

ワンルームマンション規制は、土地活用としてマンション建築を検討する人だけでなく、投資家が需給トレンドを判断するに当たっても見過ごせない重要なテーマです。この記事では、ワンルームマンション規制によってどのような制約が生じるのかを、東京23区やその周辺、政令指定都市の具体例を挙げながら解説し、それらの規制が不動産投資に与える影響についても考えます。
目次
1.ワンルームマンション規制(条例)とは?

ワンルームマンション規制とは、建築基準法とは別に、各自治体が独自に定めたワンルームマンションの建築や管理に対する条例のことを指します。ワンルームとは物件タイプでいう1Rタイプに限らず、1Kや1DK、1LDKでも専有面積が一定以下であればワンルームとみなされる場合があります。
ワンルームマンション規制は、人口の多い都市部で制定されているのが特徴です。主な規制対象は、住戸の専有面積や戸数に関するものですが、それ以外にも廃棄物処理施設や駐輪施設、緑化などについても規制する自治体があります。
1-1.条例と指導要綱がある
各自治体のワンルームマンション規制には、「条例」と「指導要綱」の2種類があります。この2つには、法的拘束力の有無という大きな違いがあります。
「条例」は、建築基準法第40条に基づくもので、法的な効力を持ち、違反した場合には罰則の対象となることもあります一方、「指導要綱」は行政指導の一環として示される指針であり、法的な拘束力はありません。そのため、マンション建設事業者が指導に従わなかったとしても、罰則が科されることはないとされています。
ただし、指導要綱に違反し、是正勧告を受けても改善されない場合には、建築基準法上の「確認申請」が認められない可能性があります。そのため、実務上は条例と同様に遵守が求められる場面も多くあります。
1-2.東京23区や一部の政令指定都市などが対象
土地活用としてワンルームマンションの建築を検討する場合、そのエリアにどのような建築上の規制があるのかを、事前に把握しておく必要があります。
ワンルームマンション規制は、東京23区をはじめ、名古屋、大阪、川崎など一部の政令指定都市が対象です。特に東京都特別区(23区)では、すべての地域が条例または建築指導要綱の対象となっているため、東京23区に土地を所有するオーナーは注意が必要です。しかし、建築の規制がかかるということは、それだけワンルームマンションの入居者需要が高いエリアであることを意味するので、必ずしも不利な話ばかりではありません。
また、誤解されがちですが、アパートであっても建築基準法や地域独自の規制が適用されるため、「アパートなら自由に建てられる」という認識は誤りです。
2.ワンルームマンション規制(条例)ができた背景

自治体がワンルームマンション規制を定め始めたのは、1980年代からといわれています。しかし、本格的に規制が始まったのは2008年頃からです。
その背景の一つとして、2007年に実施された「税源移譲」が挙げられます。個人住民税の一部を国から地方自治体に移すことで、地方がより自立的に財源を管理できるようにする制度改革です。この制度変更が、ワンルームマンション規制に大きな影響を与えました。
この税源移譲によって、各自治体は住民税の確保が地域運営の重要課題となり、「住民票を移さずに都市部に住む単身者」への懸念が強まりました。特に都市部では、ワンルームマンションに住む若年層が住民登録を行わず、住民税を納めないケースが増加していたのです。
加えて、こうした単身世帯は短期間での転出入が多く、地域活動に参加しにくい傾向があります。ゴミ出しのマナー違反や騒音などの生活トラブルが地域で問題視され、周辺住民からは「ワンルームマンション建設反対」の声が上がるようになりました。
このような社会的背景のなかで、自治体としては安定的に税収が見込め、地域社会にも定着しやすいファミリー層の流入を促す方針を強めていきます。その結果、ワンルームマンションの新規建築を抑制し、ファミリー向け物件の割合を高めるための規制が導入されていったのです。
3.ワンルームマンション条例の主な規制内容

