ネットメディアで話題になることの多いテーマである「ベーシックインカム」「FIRE」「週休3日制」などに共通するのは、「働かなくてもいい時代」を実現するための仕組みということです。
これらの仕組みによって本当に「働かなくてもいい時代」がやってくるのか、実現のための課題は何かを考えます。
目次
「ベーシックインカム導入=働かなくてよい時代」は勘違い
そもそもベーシックインカムとは、国がすべての国民に一定額のお金を配る仕組みのことです。これにより、すべての国民は必要最低限の収入が保障されます。
ベーシックインカムはよく生活保護と比較されますが、ベーシックインカムの場合、その人の所得や資産が多い少ないに関係なく、すべての国民にお金を支給するのが大きな違いです。
「ベーシックインカム導入=働かなくていい時代」と勘違いされることも多いですが、海外の実証実験の結果を見ると、「よりよく生きるための仕組み」という色合いが濃いようです。
例えば、2019年2月から行われている米カリフォルニア州ストックトン市のベーシックインカムの実証実験は、市民125名に対して毎月500ドルを 24ヵ月にわたって支給するというものでした。対象者は、世帯収入が中央値以下のストックトン在住者(18歳以下)です。
この実証実験1年後の調査では、フルタイム労働者の割合が支給開始時の28%から40%に12ポイント向上。併せて、実証実験を行う前と比べて「借金を清算した割合が増加」「うつ症状や不安感が軽減」などのポジティブな変化も確認されました。
ただし、日本においては、ベーシックインカム導入への過度な期待はしないほうがよいかもしれません。導入のハードルは高く、例えば日経新聞のベーシックインカムの解説でも「巨額の財源が要るため実現は難しい」としています。
FIREで働かなくていい時代を目指すも、挫折する人が続出中
株価上昇とともに2020~2021年頃に注目された「FIRE(経済的自立による早期リタイア)」も働かなくてよい時代を象徴するキーワードといえるでしょう。
FIREとは、株式投資や投資信託、不動産投資などによって安定的なリターンを確保し、経済的に自立して早期リタイアを実現することです。資産運用の本やセミナーで「FIRE」を冠した企画が数多く見られました。
これまでの早期リタイアの主な考え方は、老後をおくるのに十分な資産を築いてリタイアするというものでした。一方、FIREでは安定的な資産運用によって所有する資産を目減りさせないことを前提にしています。
しかし、株式投資信託などを主体に資産運用をしている人は、株式相場の下落によってFIREの前提が崩れてしまいました。例えば、2021年1年間のS&P500指数は下記のチャートのようにダウントレンドになっています。S&P500指数を組み入れた投資信託を所有しているだけで、資産が減りやすい状況でした。
さらに、株式投資信託の運用益で考えても、アメリカ経済や世界経済のリセッション(景気後退)によって期待していたリターンが得られないリスクがあります。このような状況の中、FIREを見直す人が続出。例えば、ツイッターで「FIRE卒業」のキーワードで検索すると、「FIREはやめて社会復帰を目指す」という主旨の投稿が数多く見られます。
もし、FIREを目指すなら、株式投資信託だけに頼らない、債券投資信託や不動産投資などを組み合わせたポートフォリオを構築する必要があるでしょう。
週休3日制(週4日勤務)実現で「働かなくてよい時代」がやってくる?
週休3日制(週4日勤務)が実現すれば、完全に働かなくてよいわけではありませんが、現在スタンダードの週休2日制よりも大幅に労働の負担が軽減されます。例えば、週休3日制と有給休暇を組み合わせることで、週の半分は働かなくてもよい環境に近づけることも可能でしょう。
週休3日制については、すでに各国で実証実験が行われています。その結果はどうでしょうか。
英国の公共放送が運営する「BBC NEWS JAPAN」では、アイスランドで過去に行われた「週休3日」の実証実験で生産性が向上したことを報じています。対象者は2,500人で、その大半が週休3日に併せて週の労働時間を40時間から35~36時間に変更しました(賃金は同額が大半)。
この週休3日の実証実験の結果、大多数の職場で生産性が維持または向上し、ストレスや健康面でよい影響があったとのことです。
さらに、 イギリスでは世界最大級の週4日勤務(週休3日制)の実証実験が行われています。主にアメリカのビジネスや経済などのニュースを配信する「ビジネスインサイダー」によると、このトライアルに参加したのは70社。 6ヵ月にわたって週4日勤務を導入しました。
週4日勤務によって労働生産性の低下が心配されましたが、プログラム中間地点でのアンケートに回答した95%の企業が「変わらない」または「向上した」と回答しています。
・ほとんど変わらない:46%
・若干向上した:34%
・大幅に向上した:15%
今後、週休3日制(週4日勤務)の実証実験で成功例が上積みされていけば、次世代では当たり前の働き方になるかもしれません。
日本人の労働生産性はOECD加盟の38ヵ国中23位。東欧諸国と同水準
ただし、週休3日制(週4日勤務)は、生産性向上の意識のない国、企業、個人に導入してしまえば、単純に労働時間が短くなった分、生産性が落ちる可能性があります。その意味では、「生産性が低い」といわれることの多い日本企業に週休3日制(週4日勤務)を導入するのは慎重になったほうがよいかもしれません。
公益財団法人 日本生産性本部のレポート「労働生産性の国際比較2023」では、 日本の1人あたりの労働生産性は85,329ドル(833万円)で「OECD加盟の38ヵ国中31位」という厳しい結果になっています。
この日本の1人あたりの労働生産性は、ポーランドやエストニアなどの東欧・バルト諸国と同水準で、ヨーロッパの中でも労働生産性が高いとはいえないイギリスやスペインと比べても約165万円の差があります。なお、日本の労働生産性を1時間あたりで見ると平均5,099円(52.3ドル)で、アメリカの平均8,282円(80.5ドル)と比べて3,000円以上の開きがあります。
なお、日本の労働生産性について「製造業に限れば労働生産性が高い」といった意見も見られます。しかし実際には、 OECD製造業の労働生産性も「OECD加盟の主要34ヵ国中18位」とこちらも低迷しているのが現実です。
やるべきことを行った国、会社、個人が「働かなくていい時代」を謳歌できる
ここでは、「働かなくてもいい時代」を実現するための仕組みである「ベーシックインカム」「FIRE」「週休3日制(週4日勤務)」について解説してきました。要点を振り返ると、次のようになります。
・株式投資信託を主体にしたFIREは景気後退の局面では難しい
・週休3日制は生産性の低い日本に導入するには不安が残る
つまり、この記事のタイトルの問いである「ベーシックインカム、FIRE、週休3日制……正解はどれ?」については、「どれも安易に選ぶべきではない」というのが結論になります。
ベーシックインカムを実現するなら財政の仕組みをダイナミックに変えなければなりませんし、 FIREを継続的に続けるならボラティリティの高い株式投資信託に頼らない仕組みを構築しなければなりません。また、日本では週休3日制を導入する前に、低い生産性を改善する必要があるでしょう。
将来、働かなくてもよい、あるいは、労働の負担を軽くする環境を手にいれたいなら、それを実現するための努力・工夫・改善を積み重ねていくしかありません。
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