賃貸経営に関わる固定資産税の基礎知識。優遇措置と節税対策を押さえよう
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丸山 優太郎
丸山 優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している。

「賃貸アパートに住んでいるけれど、固定資産税って自分も払う必要があるの?」「これからアパート経営を始めたいけど、固定資産税がどれくらいかかるか不安……」

賃貸物件に関わると、入居者(借主)とオーナー(大家)、それぞれの立場で固定資産税に関する疑問や不安が生まれます。入居者にとっては「払う義務があるのか」が気になりますし、オーナーにとっては経営のコストとして無視できない存在です。特に、専門用語が多くて分かりにくいと感じている人も多いのではないでしょうか。

まず「賃貸物件の固定資産税は誰が支払うのか」という根本的な疑問を解消しましょう。その上で、オーナー(大家)として知っておきたい固定資産税の詳しい計算方法から、知らないと損をする軽減措置、賢い節税対策まで、しっかりおさえましょう。専門用語をかみ砕いて徹底的に解説します。

目次

  1. 【結論】賃貸物件の固定資産税は入居者(借主)にはかからない
  2. 【大家さん向け】賃貸経営における固定資産税の基本を学ぶ
    1. 固定資産税とは?いつ・誰が・何に納める税金か
    2. 固定資産税の計算方法「固定資産税評価額 × 1.4%」
  3. 知らないと大損!賃貸経営で活用できる固定資産税の軽減措置
    1. ① 住宅用地の特例(土地の税額が最大1/6に)
    2. ② 新築住宅の減額措置(建物の税額が3〜5年間1/2に)
    3. ③ 賃貸併用住宅の特例と注意点
  4. 固定資産税を意識した賢い賃貸経営と節税対策
    1. 対策① 物件選びの段階で固定資産税をシミュレーションする
    2. 対策② 確定申告で固定資産税を「必要経費」として計上する
    3. 対策③ 土地の活用方法を見直す(リフォーム・建て替え)
  5. まとめ 固定資産税を正しく理解することが賃貸経営成功への一歩

【結論】賃貸物件の固定資産税は入居者(借主)にはかからない

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結論からいうと、アパートやマンションなど賃貸物件の固定資産税を支払う義務があるのは、入居者(借主)ではなく、オーナー(大家)です。

なぜなら、固定資産税は「その年の1月1日時点での不動産の所有者」に課税される税金だからです。

ただし、「家賃に固定資産税が含まれている」という考え方は間違いではありません。オーナーは固定資産税をはじめとする様々な経費を考慮して家賃を設定しています。

つまり、入居者は家賃を通して間接的に固定資産税を負担している形にはなりますが、納税通知書が届いたり、直接税金を納めたりすることはありません。

【大家さん向け】賃貸経営における固定資産税の基本を学ぶ

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オーナーにとって固定資産税は、賃貸経営を続ける限り毎年支払い続ける重要なコストです。この税金の仕組みを正しく理解しているかどうかで、手元に残る利益は大きく変わってきます。まずは、すべての基本となる固定資産税の全体像をつかみましょう。

固定資産税とは?いつ・誰が・何に納める税金か

固定資産税の基本は、以下の4つの要素で整理できます。

項目 内容 補足
納税義務者 その年の1月1日時点の土地・家屋の所有者 年の途中で売買しても、納税義務者は1月1日時点の所有者です。
課税対象 土地家屋(建物) 事業用の機械などは「償却資産」として課税対象になります。
納付先 物件が所在する市町村(東京23区の場合は東京都) 都税事務所や市役所・区役所から納税通知書が届きます。
納税時期 年4回に分けて納付するのが一般的 自治体によりますが、6月、9月、12月、2月などが多いです。

また、賃貸物件が「市街化区域」というエリアにある場合、固定資産税とあわせて「都市計画税」も課税されることがほとんどです。これは、道路や公園、下水道などの都市計画事業の費用に充てられる税金で、固定資産税の納税通知書に合算されて請求されます。セットで覚えておきましょう。

