安は物件価格の10~20%程度といわれています。5,000万円の物件を購入する場合は、500~1,000万円の頭金が目安になります。
ただし、頭金の金額だけで決まるわけではなく、年収や資産状況、勤務先、勤続年数、家族構成などさまざまなファクターを総合して審査されます。さらに、借金の有無や各種ローンの支払遅延がないかもチェックされます。
会社員の平均年収は?
国税庁が公表している「令和2年分民間給与実態調査」によると、令和2年における会社員の平均年収は、男女合わせた全体平均で433万1,000円(男性532万2,000円、女性292万6,000円)となっています。前年の434万6,000円から0.8%減少しています。
令和2年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響でマイナス成長になっていますが、平均給与は平成22年度と比べても5.1%しか伸びておらず、400万円台前半で長期低迷が続いています。
年収500万円以上が不動産投資を始める目安
具体的に不動産投資は年収いくらから始めることができるのでしょうか。大まかではありますが、一般的に年収500万円以上程度が目安であるといわれています。
年収額に幅があるのは、不動産投資ローンの融資を受ける基準が金融機関や物件の状態、金融庁の方針などによって変わるためです。
例えば景気が上向きであれば、年収が300万円前後でも高額な不動産を購入できる可能性もあります。逆に不景気な時代に差しかかると、審査も当然厳しくなるおそれが出てくるのです。
では、500万円以上という具体的な根拠を考えてみましょう。上記年収調査における男性の平均年収が532万円で全体平均が433万円なので、これを基準にすると年収500万円以上は妥当な数字といえるでしょう。
不動産購入の目安として「年収倍率」という考え方があります。東京カンテイの「2020年新築マンション年収倍率」によると、首都圏新築マンションの年収倍率は10.79倍となっています。
つまり平均して年収の10倍程度の物件を買った人が多いことを意味します。頭金の金額にもよりますが、融資審査も10倍程度の基準で通った可能性があります。10倍とすると年収500万円なら好立地物件が望める5,000万円のマンション購入が可能です。
年収倍率の範囲に収まる年収があれば、金融機関の融資審査でも有利になります。安定した入居需要が見込めて資産価値も高い優良物件を購入するなら年収500万円以上が目安と考えてよいのではないでしょうか。
年齢別年収のグラフを見ると、男性の平均年収が500万円以上になるのは35歳以降になります。ただし、それまで不動産投資に関われないのではなく、頭金を積み立てて準備期間にすることができます。
例えば、22歳から35歳までの13年間に毎月5万円を積み立てると、利息を抜いても780万円の頭金が貯まります。頭金を10%と仮定すると5,000万円の物件を頭金500万円でローンを組むことが可能になるのです。
不動産投資で発生する費用はいくら?
不動産投資にかかる費用は大きく分けて、物件購入時にかかる「初期費用」、物件運用時にかかる「ランニングコスト」、物件を売るときにかかる「売却コスト」の3つがあります。それぞれの代表的な費用を見てみましょう。
初期費用
初期費用は、物件を購入するときにかかる費用です。
物件購入代金
最も大きな初期費用は物件購入代金です。新築マンション専門サイト「マンションエンジン」の調べによる東京23区新築マンションの平均価格(集計期間:2017年1月1日~2022年10月31日)は7,077万円(平均面積59.99㎡)となっています。ここでは60㎡7,000万円の新築区分マンションを購入したものとして以下の費用を計算します。
仲介手数料
中古の不動産を購入する際には不動産会社に仲介手数料を支払う必要があります。しかし、新築マンションの場合はマンションを開発したデベロッパーが直接販売するため、仲介手数料は発生しません。ここでは新築マンションの購入例ですので仲介手数料は無料です。
印紙税
ローンの契約書や不動産売買契約書には印紙税がかかります。契約書に貼付する形で納税しますが、頭金1,000万円を入れて6,000万円の融資を受けた場合は、「5,000万円を超え1億円以下のもの」に該当しますので、ローン契約書、不動産売買契約書ともに6万円(売買契約書は売主買主で2通必要なためそれぞれに6万円)の印紙を貼付します。
