不動産を所有している人に課税される固定資産税は、賃貸経営において誰が負担するのか迷う人もいるでしょう。本記事では、固定資産税の基礎知識を解説するとともに、優遇措置や節税対策についても紹介します。
目次
1.固定資産税とは
固定資産税は、土地や建物などの不動産を所有している人に課される税金です。まずは、この固定資産税がどのような税金であるかを確認しておきましょう。
1-1.土地や不動産の所有者にかかる税金
固定資産税は、毎年1月1日時点で土地・建物などの固定資産を所有している人が負担します。納税は地方自治体から送付される納付書に基づいて、原則年4回(4月、7月、12月、翌年2月)に分けて行います。税率は課税標準額×1.4%です。
課税標準額は、税額を計算するうえで基礎となる額を指すもので、固定資産税では「固定資産課税標準額」と呼ばれています。
1-2.地域によっては都市計画税も発生
物件が所在する地域によっては、都市計画税も発生します。都市計画税は、都市計画区域内にある土地や家屋を所有する人に課される税金です。都市計画事業や土地区画整理事業などを実施している市町村が課税します。税率は課税標準額×0.3%です。
ただし、都市計画税の課税対象になるのは、都市計画区域内の市街化区域にある物件のみです。自分の物件がある地域が対象かどうか不明な場合は、市町村に確認すれば教えてくれます。または、物件を仲介した不動産会社に聞くのもよいでしょう。
2.賃貸物件の固定資産税を払うのは誰?
固定資産税は「固定資産を所有している人」が払う税金なので、賃貸物件にかかる固定資産税はオーナーが負担します。固定資産税は固定資産税課税台帳に記載された所有者が負担すると決められています。したがって、一戸建てであっても入居者が負担する義務はありません。
固定資産税はオーナーにとってコストにはなりますが、確定申告の際には必要経費として計上することができます。経費項目は「租税公課」です。
3.固定資産税の計算方法
固定資産税はどのように計算されるのでしょうか。複雑ではありますが、固定資産税の計算方法を確認しておきましょう。
3-1.基準となるのは固定資産税評価額
固定資産税の基準となるのは、固定資産税評価額です。固定資産税評価額は、固定資産税の税額を決める際の基準となる評価額のことをいいます。
土地や家屋の評価方法は「固定資産評価基準」に基づいて、各市区町村(東京23区は都)の担当者が1つ1つ物件を確認して決定しています。
担当者は以下のような基準で評価します。
・土地
市街地と農村地のどちらに該当するか、面積や形状はどうか、道路との接し方はどうかなど。
・家屋
住宅の規模や構造、築年数など。
固定資産税評価額は、「都市計画税」や「不動産取得税」、「登録免許税」などを計算する際にも使われています。
3-2.「課税標準額×1.4%」で計算
固定資産税の計算式は、「固定資産税=課税標準額×1.4%」です。所有する物件の課税標準額がいくらなのか知りたい場合は、納税通知書で確認できます。
では、固定資産税がいくらになるのか、区分マンションの例でシミュレーションしてみましょう。
・神奈川県の新築ワンルームマンション(RC造)
・床面積40㎡
・地価28万3,152円/㎡(神奈川県の2024年公示地価から算出)
・再建築価格33万3,000円/㎡(2024年地域別・構造別の工事費用表による神奈川県の価格)
・固定資産評価基準70%
・土地の固定資産税
28万3,152円×40㎡=1,132万6,080円
1,132万6,080円×70%=792万8,256円
小規模宅地に該当するため、固定資産税を1/6に減額します。
792万8,256円×1/6=132万1,376円
132万1,376円×1.4%=1万8,499円
・家屋の固定資産税
33万3,000円×40㎡=1,332万円
1,332万円×1.4%=18万6,480円
新築なので軽減税率1/2を適用します。
18万6,480円×1/2=9万3,240円
合計固定資産税は1万8,499円+9万3,240円=11万1,739円となります。
上記は新築ワンルームマンションの例であり、場所が東京23区の場合や、物件タイプがファミリーマンションの場合はより高い固定資産税額になります。
ただし、実際には固定資産税納付書が送付されるので、自分で計算する必要はありません。およその考え方として計算方法を知っておけばよいでしょう。
4.固定資産税の優遇措置
固定資産税は、所得税のように自分で計算して納付するものではないので、普段あまり意識しないかもしれません。しかし、相続で不動産を譲り受けた場合は、自分で優遇措置を利用して節税する必要があります。
以下のような土地と家屋に対する税優遇措置があるので、可能であれば利用するようにしましょう。
4-1.土地に関する優遇措置