固定資産税の計算方法「固定資産税評価額 × 1.4%」

固定資産税の税額は、以下の計算式で算出されます。

固定資産税 固定資産税評価額(課税標準額) × 税率(標準税率1.4%)

この計算式で最も重要なのが「固定資産税評価額」です。これは、総務大臣が定めた「固定資産評価基準」に基づいて、各市町村が個別に決定する、その不動産の公的な価値のことです。土地であれば路線価、建物であれば再建築価格などを基に算出されます。この評価額は3年に1度「評価替え」という見直しが行われます。

ご自身の物件の固定資産税評価額は、毎年4~6月頃に市町村から送られてくる「納税通知書」に同封されている「課税明細書」で確認できます。また、役所で「固定資産評価証明書」を取得することでも確認できます。

なお、税率の「1.4%」は国が定める標準税率であり、財政状況などに応じて市町村が異なる税率(例:1.5%など)を条例で定めている場合もあります。

知らないと大損!賃貸経営で活用できる固定資産税の軽減措置

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「毎年かなりの額になるな……」と不安に思うかもしれませんが、賃貸経営に使う居住用の物件には、税負担を大きく軽減してくれる特例措置があります。

これらを知っているか知らないかで、手残りが数十万円単位で変わることも珍しくありません。ここでは代表的な3つの軽減措置を解説します。

① 住宅用地の特例(土地の税額が最大1/6に)

数ある軽減措置の中で、最も節税効果が大きいのがこの「住宅用地の特例」です。これは、アパートやマンションなど、人が住むための建物が建っている土地の固定資産税を大幅に安くする制度です。

この特例を理解する鍵は、土地の面積です。具体的には、敷地を200㎡で区切り、それぞれ異なる軽減率が適用されます。

  • 小規模住宅用地(200㎡以下の部分)
    ・固定資産税評価額が1/6 に軽減されます。
  • 一般住宅用地(200㎡を超える部分)
    ・固定資産税評価額が1/3 に軽減されます。

たとえば、300㎡の土地にアパートが建っている場合、200㎡分は評価額が1/6に、残りの100㎡分は1/3に圧縮されてから税率が掛けられます。更地のまま駐車場にするよりも、アパートを建てた方が土地の固定資産税が劇的に安くなるのは、この特例があるためです。賃貸経営における最大のメリットの一つと言えるでしょう。

② 新築住宅の減額措置(建物の税額が3〜5年間1/2に)

こちらは、新築した「建物」にかかる固定資産税を、一定期間だけ半分に割り引いてくれる制度です。土地ではなく、建物に対する減額である点に注意してください。

  • 減額内容: 建物にかかる固定資産税額が 1/2 になります。
  • 減額期間:
    ・3階建て以上の耐火・準耐火建築物(RC造マンションなど) → 新築後5年間
    ・上記以外の一般の住宅(木造アパートなど) → 新築後3年間
  • 主な適用条件:
    ・居住部分の床面積が、1戸あたり50㎡以上280㎡以下であること。

新築でアパート経営を始める場合、この制度のおかげで当初数年間のキャッシュフローに大きな余裕が生まれます。特に新築物件を検討しているなら、必ず押さえておきたい重要なポイントです。期間終了後は本来の税額に戻るため、その後の収支計画も忘れずに立てておきましょう。

③ 賃貸併用住宅の特例と注意点

自宅と賃貸部分が一体となった住宅の固定資産税については、税金の計算が少し複雑になります。

ポイントは、建物全体に占める「居住部分の割合」です。

住宅用地の特例(土地)は、原則として建物全体の1/2以上が自己の居住用であれば、土地全体に適用されます。一方、新築の減額措置(建物)は、賃貸部分と自宅部分でそれぞれ適用要件(床面積など)を満たしているかを確認する必要があります。

たとえば、居住部分の割合が1/4以上1/2未満の場合、住宅用地の特例は土地の面積にその割合を乗じた部分にしか適用されません。このように、面積の按分によって税額が大きく変わるため、賃貸併用住宅を建てる際は、税金のシミュレーションを含めて専門家やハウスメーカーと綿密に打ち合わせることが不可欠です。