ワンルームマンション条例の主な規制内容は以下のとおりです。
3-1.最低住戸面積の規定
各自治体のワンルームマンション条例では、最低住戸面積が定められています。最低住戸面積とは、マンション1戸ごとに義務付けられた最低限の専有面積のことです。
ワンルームマンションは、専有面積を小さくすることで賃料単価を高めるという特徴がありますが、この収益性の追求に一定の歯止めをかけることを目的として、最低住戸面積の規定が設けられています。面積の基準は自治体によって異なりますが、東京23区では25㎡が一般的といわれています。
3-2.ファミリー向け住戸の設置義務
ワンルームマンション条例では、ファミリー向け住戸の設置が義務付けられています。これは、自治体がファミリー層の流入を図ることを目的とした措置です。ファミリー向けの定義は自治体によって異なるものの、専有面積は概ね40㎡以上とされています。
例えば、「40㎡以上のファミリー向け住戸を、床面積合計の1/3以上とする」といった規定が設けられるケースがあり、その場合、残りの2/3は単身者向け住戸となります。
3-3.管理人の設置義務
ワンルームマンション条例では、自治体によって管理人の設置が義務付けられています。一例として、「江東区マンション等の建設に関する条例施行規制」の第21条には、戸数に応じた管理人の配置基準が以下のように定められています。
管理人を週1日以上一定の時間帯に常駐させること。
・30戸以上50戸未満
管理人を1日4時間以上、かつ、週5日以上常駐させること。
・50戸以上
管理人を1日8時間以上、かつ、週5日以上常駐させること。
参考:江東区マンション等の建設に関する条例施行規則
こうした規定が設けられているのは、江東区の清掃リサイクル条例により、廃棄物の収集時間帯に管理人を常駐させる必要があるためです。
3-4.駐車場の設置に関する規定
ワンルームマンション条例では、駐車場の設置を義務付けている自治体もあります。例えば、「渋谷区ワンルームマンション等建築物の建築に係る住環境の整備に関する条例」では、駐車場の設置について以下のように規定しています。
幅2.5m以上、奥行き6.0m以上のスペースを設置(緊急自動車、引越、宅配車等や一時的な車両等の停留を含む)すること。
・自動二輪車及び原動機付自転車
計画戸数の1/10以上の台数(小数点以下の端数は切り上げ)を設置すること。
・自転車
ファミリー向け住戸(専有面積50㎡以上)は戸数の2倍以上、その他の住戸は戸数分以上の台数分を設置すること。
参考:「渋谷区ワンルームマンション等建築物の建築に係る住環境の整備に関する条例」のあらまし
このように自動車だけでなく、バイクや自転車についても規定している自治体があります。
3-5.その他の規制
その他の規制として、宅配ボックスの設置を義務付けている自治体もあります。例えば、埼玉県川口市は宅配ボックスの設置を2024年4月1日から施行する条例に入れています。
この他にも、自治体によってバリアフリー設計や防災備蓄倉庫の設置、集会室・多目的室の設置、最低限の緑地確保などを定めている場合があります。これらはいずれもコストの増加に加え、設計上の制約を増やす要因になります。
4.東京23区や23区外、政令指定都市におけるワンルームマンション規制(条例)の例