登録免許税
不動産を購入する際には、不動産登記にかかる登録免許税を納税する必要があります。住宅用新築物件では建物の所有権保存登記に対し、0.15%の税率(軽減税率)が課税されます。ただし、物件価格ではなく固定資産税評価額が課税標準になります。
課税標準は都道府県ごとに異なり、「東京法務局管内新築建物課税標準価格認定基準表(令和3年度)」にあてはめると、「鉄筋コンクリート造1㎡15万8,000円」が基準なので60㎡の物件の課税標準額は948万円になります。登録免許税は948万円×0.15%=1万4,220円になります。
司法書士報酬(依頼する場合のみ)
不動産登記を司法書士に依頼する場合は司法書士報酬がかかります。報酬額は司法書士事務所によって異なりますが、登記手続きや登録免許税の実費を合わせ10万円程度が相場といわれています。
固定資産税・都市計画税
固定資産税と都市計画税は物件引き渡しの前後で売主と買主が日割りで負担します。1月1日から引き渡しまでの分は売主が支払い、引き渡し後の分は買主が支払います。税率は固定資産税が物件の固定資産税評価額の1.4%、都市計画税が最大0.3%です。
不動産投資ローン事務手数料
不動産投資ローンを組む場合、金融機関に支払う手数料です。定額制と定率制があり、定額制は3万円程度、定率制は借入金額の1~3%が相場といわれています。
不動産投資ローンの保証料
不動産投資ローンではローン保証会社が保証人になるのが一般的です。保証料は一括で支払う方法と、金利に上乗せして支払う方法があります。一括の場合は融資総額の2%程度、金利上乗せの場合は0.2~0.3%程度が目安になります。
ランニングコスト
ランニングコストは物件を運営するためにかかるコストです。一棟所有と区分所有ではかかる費用が異なる部分があります。ここでは区分所有の例を挙げます。
管理費
管理組合に支払う管理費用です。物件規模によって異なりますが、一般的には月5,000~1万円程度が相場です。
修繕積立金
将来の大規模修繕に備えて積み立てる費用で、同じく管理組合に支払います。一般的には月5,000~1万5,000円程度が相場です。
保険料
火災保険料は保険会社によって異なりますが、区分マンションの場合、年1~2万円が相場といわれています。
固定資産税・都市計画税
固定資産税と都市計画税は毎年支払いがあります。原則として6月・9月・12月・2月の4回に分けて支払います。
売却コスト
7,000万円で購入した物件を30年間運用し、ローンを完済して売却する場合は以下のような売却コストがかかります。
仲介手数料
購入する際は新築で仲介手数料はかかりませんでしたが、不動産を売却する際は中古になっていますので、不動産会社に仲介手数料を支払います。築30年の物件が5,000万円で売れた場合の仲介手数料は、「取引額×3%+6万円+消費税」の速算式にあてはめると、5,000万円×0.03+6万円×1.1=171万6,000円となります。
印紙税
売買契約書に貼付するため、購入時と同じく6万円×2通で12万円の印紙税がかかります。
抵当権抹消登記費用
抵当権抹消登記費用として、不動産1個につき1,000円(土地・建物をセットで売る場合は2,000円)の登録免許税がかかります。ほかに所有権移転登記のための代理人依頼手数料(司法書士依頼手数料)として3~5万円程度を司法書士に支払います。手数料は司法書士事務所によって異なるので、事前に確認するようにしましょう。
取引立会い料
不動産の売買は司法書士が立ち会って金融機関と売買代金の決済や権利関係の手続きが行われます。このとき司法書士に取引立会い料を支払う必要があります。2万円程度が相場といわれています。
不動産譲渡所得税
物件の購入価格よりも高く売れた場合は差額に不動産譲渡所得税が課税されます。この例では購入価格7,000万円の物件を5,000万円で売却したので不動産譲渡所得税は非課税です。
売却損は出ていますが、融資を受けた6,000万円は30年の家賃収入で返済したため、自己資金1,000万円で5,000万円の売却代金を得たことになり、この不動産投資は大成功だったと判断できます。
※コストは一例であり、ケースによってこの他にかかる経費があります。
不動産投資ローンでいくら融資を受けられる?
