物件情報に書かれた「高利回り」の数字を見て、「本当にこんなにもうかるの?」と思ったことがある人は少なくないでしょう。
しかし、広告に踊る魅力的な数字だけを鵜呑みにすると、「思ったより儲からない」どころか、「こんなはずではなかった」と損失を抱えてしまう危険性もあります。
利回りは、物件の収益性を測るための非常に重要な指標ですが、その「種類」と「正しい計算方法」を知らなければ、投資の成功はおぼつきません。
そもそも「どうやって計算すれば、本当に儲かるかどうか分かるんだろう?」という人も、不動産投資の利回りを正しく計算・理解し、広告の数字に惑わされず、本当に収益性の高い優良物件を見抜く力を身につけましょう。
目次
不動産投資で本当に見るべき利回りは「実質利回り」ただ一つ
不動産投資の収益性を判断する際、本当に注目すべき利回りは「実質利回り」(ネット利回り)です。
物件の広告には「表面利回り」(グロス利回り)が大きく書かれていることが多いですが、それはあくまで参考値。その数字だけを信じて投資を決定するのは非常に危険です。まずは、その理由から解説します。
広告でよく見る「表面利回り」(グロス利回り)のワナとは?
表面利回りとは、物件の収益性を大まかに把握するための指標で、以下の計算式で算出されます。
表面利回り = 年間家賃収入 ÷ 物件購入価格 × 100
この計算式の注意点は、不動産経営に必ずかかる「経費」が一切考慮されていないところです。
たとえば、物件価格5,000万円、年間家賃収入300万円なら、表面利回りは6%です。
しかし、この300万円がすべてあなたの利益になるわけではありません。ここから管理費や固定資産税、保険料などが引かれます。表面利回りは、いわば「経営コストを無視した、理論上の最大値」であり、物件の収益性を過大評価させてしまうリスクがあるのです。
なぜ「実質利回り」(ネット利回り)が重要?不動産投資のリアルな収益性を表す指標
一方、実質利回り(ネット利回り)は、不動産投資のリアルな収益力を測るための、より現実に即した指標です。
実質利回り = (年間家賃収入 - 年間諸経費) ÷ (物件購入価格 + 購入時諸経費) × 100
この計算式では、分子(収入)から運営にかかる経費(管理費、固定資産税など)を引き、分母(投資額)には物件価格だけでなく購入時にかかった経費(仲介手数料、登記費用など)も加えます。
計算は複雑になりますが、この数値こそが、あなたの「手残りに近い、本当の利回り」を示しています。最低でもこの実質利回りを計算しなければ、その投資が本当に儲かるのかどうかは判断できません。
【一目瞭然】表面利回りと実質利回りの違いまとめ
両者の違いを、シンプルな表にまとめます。
| 比較項目 | 表面利回り(グロス) | 実質利回り(ネット) |
|---|---|---|
| 計算式 | 年間家賃収入 ÷ 物件価格 | (家賃収入 - 年経費) ÷ (物件価格 + 取得費) |
| 経費の考慮 | なし | あり |
| 特徴 | 計算が簡単。 広告でよく使われる。 数値が高く出やすい。 | 計算が複雑。 リアルな収益性に近い。 数値は低く出る。 |
| 注意点 | これだけで投資判断するのは危険! | 投資判断の必須指標! |
ステップで簡単!不動産投資の利回り計算方法【シミュレーション付】
「実質利回りの計算は難しそう……」と思うかもしれませんが、ステップバイステップで進めれば誰でも計算できます。具体的なシミュレーションを交えながら解説します。
【シミュレーション条件】
- 物件購入価格:3,000万円(中古ワンルームマンション)
- 月額家賃:12万円(年間家賃収入:144万円)
- 購入時諸経費:物件価格の7%(210万円)と仮定
- 年間諸経費:30万円と仮定
ステップ1:基本となる「表面利回り」を計算してみよう
まずは簡単な表面利回りから計算します。
- 計算式:年間家賃収入 ÷ 物件購入価格 × 100
- 計算:144万円 ÷ 3,000万円 × 100 = 4.8%
広告には「利回り4.8%」と掲載されます。
ステップ2:最重要!「実質利回り」の計算に必要な諸経費一覧
