マンションの減価償却とは?新築・中古別の計算方法や注意点をわかりやすく解説
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丸山 優太郎
丸山 優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している。

マンション投資で必要経費の1つになるのが減価償却費です。きちんと計上することによって不動産所得が減り、確定申告の際に節税につながります。税制上のメリットを受けるためにもマンションの減価償却について把握しておくことが大事です。

本記事では、マンションの減価償却について新築・中古別の計算方法や、行う場合の注意点などについて解説します。

目次

  1. 1.マンションの減価償却とは?
  2. 2.マンションの耐用年数
  3. 3.マンションの減価償却費の計算方法
  4. 4.マンション投資で減価償却を行う際の注意点
  5. 5.マンションの減価償却を有効に活用して節税に努めよう

1.マンションの減価償却とは?

マンションの減価償却とは?新築・中古別の計算方法や注意点をわかりやすく解説
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マンションの減価償却を見ていくまえに、減価償却のあらましを確認しておきましょう。

不動産所得は基本的に「家賃収入-必要経費」で計算されるので、必要経費を多く計上できれば不動産所得が減って節税になります。必要経費の中で、不動産投資独自の経費になるのが「減価償却費」です。

減価償却とは、不動産や車のように一定金額を超える高額な商品の費用を、何年かに分けて経費にすることです。

ここで注意しなければいけないのは、個人事業主の場合、減価償却が義務化(強制償却)されていることです。対して法人の場合は、0円から償却限度額までの範囲内で任意の金額を減価償却(任意償却)できます。

減価償却を行わなかったり、過少申告した場合、脱税ではないので罰せられることはないものの、不必要に多く所得税を支払うことになるので損してしまいます。

マンションの減価償却とは、経年とともに劣化していく建物部分を、法定耐用年数の規定に従って費用計上することをいいます。新築マンションと中古マンションでは減価償却の計算方法が異なるので、それぞれに合わせた正しい計算方法により行うことが大事です。

以下にて、マンションの減価償却について詳しく見ていきます。

1-1.マンションの減価償却の対象になるもの

マンションの減価償却の対象になるのは、建物部分と建物付帯設備です。土地部分は経年劣化しないので減価償却することはできません。そのため、マンションの減価償却を行う際は、購入価格のうち建物価格がいくらであるかを調べる必要があります。

建物価格については、不動産売買契約書に記載されているのが一般的です。全宅連(公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会)が作成した不動産売買契約書のサンプルにも建物代金や消費税を記載する欄があります。

ただ、建物付帯設備の記載はないので、仲介を依頼する不動産会社に確認すると良いでしょう。

1-2.マンションの減価償却は定額法で行う

減価償却の計算方法には「定率法」と「定額法」がありますが、マンションの減価償却は定額法で行います。

定率法とは、法定耐用年数の期間中、毎年一定割合ずつ減価償却費を計上する方法です。減価償却する資産の取得価格から、前年までに減価償却した累計額を差し引いた未償却残高が年々減少していきます。定率法で行うと減価償却費は初年度が最も多く、その後償却が進むにつれて年々少なくなっていく特徴があります。

一方定額法とは、法定耐用年数の期間中、毎年一定の金額を減価償却費として計上する方法です。毎年同じ金額なので、わかりやすいのがメリットです。

いずれの方法でも減価償却は最終的に1円で終了します。完全にゼロにはなりません。それは完全にゼロにしてしまうと、帳簿上その物件は存在しないことになるからです。建物価値はなくなっていても、保有していることを忘れないようにするために1円の物件として残します。これを「備忘価格」といいます。

1-3.マンションの減価償却のメリット

マンションの減価償却には以下のようなメリットがあります。

1-3-1.支出がないのに経費を作れる

減価償却の大きなメリットは、実際の支出を伴わずに経費にできることです。物件の購入費用は初年度に支払っているため、仮に減価償却費として100万円計上した場合でも、100万円を支払う必要はないので、手元にお金が残ることになります。

減価償却費は確定申告の際に不動産所得から控除することができます。

1-3-2.損益通算を使って節税できる

マンション経営で赤字になると、ほかの所得と損益通算して節税することができます。例えば、課税給与所得(所得控除後)が500万円だった場合、不動産所得が200万円の赤字であれば、課税給与所得から差し引いて、課税所得を300万円に減らすことができます。

損益通算で課税所得が減ると、所得税が以下のように少なくなります。

▽所得税税率表

課税される所得金額税率控除額
1,000円から1,949,000円まで5%0円
1,950,000円から3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円以上45%4,796,000円