不動産投資ローンで年収のいくらまで融資を受けられるのかはよく問われる疑問です。最もわかりやすい目安として「年収倍率」という指標があります。
リノベーション設計施工の専門サイト「ゼロリノベ」によると、住宅ローンの例で年収400万円の場合、返済比率を30~35%に設定した融資可能額は約4,000万円と算出しています。つまり年収倍率10倍が目安ということになります。 同じように500万円、700万円、1,000万円の年収別に融資可能額を見てみましょう。
年収500万円の場合
年収500万円(月収41万6,667円)の場合、融資可能額は5,000万円(フルローンの場合)となります。5,000万円の融資を金利1.2%、元利均等払い、返済期間35年で受けた場合、毎月の返済額は14万5,851円で返済負担率は35%となります。
しかし、不動産投資ローンは金利が高いので、頭金を1,000万円(20%)入れて融資額を4,000万円、金利2.0%にした場合、毎月の返済額は13万2,505円で返済負担率は31.8%になります。
年収700万円の場合
年収700万円(月収58万3,333円)の場合、融資可能額は7,000万円となります。上記と同じ条件で頭金1,400万円(20%)を入れて5,600万円の融資を受けた場合、毎月の返済額は18万5,507円で返済負担率は同じく31.8%になります。
年収1,000万円の場合
年収1,000万円(月収83万3,333円)の場合、融資可能額は1億円となります。同じ条件で頭金2,000万円(20%)を入れて8,000万円の融資を受けた場合、毎月の返済額は26万5,010円で返済負担率は同じく31.8%になります。
以上のシミュレーションから判断すると、フルローンの場合、住宅ローンで年収の10倍、不動産投資ローンで年収の8倍程度が融資を受けられる目安と考えてよいでしょう。もちろん頭金を多く入れればその分融資額が減るので、より審査が通りやすくなります。
※シミュレーションは一例です。参考までにお考えください。
融資を受けやすい人の属性
金融機関から融資を受けるには、属性が重要になります。属性とは、融資の返済に影響を与える事柄や条件のことです。
先に述べたように年収は500万円以上が一つの目安になりますが、次のような融資を受けやすい属性であれば年収が少なくても融資審査に通る場合があります。そのため、年収が低いというだけで融資を諦める必要はないのです。
・個人信用情報に問題がない人
・安定した職業や勤務先の人
・金融機関が重視する年齢層の人
・安定した資産があり、借金が少ない人
・家族状況が良い人
・住居が持ち家の人
個人信用情報に問題がない人
個人信用情報に問題がない人は高く評価されます。個人信用情報とは、過去に行った借り入れの返済状況や残債務、遅延の有無などの情報を指します。
金融機関は返済能力のある人に融資をしたいので、過去に債務不履行や遅延の実績があると審査に通らない可能性が高くなります。なお、借金を少なく見せようとしても調べればわかるので、借り入れ状況は正直に記載することが大事です。
安定した職業や勤務先の人
不動産投資ローンの場合、返済の原資は家賃収入ですが、空室があった場合は給与から支払うこともあります。そのため、収入が不安定な個人事業主よりも会社員や公務員のほうが審査は通りやすくなります。
勤務先も大企業や公共団体なら有利になるのは確かです。また、勤務先だけでなく勤続年数も重視されます。したがって、短期間のうちに転職を繰り返すと不利になると考えたほうがよいでしょう。
金融機関が重視する年齢層の人
年齢は融資期間にも関連するので、考慮される項目のひとつです。完済年齢の基準が金融機関ごとに決まっているので、あまり年齢が高いと短い期間のローンしか組めない場合があります。
住宅支援機構が公表した「2021年度住宅ローン貸出動向調査」によると、金融機関が最も重視する顧客層は30歳台後半~40歳台前半で73.4%とほぼ4分の3を占めています。20歳代後半~30歳代前半が24.0%で続き、40歳代後半~50歳代はわずか2.7%にすぎません。
ただし、必ずしも若ければよいというわけではなく、会社での年収や地位が高くなる30歳台後半~40歳台前半が属性としては最も高く評価されることがわかります。
安定した資産があり、借金が少ない人
資産構成の内容も重視されます。借手には資産だけでなく、多くの場合借金があるからです。現金での借金の他、ショッピングローンや自動車ローンなども借金に含まれます。資産内容が安定していて、借金が少ない人は評価が高くなるでしょう。
