賃貸経営で得た家賃収入は、不動産所得として税金がかかります。そのため、初めてマンション経営を行うオーナーは、家賃収入にどのような税金がかかるのか把握しておく必要があります。本記事では、家賃にかかる税金の基礎知識を解説し、ケース別の税額シミュレーション結果も紹介します。
目次
1.家賃収入に関する税金の基礎知識
家賃収入は不動産所得となり、一定の金額を超えると確定申告が必要です。まずは家賃収入に課税される税金について基礎的な内容を把握しておきましょう。
1-1.家賃収入にかかる税金の種類
個人がマンション経営で得た家賃収入から、諸経費を差し引いて計算した「不動産所得」に対し、所得税・住民税が課税されます。加えて2037年までは所得税に復興特別所得税2.1%を加算して計算する必要があります。
また、マンションなどの居住用物件の家賃収入には消費税はかかりませんが、事業用物件から生じる家賃収入は消費税の納税が必要です。
1-2.家賃以外で課税対象になる収入
家賃以外で課税対象になる収入には、入居時に1回のみ受け取る「礼金」、2年に1回程度契約を更新する際に受け取る「更新料」があります。金額はいずれも家賃1ヵ月分程度です。
共用部分の電気代・水道代などの名目で受け取る「共益費」も収入とみなされます。また、一棟物件で駐車場を入居者に貸している場合はその費用も、課税対象になります。
入居者から一時的に預かる敷金・保証金などは退去時に返還するため通常は収入となりませんが、返還しないケースがあった場合は収入とみなされます。
1-3.家賃収入は他の所得と合算して課税される
家賃収入は確定申告の際に「総合課税」で、給与所得など他の所得と合算して課税されます。もし、不動産所得が赤字になった場合は、給与所得などから差し引かれて所得税や住民税の節税につながる場合があります。
計算式は次のとおりです。
住民税=(不動産所得+その他の所得)×10%(所得割部分)
2.賃貸経営で計上できる経費の種類
賃貸経営では以下に挙げるようなさまざまな費用を、必要経費として計上できます。必要経費が多いほど不動産所得が少なくなるので、可能な経費は漏れなく計上するようにしましょう。
2-1.固定資産税
家賃収入を生み出す土地・建物に課税される税金は経費になります。
固定資産税はその年の1月1日時点で不動産を所有している人に課税されます。都市計画税も同様で、両者は不動産を所有している限り毎年納税する必要があります。これに対し、登録免許税や不動産取得税は購入時に1回のみ課税される税金です。
このほか、事業による所得金額が290万円を超えると、個人事業税がかかります。自分で計算する必要はなく、地方自治体から送付される納付書で納税します。
2-2.火災保険や地震保険の費用
賃貸経営では多くのオーナーが「火災保険」と「地震保険」に加入しています。施設内で起きた事故を補償する「賠償責任保険」に加入しているオーナーもいるでしょう。
これらの建物にかかる保険料は経費になります。最近の日本は台風による強風で物が飛んでくる事故も頻繁に起きているので、マンション設備の一部が飛んで隣家の窓ガラスを割るという事故も起こり得ます。賠償責任保険に加入しておけば安心です。
2-3.減価償却費
減価償却費は、物件の建物部分の価格を減価償却期間で割って、毎年計上できる経費です。減価償却期間は建物や設備の法定耐用年数によって決まります。マンションの建物構造は多くの場合RC(鉄筋コンクリート)造またはSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造なので、新築で購入した場合は47年の法定耐用年数があります。
減価償却費は実際に支出することなく、帳簿上の利益を減らせるため、節税になります。ただし、計上できるのは建物価格のみで、土地は劣化しないため減価償却できません。
2-4.維持管理にかかる費用
建物を維持管理するには、多くの経費がかかります。
例えば、不動産管理会社に管理を依頼している場合は、管理委託手数料がかかります。手数料の相場は、家賃の5%相当です。部屋ごとにかかるので、一棟物件の場合は「管理委託手数料×部屋数」で計算されます。
また、日常的なエントランスや階段など共用部分の修繕や、エレベーターなどの保守・点検費用もかかります。さらに、退去があった場合の原状回復費用でオーナーが負担する費用もあります。
2-5.修繕積立金
分譲マンションの場合、長期修繕積立金を管理組合に支払います。毎月支払うのは負担ではありますが、修繕工事の際には出費がないので、経費を平準化できます。
ただし、修繕積立金が経費として認められるには、国税庁が示した以下の条件に該当していることが必要です。