ワンルームマンション規制の具体例を、東京23区や23区外、政令指定都市で見てみましょう。
4-1.東京23区
東京23区におけるワンルームマンション規制の内容は、各区によって異なります。ここでは、品川区の「品川区ワンルーム形式等集合建築物に関する指導要綱」に基づく規制内容を紹介します。
1.床面積30㎡未満の住戸(ワンルーム形式等の住戸)の数が15以上
2.居室のある階数が3以上
3.ワンルーム形式等の住戸数が総戸数の1/3以上
・床面積
住戸の床面積は25㎡以上とすること。
・ファミリータイプの住戸設置
ワンルーム形式等の住戸数に応じた数のファミリータイプ住戸(40㎡以上)を設置すること。
・管理人
必要設備を備えた管理人室を設置し、総戸数に応じて以下のように管理人を設置すること。
~29戸:定期的駐在
30~49戸:週5日以上・4時間程度
50~99戸:週5日以上・8時間程度
100戸~:常駐
・駐車場
停車スペースを1台分以上設置すること。自転車駐車場は(住戸数×1/2)台以上を設置すること。
・その他
(敷地面積×5%)以上の空地を原則歩道上に整備すると共に緑化を推進すること。また廃棄物条例・要綱に基づき、廃棄物等保管場所を整備すること。
参考:品川区ワンルーム形式等集合建築物に関する指導要綱
4-2.東京23区外
ワンルームマンション規制は、東京23区外の地域でも設けられています。例えば三鷹市では、「ワンルームマンションの建築に関する指導指針」において、以下のような内容が規定されています。
15戸以上のワンルーム形式住戸(単身者向け、居室1つ)を持つ共同住宅・寄宿舎(他の用途との併用を含む)
・床面積
ワンルーム住戸は20㎡以上とすること(寄宿舎除く)。
・ファミリータイプの住戸設置
規定なし(第4条で居住水準向上、周辺環境への配慮を義務付け)。
・管理人
管理人室を設置すること(30戸未満、表示板設置、適切な管理体制があればこの限りではない)。
・駐車場
規定なし(第6条で違法駐車駐輪への配慮を義務付け)。
・その他
屋外階段、開放廊下、玄関ドア等から発生する生活上の騒音について、近隣関係住民に配慮した防音対策を施すこと。冷暖房設備、換気扇等から発生する臭気、煙及び熱風について、近隣関係住民に配慮した措置を施すこと。計画建物の建築計画及び入居後の管理方法について、近隣関係住民に対して事前に説明を行い、紛争が生じないよう努めること。
参考:ワンルームマンションの建築に関する指導指針
4-3.名古屋市
名古屋市では、「名古屋市中高層建築物の建築に係る紛争の予防及び調整等に関する条例」において、以下のような規制が定められています。
共同住宅の用途に供する建築物で、階数が2以上かつ住戸の数が10以上のもの。
・床面積と天井高
住戸の床面積は18㎡以上とし、居室の天井の高さは2.3m以上であること。居室の天井高は、居室部分の全容積を居室部分の床面積で割った「平均天井高」とする。
・管理人室
ワンルーム形式住戸が30戸以上有する共同住宅型集合建築物には、管理人室を設置し、管理人を置くこと。
・駐車場
駐車台数1台につき、幅2.3m、奥行き5m程度(機械式駐車場の場合を除く)で、自動車を安全に駐車させ、出入りさせることができるものであること。
自転車は、住戸の数に10分の5を掛けて得た数以上の台数の自転車が駐車できる駐車場を敷地内に設置すること。
・その他
ごみの保管場所は敷地内に設けること。また植樹や花壇を効果的に配置し、敷地内の緑化を行うこと。
参考:名古屋市中高層建築物の建築に係る紛争の予防及び調整等に関する条例
4-4.大阪市
大阪市では、「大阪市ワンルーム形式集合建築物に関する指導要綱」において、以下のような規制が定められています。
ワンルーム形式集合建築物(ワンルーム形式を含んだ複数の住戸を有する建築物)の新築、増築、改築、移転によるもの。
・床面積と天井高
住戸の床面積は18㎡以上、天井高は2.3m以上であること。
・管理人
ワンルーム形式住戸が30戸以上有する共同住宅型集合建築物には、管理人室を設置し、管理人を置くこと。ただしファミリー形式住戸等と併用して管理人室を設ける場合は不要。
・駐車場
住宅全戸数が30戸以上の場合は、「大阪市共同住宅の駐車施設に関する指導要綱及び同施行基準」の規定に基づく。30戸未満の場合は、住戸数に応じた適切な数の駐車施設を設置すること。
駐輪施設に関して共同住宅の場合は、「大阪市自転車駐車場の附置等に関する条例及び同施行規則」の規定に基づく。それ以外のものについては、同条例及び規則を準用すること。
・その他
「一般廃棄物及び再生利用対象物保管施設の設置に関する要綱」に基づき、廃棄物保管設備を設置すること。また可能な限り敷地内の空地を緑化すること。
参考:大阪市ワンルーム形式集合建築物に関する指導要綱
4-5.横浜市
横浜市は、ワンルーム建築物で階数が2以上かつワンルーム形式の住戸等を10以上有するものを対象に、「横浜市ワンルーム形式集合建築物に関する指導基準及び同施行細目」を定めていました。管理人室、ゴミ置き場、駐輪場、駐車場などの設置基準がありましたが、2021年4月1日に指導基準が廃止となりました。
ワンルームマンションへの規制が廃止されたことで、横浜市では条例による制限がなくなり、設計・建築の自由度が大きく向上しています。
参考:横浜市の条例・指導要綱
4-6.川崎市
川崎市では、「川崎市ワンルーム形式集合住宅等建築指導要綱」において、以下のような規制が定められています。
ワンルーム形式の住戸の数が、第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域又は田園住居地域に指定されている地域内にあっては10戸以上、その他の地域にあって15戸以上のワンルーム形式集合住宅等。
・床面積と天井高
住戸の床面積を25㎡以上、天井高を2.3m以上とすること。ただし、ワンルーム形式の住居の数が20戸未満の場合は、20㎡以上とすることができる。
・管理人
ワンルーム形式住戸を30戸以上有する共同住宅型集合建築物には、管理人室を設置すること。管理人については、ワンルーム形式の戸数に応じて基準に適合する管理人を以下の基準で置くこと。
(1)100戸以上の場合は常時駐在すること。ただし、ごみ収集日を含む週5日以上、かつ1日当たり8時間以上管理人が常駐する場合、管理人が不在の時間帯についても、管理人による管理と同等の管理を行えると認められる場合はこの限りではない。
(2)50戸以上100戸未満の場合はごみ収集日を含む週5日以上、かつ1日当たり8時間以上駐在すること。
(3)50戸未満の場合はごみ収集日を含む週5日以上、かつ1日当たり4時間以上駐在すること。ただし、30戸未満の場合はごみ収集日その他必要に応じて巡回して管理することができる。
・駐車場
ワンルーム形式の住戸の数の2分の1以上の台数の自転車置き場を設置すること。またワンルーム形式の住戸の数の10分の1以上の台数の自動二輪車置き場を設置すること。
参考:川崎市ワンルーム形式集合住宅等建築指導要綱
5.ワンルームマンション規制が建築や不動産投資に与える影響