次に、実質利回りの計算で最も重要な「諸経費」を洗い出します。経費は大きく分けて「購入時にかかるもの」と「毎年かかるもの」の2種類があります。
1. 購入時諸経費(分母に加える)
物件価格のおおよそ6%~10%が目安です。
- 仲介手数料:不動産会社に支払う手数料(物件価格の3%+6万円+消費税が上限)
- 登記費用:所有権移転登記や抵当権設定登記の費用(登録免許税+司法書士報酬)
- 不動産取得税:不動産を取得した際にかかる税金(購入後しばらくして納税通知が来る)
- ローン事務手数料:金融機関に支払う手数料
- 印紙税:売買契約書やローン契約書に貼る印紙代
- 火災・地震保険料:ローン期間分を一括で支払うことが多い
2. 年間諸経費(分子から引く)
- 管理費:マンションの共用部分の管理費用
- 修繕積立金:将来の大規模修繕に備える積立金
- 固定資産税・都市計画税:毎年1月1日時点の所有者に課税される
- 賃貸管理手数料:入居者募集や家賃集金を管理会社に委託する費用(家賃の5%程度が相場)
- その他:火災保険料(年払いの場合)、修繕費(室内設備の故障時など)、税理士費用など
これらの経費は、不動産会社の担当者に依頼すれば、必ず「収支シミュレーション」として提示してもらえます。絶対に確かめましょう。
ステップ3:【実践】諸経費を考慮した「実質利回り」を計算してみよう
ステップ1、2の数値を使って、いよいよ実質利回りを計算します。
- 計算式:(年間家賃収入 - 年間諸経費) ÷ (物件購入価格 + 購入時諸経費) × 100
- 年間家賃収入:144万円
- 年間諸経費:30万円(仮定)
- 物件購入価格:3,000万円
- 購入時諸経費:210万円(仮定)
- 計算:(144万円 - 30万円) ÷ (3,000万円 + 210万円) × 100
= 114万円 ÷ 3,210万円 × 100 = 約3.55%
いかがでしょうか。
同じ物件でも、表面利回りは「4.8%」だったのに対し、実質利回りは「3.55%」と、1ポイント以上も下がりました。この差を認識することが、不動産投資の第一歩です。
【物件タイプ・エリア別】不動産投資の利回りの目安はどのくらい?
「実質3.55%」という数字が出ましたが、これが高いのか低いのか、判断基準(物差し)がなければ意味がありません。ここでは、一般的な利回りの相場観を解説します。
大原則として、「利回りが低い物件=リスクが低い(安定志向)」、「利回りが高い物件=リスクが高い(ハイリスク・ハイリターン)」というトレードオフの関係があります。
エリア別の利回り相場(都心 vs 地方)
- 都心(東京23区など):利回りは低い(実質3~4%台)。
- 理由:物件価格が高い反面、賃貸需要が旺盛で空室リスクが低く、資産価値も安定しているため(ローリスク・ローリターン)。
- 地方(政令指定都市以外など):利回りは高い(実質6~10%超も)。
- 理由:物件価格が安い反面、人口減少により将来の空室リスクや家賃下落リスクが高いため(ハイリスク・ハイリターン)。
築年数別の利回り相場(新築 vs 中古)
- 新築・築浅:利回りは低い。
- 理由:物件価格が高く設定されている。ただし、修繕リスクが低く、金融機関の融資(ローン)がつきやすいメリットがある。
- 中古(築20年以上など):利回りは高い。
- 理由:物件価格が安いため、計算上の利回りは高くなる。ただし、いつ高額な修繕費が発生するかわからないリスクや、融資期間が短くなるデメリットがある。
どちらが良い・悪いではなく、ご自身の投資戦略(安定重視か、高リターン狙いか)によって、選ぶべきエリアや築年数が変わることを理解しましょう。
要注意!「高利回り=優良物件」ではない。利回り計算だけで判断してはいけない理由
利回りの計算方法をマスターした上で、「利回りの数字だけに依存してはいけない」という視点を持たなければなりません。なぜなら、利回りはあくまで「現時点での想定」にすぎず、将来のリスクを反映していないからです。
リスク1:空室・家賃下落リスク(利回りの前提が崩れる)
利回り計算の根拠となる「年間家賃収入」は、多くの場合「満室想定家賃」で計算されています。しかし、30年、40年と経営していく中で、常に満室が続く保証はどこにもありません。