・区分所有者が管理組合に修繕積立金の支払い義務を負っていること
・管理組合が修繕積立金を区分所有者に返還する義務がないこと
・修繕積立金が修繕のためのみに使用され、他のことに流用しないこと
・修繕積立金の額が、長期修繕計画に基づいて、区分所有者の共有持ち分に応じて合理的な方法で算出されていること
参考:国税庁「賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い」
2-6.ローンの金利部分
不動産投資ローンの毎月の返済額のうち、金利部分は必要経費になります。元利均等払いの場合、ローン残高が減るに従い金利の支払いも減っていく仕組みです。そのため、返済初期は多くの金利を経費として計上できます。
ローン返済額の元本と金利分の区別に関しては、金融機関から送付されるローン返済表で確認する必要があります。また、ローンを初めて利用したときにかかった、融資手数料も経費として計上できます。
2-7.青色申告専従者給与
確定申告の際に青色申告を選択すると、生計を同じくする家族を従業員にすることで、給与を経費として計上できます。
専従者給与を経費計上できるのは青色専従者給与のみで、白色申告では認められていません。
2-8.司法書士費用
不動産の登記手続きなどを司法書士に依頼すると、司法書士報酬がかかります。不動産を購入すると、不動産の所有権移転や保存登記を行い、自分が所有者であることを確定させなければなりません。
ローンを組む場合は、抵当権の設定も行うので司法書士に依頼するのが一般的です。司法書士報酬がかかるのは物件を購入した初年度のみです。
2-9.その他の経費
ここまでに挙げた費用以外にも、経費にできるものはいくつかあります。
広告チラシを作った場合の印刷費、電球などの消耗品費、物件視察のための交通費、確定申告を税理士に依頼した場合の税理士報酬などです。
経費として申告するには領収書が必要なので、発行を受けた領収書はすべて保管しておくように心がけましょう。
2-10.経費にならないもの
経費にならない支出もあります。以下のものは経費にならないので計上しないように注意が必要です。
・不動産投資ローンの元本
・所得税・住民税や個人に掛けた保険料
・個人的に利用する通信費、旅費・交通費など
・自分が住んでいる部屋のリフォーム代
なお、パソコンや携帯電話を事業でも利用している場合は、個人使用分と按分して経費計上できます。
3.家賃収入にかかる税金の計算方法
家賃収入にかかる税金を計算するには、不動産所得、所得税、住民税の3つの計算方法を知っておく必要があります。それぞれの計算式を確認しておきましょう。
3-1.不動産所得を計算する
不動産所得は家賃収入から必要経費を引いて計算します。必要経費は先に紹介したものに限らず、家賃収入を得るために使ったものなら経費になる可能性があります。不動産所得の計算式は次のとおりです。
3-2.所得税を計算する
所得税は課税所得に対して課税されます。課税所得は不動産所得だけでなく、給与所得や個人で行う事業所得など全ての所得を合計したものです。所得税の計算式は次のとおりです。
3-3.住民税を計算する
住民税は一律の金額で課税される「均等割」と、前年の所得額に応じて課税される「所得割」の2つを合わせて計算します。
住民税の計算式は次のとおりです。均等割は5,000円の市区町村が多いですが、一部例外の地域もありますので、自治体のホームページで確認したほうが無難です。
住民税=均等割+所得割
4.家賃収入にかかる税額をシミュレーション
家賃収入にかかる税額を、2つのケースでシミュレーションしてみましょう。
▽所得税税率表
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
【設定条件】
不動産収入240万円、必要経費120万円、給与所得600万円、各種控除額400万円
4-1.不動産所得のみの場合の計算
給与収入がなく不動産専業だった場合、不動産収入から必要経費を差し引いた金額に対して所得税が課税されます。
不動産収入240万円-必要経費120万円=課税所得120万円
課税所得120万円×税率5%=6万円(所得税)
課税所得120万円×税率10%=12万円(住民税所得割)
5,000円(住民税均等割)+12万円(住民税所得割)=12万5,000円(住民税)
4-2.給与所得600万円の場合の計算
給与所得が600万円ある場合、不動産所得120万円と合算して計算します。
給与所得600万円+不動産所得120万円-各種控除額400万円=320万円(課税所得)
課税所得320万円×税率10%-控除額9万7,500円=22万2,500円(所得税)