資産内容としては不動産や国債などの債券は安全資産として評価されます。借金ではキャッシングローンやショッピングローンが多いと浪費癖があると判断される可能性があります。
家族状況が良い人
家族状況も融資審査の項目に含まれます。まず独身者よりも家族がいる人のほうが評価されやすい傾向にあります。
独身者は返済できなければ自己破産することもできますが、家族を持っている人は子どもの将来もあり、そう簡単に自己破産を選ぶことができません。自治体に相談するなど、懸命に返済の道を探すでしょう。
また、親と同居している場合もプラス評価となります。万一返済が苦しくなれば、親に援助してもらうことが可能で、年金などを充てることができるからです。子どもが社会人になっている場合も同様で、世帯年収が多ければプラス評価される可能性は高いでしょう。
住居が持ち家の人
住居に関する情報では、持ち家のほうが審査には有利です。賃貸住宅ならいつでも簡単に転居できますが、持ち家はやたらと転居できないうえ、資産にもなることから信頼性が高くなります。仕事では勤続年数が重視されるのに対し、住居では居住年数が問われるということです。
融資を受けにくい人の属性
融資を受けにくい人の主な属性としては次の3つが挙げられます。
・年収が基準よりも低い人
・仕事が不安定な人
・自己資金が少ない人
年収が基準よりも低い人
融資審査においては、各金融機関に最低年収の基準があります。前出した「2021年度住宅ローン貸出動向調査」によると、金融機関が最も重視する顧客の年収は600万円程度が54.6%、400万円程度が36.9%となっており、400万円程度~600万円程度が全体の91.5%を占めます。
したがって普通銀行においては、400万円以下の年収では審査が通らない可能性が高いといえます。繰り返しになりますが、融資の可能性を高めるには、500万円以上が一つの目安となっています。
仕事が不安定な人
先に述べたように、金融機関は借手の職業を重視します。そのため、大企業で安定的な収入が見込める人や、公務員などは有利になります。
半面、フリーランスを含む個人事業主は年によって収入に波があり、仕事が不安定と判断される可能性があるでしょう。また、年収が一定以上あったとしても非正規雇用の人も正社員に比べて不安定と判断される傾向があります。
自己資金が少ない人
自己資金が少ない人も不利になります。自己資金を貯めていた人はお金に対して計画性がある人と判断され、印象がよくなります。逆に年収が高くても自己資金が少ないと、貯蓄する習慣がない人と判断されるので、積立定期預金などで毎月給与からきちんと貯蓄しておくことが大事です。
事業計画を示せない人
マンション経営は事業ですので、いくらの家賃収入があるから毎月ローンをきちんと返済できるという事業計画を示す必要があります。事業計画書を提出できないと計画性のない借手と判断され、審査で不利になるのは避けられません。
事業計画書を作成すると融資審査のときだけでなく、経営が始まったあとも計画書に沿って運営しやすくなるので、必ず作成するようにしましょう。
年収にとらわれず、長期的な視点に立とう
年収が多少基準に満たなくても、条件によっては全額融資で購入できる場合もあります。そのため、必ずしも年収が低いだけで不動産投資ができないとあきらめる必要はないのです。収入が多少低かったとしても、融資期間を長くする、頭金を多めに入れる、収益性の高い物件を選んで想定家賃収入を高くするなどいろいろな方法で融資の可能性を高めることができます。
年収500万円以上、年収の8~10倍程度など文中で紹介した基準はあくまで目安に過ぎません。不足分を埋める方法については、不動産会社の担当者からもアドバイスを受けられるので、気軽に相談してみましょう。
不動産は多少高額であっても、きちんと入居者があり、節税も兼ねて活用できるのであれば、ほとんど手持ちのお金を使わずに投資を行える大きな利点があるのです。
また、マンション経営は目先の収支にとらわれず、長期的視点に立つことが大事です。そのため、金融機関にしっかりとした事業計画を提出することで、審査もクリアしやすくなります。 融資の審査においては、金融機関は借手の属性を重視します。先に紹介した融資を受けにくい属性になるのを避け、融資を受けやすい属性に近づけるのが理想です。そのためにはマンション経営を思い立ったら早い時期から計画を立て、属性を高めておく必要があります。
不動産投資にあたって年収が多くなくても、他の条件によっては融資を受けられる可能性があります。年収が少ないことで悩むよりまずは不動産会社に相談してみることが大事です。
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