ワンルームマンション規制は、建築や不動産投資にどのような影響を与えるのでしょうか。不動産投資の観点から見ると、今後ワンルームマンションの建設が難しくなることで、物件の希少性が相対的に高まると予想されます。
現在、晩婚化や非婚化の進行により、単身世帯は増加傾向にあります。単身者が3LDKのようなファミリー向け物件に住むとは考えにくく、今後もワンルームマンションを選ぶ人はさらに増えていくでしょう。その結果、空室率は下がり、ワンルームマンション経営の安定性が高まることが期待されます。
また、東京23区の新築マンション価格(70㎡換算)は2023年に初めて1億円の大台を超え、中古物件でも価格維持がしやすく、資産価値が下がりにくい傾向も見られます。このような状況下では、ファミリー向け新築マンションの取得が難しくなる一方で、新築ワンルームマンションの投資対象としての現実味が増しているといえるでしょう。東京23区内はもちろん、横浜、川崎、名古屋、大阪などの政令指定都市でも同様の傾向が見られます。
6.ワンルームマンション規制については不動産会社に相談するのがおすすめ

ワンルームマンション規制について見てきましたが、自治体ごとに内容が異なり、非常に複雑です。建築できる住戸の面積や戸数、必要な設備、管理体制まで多岐にわたるため、個人で全てを把握するのは容易ではありません。
そのような場合は、デベロッパーを兼ねた不動産会社に相談すれば、建築予定地域の条例に合わせたプランを提示してくれます。土地活用でワンルームマンションの建築を考えている場合は、まずは開発部門のある不動産会社を訪ねて気軽に相談してみるとよいでしょう。
※記事中で紹介した条例は一例であり、自治体によって規制の内容は異なります。参考程度にお考えください。
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