・損益通算しなかった場合
課税給与所得500万円×税率20%-控除額42万7,500円=所得税額57万2,500円

・損益通算した場合
課税給与所得500万円-課税不動産所得赤字分200万円=300万円
課税所得300万円×税率10%-控除額9万7,500円=所得税額20万2,500円

57万2,500円-20万2,500円で差し引き、37万円所得税が安くなります。

ただし、国外不動産の減価償却費を計上した結果発生する赤字は、損益通算できないので注意が必要です。

2.マンションの耐用年数

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住宅用の建物は構造によって法定耐用年数が決まっています。マンションの構造別耐用年数と建物付帯設備別の耐用年数を確認しておきましょう。

2-1.マンションの構造別耐用年数

マンションの構造別耐用年数はほかの住宅に比べて長いのが特長です。国税庁が公表している「主な減価償却資産の耐用年数表」によると、住宅用の構造別耐用年数は以下のとおりです。

構造・用途細目耐用年数
木造・合成樹脂造のもの 22年
木骨モルタル造のもの 20年
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの 47年
れんが造・石造・ブロック造のもの 38年
金属造のもの4mmを超えるもの
3mmを超え、4mm以下のもの
3mm以下のもの
34年
27年
19年

マンションの構造はほとんどがRC造(鉄筋コンクリート造)またはSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)です。法定耐用年数はともに47年なので、新築マンションの耐用年数は47年と覚えておけば良いでしょう。

木造アパートの法定耐用年数が22年であるのに比べると、倍以上長い期間減価償却できるので、マンションの優位性がわかります。

2-2.店舗付きマンションの耐用年数

1階が店舗で2階以上が住居用になっているマンションをよく見かけます。新築RC造の場合、耐用年数は住居部分が47年で、店舗部分は39年です。

異なる用途が混在しているマンションの場合は、建物の主たる用途がどちらかで判定して耐用年数を決めます。例えば、店舗は1階のみで2~10階が住居であれば住居が主であることは明らかなので、耐用年数は47年と判断することになります。

2-3.建物付属設備別の耐用年数

建物付帯設備とはどのようなものを指すのか判断が難しいですが、「主な減価償却資産の耐用年数表」によると、以下のように分類されています。

一見付属設備とも思える、事務机、事務いす、キャビネット、応接セット、時計、看板、インターホンなどは器具・備品に分類されるので区別に注意が必要です。「主な減価償却資産の耐用年数表」に照らし合わせて判断しましょう。

構造・用途細目耐用年数
アーケード・日よけ設備主として金属製のもの
その他のもの
15年
8年
店用簡易装備 3年
電気設備(照明設備を含む)蓄電池電源設備
その他のもの
6年
15年
給排水・衛生設備、ガス設備 15年

3.マンションの減価償却費の計算方法

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マンションの減価償却費の計算方法を確認しておきましょう。新築と中古では以下のように計算方法が異なります。建物価格は、本体部分と設備部分に費用を分けて計算します。計算に必要な償却率は国税庁が公表している「減価償却資産の償却率表」に記載されています。

3-1.新築マンションの場合

新築マンションの減価償却は、法定耐用年数がそのまま適用されます。

購入した新築マンションの建物本体価格が2,000万円、設備価格が500万円の場合で減価償却費を計算してみます。

新築RC造マンション、SRC造マンションの法定耐用年数は47年です。償却率表の耐用年数47年を見ると、償却率が0.022であることがわかります。

【設定条件】
新築RC造マンション、建物本体価格2,000万円、設備価格500万円(電気設備、給排水設備、衛生設備、ガス設備)、建物本体の償却率0.022(耐用年数47年)、設備の償却率0.067(耐用年数15年)

建物本体の減価償却費:2,000万円×0.022=44万円
設備の減価償却費:500万円×0.067=33万5,000円

購入初年度の減価償却費は44万円+33万5,000円=77万5,000円となります。16年目以降は44万円の計上となり、建物・設備それぞれの最終年度は備忘価格を残すため、上記2つの計算結果から1円引いた価格を計上します。

3-2.中古マンションの場合

中古マンションの減価償却費は、新築と異なり築年数が経過しているので、法定耐用年数そのままでは計算できません。

一例として、築10年、RC造中古マンションの本体価格が1,000万円、設備価格が250万円の場合で減価償却費を計算してみます。

中古マンションの減価償却の方法は以下の2つがあります。

・中古マンションの減価償却計算方法

まず、耐用年数を次の計算式によって算出します。
「耐用年数:(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2」