- 建物の老朽化による家賃の下落
- 周辺への競合物件の増加
- 入居者の退去から次の入居者が決まるまでの「空室期間」
これらの要因で家賃収入が10%下がれば、あなたの利回り(収益)もその分、確実に悪化します。
リスク2:高額な修繕費・管理費(経費の増大)
特に高利回りをうたう地方の中古物件に潜む最大の注意点がこれです。
購入時にはわからなかった給排水管の重大な劣化、屋上防水のやり直し、外壁塗装など、高額な大規模修繕が購入直後に発覚するケースがあります。
「利回り10%!」と喜んでいたら、翌年に300万円の修繕費が発生し、数年分の利益が吹き飛んでしまった……という話もあります。
リスク3:売却価格の下落(出口戦略の失敗)
不動産投資の最終的な損益は、売却したときに確定します。
(トータルの損益) = (運用期間中の家賃収入の累計) - (運用期間中の経費の累計) + (売却価格 - 購入価格)
いくら毎年高い利回りで運用できていても、売却時に購入価格の半値になってしまっては、トータルで大赤字になる可能性があります。
利回り(インカムゲイン)だけでなく、将来売却できるか、いくらで売れそうか(キャピタルゲイン/ロス)という「出口戦略」まで考えて物件を選ぶ必要があります。
投資判断の精度を上げる!知っておきたい利回り以外の3つの重要指標
実質利回りを計算した上で、さらに投資の精度を上げるために、プロが必ずチェックする3つの指標を紹介します。
① ROI(自己資金収益率):少ない自己資金でどれだけ効率良く稼げるか
ROI (Return on Investment) は、投下した「自己資金」に対して、どれだけのリターン(キャッシュフロー)が得られたかを見る指標です。
ROI = 年間キャッシュフロー ÷ 投下自己資金額 × 100
※年間キャッシュフロー = 年間家賃収入 - 年間諸経費 - 年間ローン返済額
レバレッジ(融資)を使って自己資金を少なく抑えるほど、このROIは高くなります。「自己資金をいかに効率良く運用できているか」を測る、不動産投資ならではの重要な指標です。
② イールドギャップ:物件の収益性と金利負担のバランスを見る
イールドギャップは、物件の収益力とローン金利との差を示す指標です。
イールドギャップ = 実質利回り - ローン金利
たとえば、実質利回り4%の物件を、金利1.5%のローンで購入した場合、イールドギャップは「2.5%」です。この差(利ざや)が大きいほど、金利が上昇しても利益が残りやすく、安定した経営ができると判断できます。
③ 返済比率:家賃収入に占めるローン返済額の割合
返済比率は、家賃収入のうち、どれだけの割合をローン返済に充てているかを見る指標です。
返済比率 = 年間ローン返済額 ÷ 年間家賃収入 × 100
この比率が低いほど、手元に残る現金(キャッシュフロー)が多くなります。一般的に50%以下が安全な目安とされており、この比率が低いほど、急な空室や家賃下落に対する耐久力が高まります。
利回りは万能ではない。正しい計算と多角的な視点で優良物件を見極めよう
不動産投資の利回り計算について、その重要性と具体的な方法、そして数字に潜むワナまでを徹底的に解説しました。
- 広告の「表面利回り」に惑わされず、必ず「実質利回り」を計算する
- 利回りは「エリア」や「築年数」によって相場が異なり、高ければ良いというものではない
- 利回り計算の前提となる「家賃収入」や「経費」は将来変動するリスクがある
- ROIやイールドギャップなど、利回り以外の指標も使い、多角的に物件を分析する
「利回り」は、数ある物件の中から投資候補を絞り込むための、強力な入口のフィルターにすぎません。
重要なのは、計算結果を鵜呑みにせず、その数字の裏にある「空室リスク」や「修繕リスク」、「出口戦略」までを冷静に分析し、最終的に信頼できる不動産投資のパートナーと相談しながら判断することです。
>>【無料eBook】「借金は悪である」という既成概念が変わる本
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