固定資産税を意識した賢い賃貸経営と節税対策

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軽減措置などの知識を、実際の賃貸経営に活かしてこそ意味があります。ここでは、物件選びから確定申告まで、経営の各フェーズで固定資産税をどうとらえ、対策していくべきかという戦略的な視点を提供します。

対策① 物件選びの段階で固定資産税をシミュレーションする

賢い賃貸経営は、物件を購入する前から始まっています。固定資産税は、物件の構造や築年数、エリアによって大きく変わるため、購入前に概算額を把握しておくことが極めて重要です。

  • 構造: 一般的に、木造 < 軽量鉄骨造 < 重量鉄骨造 < RC(鉄筋コンクリート)造の順に建物の評価額は高くなり、固定資産税も高くなる傾向があります。
  • 築年数: 新築は評価額が高いですが、前述の減額措置があります。中古物件は経年により評価額が下がっているため、税負担は軽くなります。
  • エリア: 当然ながら、都心部や駅に近い人気のエリアは土地の評価額が高くなります。

気になる物件が見つかったら、不動産会社の担当者に依頼して、前年度の固定資産税額を教えてもらうか、固定資産評価証明書を取得して概算額を計算しましょう。表面的な利回りだけでなく、固定資産税という持続的なコストを織り込んだ長期的な収支計画を立てることが、「こんなはずではなかった」という失敗を防ぐ第一歩です。

対策② 確定申告で固定資産税を「必要経費」として計上する

支払った固定資産税は、それ自体がコストであると同時に、所得税・住民税を節税するための強力な武器にもなります。

賃貸経営のために支払った固定資産税・都市計画税は、確定申告の際に「租税公課」という勘定科目で必要経費として計上できます。経費を計上すると、家賃収入から経費を差し引いた「不動産所得」の金額が圧縮されます。所得金額が低くなれば、それに応じて課税される所得税や住民税も安くなるのです。

これは非常に重要な節税策であり、減価償却費など他の経費と合わせて、忘れずに毎年申告する必要があります。なお、賃貸併用住宅の場合は、事業(賃貸)で使っている面積の割合に応じて家事按分し、事業分のみを経費として計上します。

対策③ 土地の活用方法を見直す(リフォーム・建て替え)

すでに物件を所有しているオーナー様も、固定資産税の視点から資産を見直すことで、新たな戦略が見えてくることがあります。

たとえば、空室が目立つ古いアパートを大規模リフォーム(リノベーション)した場合、建物の価値が向上し、固定資産税評価額が上がることがあります。しかし、それによって入居率が改善し、家賃収入が税金の増加分を上回るのであれば、それは有効な投資判断と言えます。

また、耐用年数を超えて老朽化した物件であれば、思い切って建て替えるという選択肢もあります。建て替えれば、再び「新築住宅の減額措置」が適用され、向こう3~5年間の税負担を大きく軽減できます。長期的な視点で、資産価値の維持・向上と節税を両立させる経営判断が求められます。

まとめ 固定資産税を正しく理解することが賃貸経営成功への一歩

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この記事の重要なポイントをまとめましょう。

  • 賃貸物件の固定資産税はオーナーが支払うもので、入居者(借主)に納税義務はない。
  • 大家さんにとっては大きなコストだが、「住宅用地の特例」や「新築住宅の減額措置」など、税負担を大きく軽減できる制度が存在する。
  • 物件選びの段階から固定資産税をシミュレーションし、購入後は確定申告で「必要経費」として計上することが節税の王道である。

固定資産税は、賃貸経営と切っても切れない関係にある重要なコストです。しかし、その仕組みを正しく理解し、活用できる制度を漏れなく利用することで、その負担を適正にコントロールすることが可能です。固定資産税を正しく理解し、味方につけることが、賃貸経営成功への確かな一歩となります。

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