不動産投資において、物件の購入はあくまでスタートラインに過ぎません。家賃収入を積み重ね、最終的に売却して初めて、その投資が成功だったかどうかが確定します。
都市部のマンション価格は歴史的な高水準にあり、保有物件に含み益が出ているオーナーも多いことでしょう。「今が売り時なのでは?」と心を動かされる一方で、「まだ持ち続けたほうが良いのか」「売ると税金で損をするのではないか」という迷いも尽きないはずです。
事実、不動産投資の売却は、タイミングと税金の知識が結果を大きく左右します。なんとなくの判断で売却した結果、想定以上の譲渡所得税がかかり、手残りがほとんどなかったという失敗例はたくさんあります。
この記事では、投資用不動産を「高く売る」だけでなく、「手残りを最大化する」ための売却技術について解説します。
目次
不動産投資の売却は「所有期間5年超」が鉄則
いつ売るべきかという問いに対し、税制面からの明確な答えは「所有期間が5年を超えてから」です。これは、売却益にかかる税率が劇的に変わるボーダーラインだからです。
まず、売却を検討する上で知っておくべき3つの重要ポイントを押さえましょう。
1 「短期譲渡」と「長期譲渡」の税率差は約2倍
所有期間が5年以下で売却すると「短期譲渡所得」となり、税率は39.63%(所得税30%+住民税9%+復興特別所得税0.63%)です。一方、5年を超えると「長期譲渡所得」となり、税率は20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)まで下がります。利益が同じでも、手残りは雲泥の差となります。
| 税目 | 短期譲渡所得(5年以下) | 長期譲渡所得(5年超) |
|---|---|---|
| 所得税 | 30.00% | 15.00% |
| 住民税 | 9.00% | 5.00% |
| 復興特別所得税 | 0.63% | 0.315% |
| 合計税率 | 39.63% | 20.315% |
【具体例】譲渡所得1,000万円の場合
短期譲渡:396万3,000円の税金
長期譲渡:203万1,500円の税金
差額:193万1,500円以上の節税効果!
2 デッドクロス(減価償却切れ)は売却検討のシグナル
減価償却期間が終了し、帳簿上の経費が減ることで税負担が増えるタイミング(デッドクロス)は、保有し続けるメリットが薄れるため、売却を検討する合理的なタイミングとなります。
3 金利上昇・物件価格高騰時は「売り手市場」
2026年1月現在のように物件価格が高騰している局面は、キャピタルゲイン(売却益)を最大化するチャンスです。ただし、金利上昇局面では買い手の融資ハードルが上がるため、売り時を逃さないスピード感も求められます。
売却益を大きく左右する「譲渡所得税」の仕組みを完全理解
「3,000万円で買った物件が4,000万円で売れたから、利益は1,000万円。税金は200万円くらいかな?」
もしこのように考えているなら、それは危険な誤解です。不動産売却にかかる税金は、「売れた金額」ではなく、「譲渡所得」に対して課税されます。
売却額そのものではなく「譲渡所得」に課税される
譲渡所得税の計算式は以下の通りです。
譲渡所得 = 譲渡価額(売却価格) - (取得費 + 譲渡費用)
税額 = 譲渡所得 × 税率(短期39.63% または 長期20.315%)
・譲渡価額:物件が売れた金額
・取得費:物件の購入代金や購入時の諸経費から、減価償却費相当額を差し引いたもの
・譲渡費用:売却時の仲介手数料や印紙税など
つまり、単に「売値-買値」ではなく、そこから諸経費を引き、さらに後述する「減価償却」の影響を加味したものが課税対象となります。
注意!「取得費」は購入価格から減っていく
ここが最大の落とし穴です。「取得費」は、購入時の価格そのものではありません。
不動産投資では、建物の購入代金を耐用年数に応じて毎年「減価償却費」として経費計上し、節税に役立ててきました。しかし、売却時には、これまで計上してきた減価償却費の累計額を、購入価格から差し引かなければなりません(取得費の減少)。
たとえば、3,000万円(建物2,000万円)で購入し、5年間で計500万円の減価償却をしたとします。この場合、売却時の計算上の取得費は2,500万円になります。
もし3,000万円(購入時と同額)で売れたとしても、「3,000万円 - 2,500万円 = 500万円」が利益(譲渡益)とみなされ、この500万円に対して税金がかかるのです。
「買った値段で売れたから税金はゼロ」にはならない、という「減価償却の罠」を必ず理解しておきましょう。
「5年ルール」の落とし穴|所有期間の数え方
税率が下がる「所有期間5年超」の数え方にも注意が必要です。
これは「購入日から丸5年経てば良い」わけではありません。税法上は「譲渡した年の1月1日時点で、取得日から5年を超えていること」が条件となります。
・例:2020年4月1日に購入した場合
・2025年4月2日(丸5年経過)に売却 → 2025年1月1日時点では4年9ヵ月しか経っていないため「短期譲渡(約40%)」
・2026年1月1日以降に売却 → 1月1日時点で5年を超えているため「長期譲渡(約20%)」
このように、実質的な保有期間は約6年近く必要になるケースが多いため、カレンダーでの確認が必須です。
プロが見極める3つの「売却タイミング」シグナル
では、具体的にどのようなタイミングで売却を決断すべきでしょうか。プロが注目する3つのシグナルを紹介します。
1. デッドクロス(黒字倒産リスク)が近づいた時
不動産投資を長く続けていると、「デッドクロス」と呼ばれる現象に直面します。