本体の耐用年数:(47年-10年)+10年×0.2=39年
設備の耐用年数:(15年-10年)+10年×0.2=7年

次に、「取得価格×償却率」の計算式により減価償却費を計算します。

本体の減価償却費:1,000万円×0.026=26万円
設備の減価償却費:250万円×0.143=35万7,500円

本体は39年間26万円ずつ減価償却し、設備は7年間35万7,500円ずつ減価償却します。新築のときと同じく、建物・設備それぞれの最終年度は備忘価格を残すため、上記2つの計算結果から1円引いた価格を計上します。

・耐用年数を過ぎた場合の減価償却計算方法

耐用年数を過ぎてしまった物件も減価償却することができます。
計算式は、「法定耐用年数×0.2」です。上記の設定条件に合わせると次のように計算します。

本体の耐用年数:47年×0.2=9年
設備の耐用年数:15年×0.2=3年

本体の減価償却費:1,000万円×0.112=112万円
設備の減価償却費:250万円×0.334=83万5,000円

耐用年数を過ぎた建物・設備は短期間で一気に減価償却できることがわかります。

3-3.建物価格がわからない場合

建物価格がわからない場合は、消費税や建築費から割り出すことが可能です。以下の設定条件における建物価格を計算します。

・消費税から計算する方法

【設定条件】
RC造の新築投資用マンションを、令和2年に4,500万円で購入。消費税10%。

物件購入価格に消費税が記載されている場合は、消費税から建物価格を割り出すことができます。上記投資用マンション4,500万円のうち、消費税が200万円だった場合は以下のように計算します。

新築時の建物価格:200万円÷0.1(10%)=2,000万円
建物の税込価格:2,000万円+200万円=2,200万円
土地の価格:4,500万円-2,200万円=2,300万円

土地は消費しないため、消費税がかかりません。

これで建物価格と土地価格に分けることができました。

・建築費から計算する方法

購入した投資用マンションの建物価格の消費税がわからない場合は、建築費から計算します。建物価格を計算するには国税庁が公表している「建物の標準的な建築価額表」を使用します。

【設定条件】
鉄筋コンクリートの新築投資用マンション(70㎡)を平成27年に3,500万円で購入。

新築時の建物価格:24万200円×70㎡=1,681万4,000円
土地の価格:3,500万円-1,681万4,000円=1,818万6,000円

4.マンション投資で減価償却を行う際の注意点

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マンション投資で減価償却を行う場合、メリットばかりでなく注意すべき点もあります。特に以下の3つの点に注意して行うことが必要です。

4-1.節税効果は徐々に薄れる

節税効果は毎年同じではありません。購入初年度は購入時に支払う諸経費が多いため、赤字になるケースが多いです。しかし、2年目以降は初年度ほど経費がかからなくなるので、黒字化するのが一般的です。減価償却費を計上しても赤字にならないケースもあるので、節税効果は徐々に薄れていきます。

ただし、節税効果が薄れて損益通算できなくなったとしても、不動産所得は毎年減らせるので、減価償却の意味がなくなることはありません。

4-2.売却時の税金が高額になる可能性がある

マンションを売却したときに利益が出ると譲渡所得税が発生します。譲渡所得税は「譲渡価格-(取得費用+売却費用)という計算式で算出されます。

したがって、取得費用が多いほうが譲渡所得を少なくできるわけですが、減価償却費を差し引くことで取得費用が少なくなるため、売却時の税金が高くなる可能性があります。減価償却費の計上がデメリットになるケースです。

4-3.税務調査が行われるケースも

確定申告において、心配なことの1つが税務調査です。法定耐用年数や償却方法が間違っている、本来計上できない土地価格を減価償却しているなど、正しく減価償却を行わないと税務調査が行われる可能性があります。

特に新築マンションと中古マンションでは減価償却の方法が異なるので、注意が必要です。細かい部分では経過年数(築年数)の数え方を間違える可能性があります。築年数は建物が出来た日を迎える度に1年2年と加算されます。1年10カ月だから四捨五入して2年というわけではありません。

5.マンションの減価償却を有効に活用して節税に努めよう

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マンションの減価償却について詳しく見てきましたが、まとめると減価償却とは、建物の価値が減じる分を経費として計上し、その分のお金が手元に残るという仕組みです。

減価償却期間が終わると建物の価値はなくなりますが、減価償却したお金は残るので損したことにはなりません。むしろ減価償却費として計上した分は不動産所得から控除されるので、節税できた分得したと考えることもできます。

減価償却期間という観点で見ると、木造アパートよりマンションを買ったほうが長い期間経費を計上することができて有利です。

減価償却というほかの投資にはない不動産投資独自のメリットを活かしながら、少しでも収益を増やす賃貸経営が求められます。

※記事中の計算方法は一例です。参考程度にご覧ください。

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