土地に関する優遇措置には、「固定資産税等の住宅用地特例」があります。固定資産税等の住宅用地特例とは、土地の上に住宅を建てることで、土地部分の固定資産税が軽減される措置のことをいいます。固定資産税と都市計画税の減額幅は下表のとおりです。
区分 | 固定資産税 | 都市計画税 | |
---|---|---|---|
小規模住宅用地 | 住宅用地で住宅1戸につき200㎡までの部分 | 価格×1/6 | 価格×1/3 |
一般住宅用地 | 小規模住宅用地以外の住宅用地 | 価格×1/3 | 価格×2/3 |
賃貸住宅の場合は、小規模住宅用地の区分基準が「住宅用地で住宅1戸につき200㎡までの部分」であるため、2戸なら400㎡まで、3戸なら600㎡までと対象面積が拡大します。したがって、賃貸住宅はほとんどの場合、全戸が小規模住宅用地として認められるメリットがあります。
4-2.家屋に関する優遇措置
家屋に関する優遇措置には、「新築住宅に係る固定資産税の軽減措置」があります。2026年3月31日までに新築した場合、下表のように固定資産税が減額されます。
一般住宅特例 | 長期優良住宅 | |
---|---|---|
戸建て(2階以下) | 3年間1/2 | 5年間1/2 |
マンション等(3階以上の中高層耐火住宅) | 5年間1/2 | 7年間1/2 |
適用されるための要件は「床面積が50㎡以上(貸家は40㎡以上)280㎡以下」であることです。要件に該当する場合は、長期優良住宅認定通知書またはその写しを添付して市区町村に申告する必要があります。
3階建て以上のマンションは戸建てよりも適用期間が長くなるので有利です。
5.固定資産税の豆知識
固定資産税について知識があるに越したことはありません。知っておきたい豆知識として以下の3つを紹介します。
5-1.タワーマンションの高層階は固定資産税が高め
タワーマンションは階層によって固定資産税が異なり、高層階のほうが税額は大きくなります。かつては、床面積のみを基準にして固定資産税を算出していました。しかし、2017年の税制改正によって、高価格で取引される高層階のほうが、税負担が大きくなったのです。
マンション全体の税額は変わらないので、高層階の税負担が大きくなった分、低層階は負担が減ることになります。低層階を所有しているオーナーにとっては実質的な減税になったといえます。
5-2.建物を取り壊すと固定資産税の負担が増える
建物を取り壊して更地にすると、先に述べた家屋に関する優遇措置が使えなくなるので、固定資産税の負担が増えます。更地にした場合、建物の固定資産税がかからなくなるので得なように感じますが、その分住宅用地の特例が受けられなくなり、土地の固定資産税が高くなります。結果的に税負担が大きくなるので注意が必要です。
相続で得た土地を有効活用したい場合は、賃貸マンションなどを建てることによって、先に紹介した住宅用地の特例を受けられます。デベロッパーを兼ねた不動産会社に相談すれば、最適なプランを立ててくれるので相談してみるのも有効な方法です。
5-3.一部の自治体ではクレジットカード払いも可能
固定資産税の納税は、これまで銀行自動引き落としか、納付書を使って金融機関やコンビニなどで支払うのが一般的でした。最近ではこれに加えて、一部の自治体でクレジットカードを使って支払うことが可能になりました。
クレジットカード払いには、自宅にいながら納税できる、クレジットカード会社のポイントが貯まるなどのメリットがあります。すべての自治体がクレジットカード払いに対応しているわけではありませんが、ホームページで調べて扱っていれば利用するのもよいでしょう。
6.賃貸経営でかかる固定資産税以外の税金
賃貸経営ではケースに応じて税金を払う機会があります。固定資産税以外に以下のような税金があるので把握しておきましょう。
6-1.償却資産税
償却資産税は固定資産税の1つで、事業用資産で所得税法や法人税法で減価償却費として損金算入できる資産に課税される税金です。ただし、土地や家屋は固定資産税、自動車は自動車税が課されていますので、償却資産税の対象になりません。
主な償却資産の種類は、構築物、建物附属設備、機械及び装置、船舶、航空機、大型特殊自動車、工具器具備品などです。
固定資産税と同様に、毎年1月1日時点で償却資産を所有している場合に申告する必要があります。
6-2.個人事業税
個人事業税は、アパート・マンション経営など個人事業を行っている人に課税される税金です。事業を行っている全員が対象ではなく、以下の3つの条件をすべて満たした人が対象になります。
・所得金額が290万円を超える人
・法律で定められた70の業種に該当する事業を行っている人
70業種は第1種事業から第3種事業に分かれ、事業種ごとに3~5%の税率で課税されます。不動産貸付
業は第1種事業に該当し、税率は5%です。
6-3.所得税と住民税