これは、ローンの元金返済額(経費にならない支出)が、減価償却費(支出を伴わない経費)を上回ってしまう状態のことです。
デッドクロス状態になると、帳簿上は黒字なので税金は増えるにもかかわらず、手元のキャッシュフローは減っていくという、税負担だけが重くなる苦しい状態に陥ります。特に築古木造物件などは減価償却期間が短いため、この現象が早く訪れます。
キャッシュフローが悪化する前に、売却して利益を確定させるか、あるいは新たな物件に買い替えて減価償却費を作り直すことが、有効な対策となります。
2. 大規模修繕の実施前や設備更新の直前
マンションの大規模修繕(12〜15年周期)が近づくと、修繕積立金が値上げされたり、一時金を徴収されたりするリスクが高まります。また、各部屋のエアコンや給湯器が一斉に寿命を迎える時期も、多額の出費が予想されます。
管理組合の総会資料や長期修繕計画書をチェックし、修繕積立金不足が懸念される場合や、設備更新のコストが利益を圧迫しそうな場合は、その直前に売却して「リスクを次のオーナーに譲る」のも一つの戦略です。
3. 周辺相場の高騰・再開発などの外部要因
自分の物件そのものだけでなく、エリア全体の市況を見ることも重要です。
近隣で大規模な再開発が発表された、新駅が開業した、といったポジティブなニュースがあれば、地価やマンション価格は上昇トレンドに乗ります。
インカムゲイン(家賃)は安定していても、キャピタルゲイン(売却益)が大きく狙えるタイミングであれば、思い切って売却し、その利益でさらに資産性の高い都心物件などに組み換える「攻めの売却」も検討すべきでしょう。
投資用不動産の売却活動|流れと高く売るコツ
実際に売却活動を始める際、居住用不動産とは異なる「投資用ならでは」の作法があります。
「オーナーチェンジ物件」として売るのが基本
投資用不動産は、入居者が住んでいる状態で、賃貸借契約ごと新しいオーナーに引き継ぐ「オーナーチェンジ」形式で売買されるのが基本です。
居住用と違い、買い手は室内を内見することができません。そのため、物件の価値を証明するのは「見た目」ではなく「数字」と「記録」になります。
・正確なレントロール(家賃表)
・入居者の属性情報や契約期間
・過去の修繕履歴や管理状況のレポート
これらの資料を完璧に揃え、管理状態の良さをアピールできるかどうかが、高値売却の鍵を握ります。
売却査定は「実利回り」と「積算価格」で見られる
買い手(投資家)はシビアです。「内装がおしゃれだから」といった理由だけでは高く買ってくれません。
主に重視されるのは、「利回り」と「積算価格」(土地と建物の評価額)です。
周辺の相場利回りが5%のエリアなら、家賃収入から逆算して「利回り5%になる価格」が上限の目安になります。
高すぎる売り出し価格は、長期間売れ残る原因となり、物件の鮮度を落とします。投資物件の相場観に精通し、適正かつ強気の査定を出せる不動産会社を選ぶことが重要です。
仲介手数料と諸経費|手残りはいくらになる?
売却代金がそのまま手に入るわけではありません。以下の諸経費がかかることをシミュレーションに入れておきましょう。
・仲介手数料:売却価格 × 3% + 6万円 + 消費税
・印紙税:売買契約書に貼る印紙(数千円〜数万円)
・抵当権抹消登記費用:司法書士報酬など(2〜3万円程度)
・繰り上げ返済手数料:銀行による(数万円〜)
概算で、売却価格の3.5%〜4%程度が諸経費として消えます。これに譲渡所得税を加えた額を差し引き、最終的な手残りを計算してください。
売却後の資産形成|「売りっ放し」にしない
無事に売却でき、手元にまとまった現金が入ったとします。ここで安心してしまうのが一番もったいない行動です。
売却益(キャッシュ)を次の優良物件へ再投資
不動産投資の成功者は、売却を「ゴール」ではなく「通過点」ととらえています。
売却で得たキャッシュ(+自己資金)を使えば、以前よりも高額で、より条件の良い物件(都心の築浅、駅近など)を購入できるはずです。
資産を入れ替え、質を高めていく「資産の組み換え」(アセット・リバランス)を繰り返すことで、雪だるま式に純資産を拡大していく。これが、富裕層が行っている資産形成の王道です。
確定申告は必須|赤字なら損益通算で税金が戻る?
売却した翌年の確定申告は必須です。利益が出た場合は納税が必要ですが、万が一「売却損(譲渡損失)」が出た場合も申告すべきでしょうか?
居住用財産(マイホーム)とは異なり、投資用不動産の売却損は、原則として給与所得などとの損益通算ができません(分離課税のため)。居住用財産に認められる損失の繰越控除なども適用対象外です。
ただし、同じ年に他の不動産を売って利益が出ている場合など、不動産譲渡所得内部での通算は可能です。税務処理は複雑になるため、必ず税理士に相談することをおすすめします。
まとめ:出口戦略を描ける者が不動産投資を制する
不動産投資は「買うまで」に9割のエネルギーを使いがちですが、実は「どう売るか」という出口戦略にこそ、投資家の手腕が問われます。
「5年ルール」や「減価償却」といった税金の仕組みを正しく理解し、市況を見極めて適切なタイミングで売却・組み換えを行うこと。これさえできれば、不動産投資はあなたの資産を盤石なものにしてくれるでしょう。
売却の相談も、購入と同じくらいパートナー選びが重要です。あなたの物件の価値を正しく評価し、次の資産形成まで見据えた提案ができる不動産会社に、まずは査定を依頼してみてはいかがでしょうか。
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