課税所得320万円×税率10%=32万円(住民税所得割)
5,000円(住民税均等割)+32万円(住民税所得割)=32万5,000円(住民税)
5.家賃収入に関する確定申告の基礎知識
家賃収入が一定額を超えると確定申告が必要になります。ここでは、確定申告の基礎知識を解説します。
5-1.不動産所得が年間20万円以上になると確定申告が必要
家賃収入から必要経費を差し引いた不動産所得が20万円を超える場合は、確定申告が必要です。
ここで注意しなければいけないのは、給与所得以外の所得が20万円を超えた場合に確定申告が必要なので、不動産所得が18万円であっても、ほかの雑所得が3万円あれば合計で20万円を超えるので、確定申告しなければなりません。
5-2.赤字でも確定申告をすべき理由
赤字なら本来は確定申告不要ですが、申告することで節税できる場合があります。代表的な例が「損益通算」です。
損益通算を利用すると、不動産所得が赤字になった場合、給与所得から赤字分を控除できるため、所得税を節税できます。例えば、給与所得が500万円で不動産所得が100万円の赤字だった場合、損益通算で課税所得が400万円に減るため、所得税や住民税の節税につながります。
5-3.損益通算には例外もある
不動産所得の損益通算には例外もあります。ローン利息は通常は必要経費になりますが、赤字分を損益通算する場合は、建物価格にかかる利息のみが経費として認められます。土地価格にかかる利息は損益通算できないので、建物と土地を区別して計算するのに手間がかかります。
5-4.所得が少なくても住民税の申告は必要
不動産所得が20万円以下でも、住民税の申告は必要です。所得税は国税ですが、住民税は地方税のため課税のルールが異なるからです。
住民税が非課税になるのは、生活保護を受けている人、障害者、未成年者、寡婦またはひとり親で前年の合計所得金額135万円以下であることが条件ですので、不動産投資をできるほどの人が住民税非課税になるのはごく稀と考えたほうが良いでしょう。
5-5.確定申告のやり方
確定申告は、その年の1月1日~12月31日の期間に生じた収入や支出を計算し、翌年の2月16日~3月15日(税務署が休業日の場合は次の平日)の期間に税務署に申告書を提出します。
確定申告の手順は以下のとおりです。
【1】
初年度の場合は、申告方法を「白色申告」と「青色申告」のどちらにするか選択します。専業で行う場合は個人事業主としての開業届も必要です。
【2】
確定申告に必要な書類を準備します。必要な書類は以下のとおりです。
・家賃の収入と支出がわかる書類
・家賃収入を得るためにかかった経費の書類
・入金や支払いがあった銀行通帳
・不動産売買契約書(売買した場合)
・社会保険料の支払証明書
・保険料の控除証明書
・医療費控除を受ける場合は領収書・レシート
【3】
必要書類を基に、確定申告書を作成します。確定申告書は、国税庁のWebサイト「確定申告書等作成コーナー」を使えば簡単に作成できます。
【4】
所轄の税務署に確定申告書を提出します。提出方法は、「e-Tax(電子申告)で送信」「郵送で提出」「税務署に持参」の3つの方法から選べます。初年度で不安な点がある場合は、税務署に持参して相談するのも有効な方法です。
6.家賃収入にかかる税金の対策
家賃収入にかかる税金を少しでも抑えるための対策をまとめると、以下のようになります。
・家賃収入を得るために使った経費は可能な限り計上する。
・不動産所得が赤字なら「損益通算」を利用して、赤字分を給与所得から控除する。
・青色申告を選択する。生計を同一にする家族に青色申告専従者給与を支払う(副業ではなく専従であることが必要)。
・減価償却費を長期間計上したいなら、RC造またはSRC造の新築マンションを購入する。
7.家賃収入にかかる税金の知識を知ることで節税できる
家賃収入にかかる税金について詳しく見てきましたが、どのような税金がかかり、どのような支出が経費として認められるかを知ることで、適切な節税対策を打つことができます。
マンション経営は、製造業のように商品が売れれば増産できるものではなく、キャパシティが決まっています。入居者をしっかり確保して家賃収入を得るとともに、無駄な出費や税金を少なくして利益率を高めることが大切です。
特に初めて物件を購入する場合、諸費用がかかる初年度は赤字になりやすいので、節税対策を実行する良い機会でもあります。記事を参考に利益率の高いマンション経営を目指しましょう。
※記事中の計算方法は一例です。細かい条件によって計算結果は異なりますので、参考程度にご覧ください。
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