所得税と住民税は、アパート・マンション経営などで利益を得た場合、経費を差し引いた所得に対して課税される税金です。
所得税の申告方法には総合課税と分離課税がありますが、アパート・マンション経営は総合課税で行い、所得は「不動産所得」に分類されます。
住民税は「所得割」と「均等割」があり、所得割は所得に応じて都道府県民税が4%、市区町村民税が6%の合計10%が課税されます。均等割は所得に関係なく一律課税です。
6-4.消費税
不動産経営の家賃にかかる消費税は、物件形態によって課税の有無が異なります。居住用の不動産を賃貸して得た家賃は消費税が非課税です。一方でオフィスなどの事業用不動産の家賃には消費税がかかります。
また、居住用不動産の契約締結時に受け取る礼金や契約更新時に受け取る更新料も非課税です。駐車場の料金については、家賃に含めて貸し付ける場合は非課税ですが、一般の利用者を対象に貸し付ける駐車場料金は課税されます。
入居者から家賃と一緒にもらっている管理費・共益費も消費税は課税されません。水道光熱費は家賃に含まれている場合は非課税ですが、別に請求すると課税対象になるので注意が必要です。
以上の税金のほかに、売買したときにかかる、「登録免許税」「不動産取得税」「印紙税」などもあります。
7.賃貸経営で節税するコツ
賃貸経営で少しでも利益を多くするには、支払う税金を少なくすることが大事です。賃貸経営は、やり方によっては節税することが可能です。ここでは、節税のコツとして3つの方法を紹介します。
7-1.経費をきちんと計上する
不動産所得は家賃収入から必要経費を差し引いて計算します。家賃収入が多い場合、なるべく多く必要経費を計上しないと納税額が高くなってしまいます。
経費になる費用には以下のようなものがあるので、該当する費用を払っている場合は漏れなく計上するようにしましょう。
・火災保険、地震保険などの保険料
・管理会社へ支払う管理委託料
・仲介手数料
・入居者付けのための広告宣伝費
・修繕費
・固定資産税、都市計画税などの税金
・司法書士、税理士、弁護士などへの報酬
・固定電話料金、携帯電話料金、プロバイダー料金などの通信費
・物件視察やセミナー参加などへの旅費、交通費
・車両購入、車検など自動車に関する費用
・情報収集や勉強に関する費用
・不動産会社と打ち合わせするときにかかる飲食代などの交際費
・建物の経年劣化分を費用計上できる、減価償却費
・消耗品費 など
特に減価償却費は実際の支出を伴わずに、帳簿上の経費にできるため手元にお金が残ります。建物の構造ごとに定められた法定耐用年数によって、償却し終わるまで毎年計上できます。
費用を漏れなく計上するために、支出したものは必ず領収書を保管しておくことが大事です。
7-2.青色申告を選ぶ
確定申告の方法には、「白色申告」と「青色申告」があります。白色申告は簡易的な記帳で申告できますが、節税メリットは期待できません。
一方の青色申告を利用すると、最大65万円の青色申告特別控除を利用できるほか、家族に支払う給与を青色専従者給与として費用計上できるので、節税効果が大きいです。
ただし、記帳を複式簿記にしなければいけないなど面倒な条件もあるので、副業で不動産経営を行う場合は、本業に支障が出ないように考慮することが求められます。
7-3.支払報酬を少なくする
不動産投資では登記手続きを司法書士、経理業務や確定申告代行を税理士、不動産トラブルの解決を弁護士に依頼することがあります。その際は事務所ごとに決められた報酬がかかります。
また、入居者付けしてもらったときや、管理を委託したときは不動産会社や管理会社に支払う報酬も発生します。
これらの支払報酬は、自分で行うことが可能な部分は自分で行うことで経費を削減できます。例えば、登記手続きや確定申告を自分で行う、物件管理のうち清掃は自分で行うなどです。
8.固定資産税の優遇措置を利用して節税対策しよう
固定資産税は不動産を所有していれば誰でも払う税金です。固定資産税は入居者に負担させることはできないので、オーナーにとってはコストの1つになります。
固定資産税には土地や家屋に対する優遇措置もあることから、更地で持っている場合と、マンションなどの建物を建てる場合の違いも把握する必要があります。
更地に車を駐車させる「青空駐車場」は遊休地を活用する方法の1つですが、固定資産税の優遇を受けることはできません。
やはり、固定資産税の優遇措置を有効に活かすには、賃貸マンションを建築するのが最も効率が良い方法です。建築した後の管理に関しては、デベロッパーを兼ねた不動産会社にそのまま依頼すれば、ほかに仕事を持っていても手間のかからない経営が可能です。
土地や建物の優遇措置を利用して有効な節税対策を行いましょう。
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