

マンション経営を始めるには、銀行など金融機関のローンを利用するケースがほとんどです。そのローンには審査があるわけですが、審査では年収が重視されます。
特に「年収700万円以上」であるかどうかが審査の可否に影響するといわれており、このことが「マンション経営をするには年収700万円以上必要」という定説につながっています。
しかし、この年収700万円というのは意外に微妙な数字で、これをクリアしている人がそれほど多いわけではありません。それでは年収700万円未満の人はマンション経営を始められないのでしょうか。
そもそもマンション経営のためのローンでは年収をどう見ているのか、年収以外にはどんなことを審査しているのか、そして本当に年収700万円以上でないと審査には通らないのか、こういった疑問はこれからマンション経営を始めたいとお考えの方には大きな問題です。
金融機関の審査を知ったうえで、審査に通りやすくする攻略法についても、あわせて解説したいと思います。
1.マンション経営を始めるには年収700万円以上が必要?

マンション経営を始めるには本当に年収700万円以上が必須なのでしょうか?最初に、この定説がある背景と実際のところについて解説します。
1-1.なぜ「年収700万円」なのか
「マンション経営を始めるには年収700万円以上でなければならない」というのは、金融機関の審査基準が関係しています。
マンション経営をするには収益物件を購入する必要があるわけですが、少なくとも数千万円クラスの借金をするにあたって、年収は700万円以上でないと返済能力があると見なされないというのが、「年収700万円説」の根拠です。
しかし、これはあくまでも定説にすぎません。金融機関は審査の基準や理由を明らかにはしていないため、年収700万円を合否ラインに設定しているかどうかはわかりません。
もちろん銀行によってもさまざまでしょうし、銀行以外の金融機関であれば年収の基準も異なるでしょう。それに加えて、金融機関は年収だけで融資の可否を判断しているわけではないので、年収700万円というのは1つの目安と考えるようにしてください。
あくまでも「説」ですが、不動産投資向けローンで有名なオリックス銀行や全国各地の地方銀行は年収の基準を700万円程度より上であることを審査で重視しているようです。
1-2.年収700万円の人の返済能力

それでは、年収700万円の人にはどの程度の返済能力があるのでしょうか。ここでは税金を差し引いた手取り収入を算出して、そこから返済能力を推測してみましょう。
こちらは、所得税の税率一覧です。年収700万円の人は上から4番目の「6,950,000円から8,999,000円まで」に分類されるので、税率は23%です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
控除額を加味すると、手取りの年収は600万円前後です。これを12ヵ月で割ると毎月50万円の手取り収入があることになります。
仮に毎月のローン返済が10万円だとしても、手元には40万円のキャッシュが残ります。これなら家族がある人であっても返済余力があると考えることができるので、審査に通しやすくなるわけです。
1-3.年収700万円以上の人はおおむね4分の1
次に、年収700万円以上の人が世の中にどれだけいるのかも見てみましょう。こちらは、厚生労働省が発表している「2019年 国民生活基礎調査の概況」による所得の分布図です。なお、2020年は調査を中止しているので、2019年が最新のデータになります。

100万円未満 | 100〜200 | 200〜300 | 300〜400 | 400〜500 |
---|---|---|---|---|
6.4% | 12.6% | 13.6% | 12.8% | 10.5% |
500〜600 | 600〜700 | 700〜800 | 800〜900 | 900〜1000 |
8.7% | 8.1% | 6.2% | 4.9% | 4.0% |
1000〜1100 | 1100〜1200 | 1200〜1300 | 1300〜1400 | 1400〜1500 |
3.1% | 1.9% | 1.7% | 1.2% | 0.9% |
1500〜1600 | 1600〜1700 | 1700〜1800 | 1800〜1900 | 1900〜2000 |
0.7% | 0.5% | 0.4% | 0.3% | 0.2% |
2000万円以上 | ||||
1.2% |
赤い囲みを入れたところが、年収700万円以上のゾーンです。年収552万3,000円が平均値で、中央値は437万円です。いずれも700万円を上回っておらず、やはり年収が700万円以上の人は平均値よりも稼ぎの多い人といえそうです。
ちなみに年収700万円以上の人のパーセンテージを合計すると、おおむね4分の1程度の人がこのゾーンに分布していることがわかります。
年収700万円以上の人は4人に1人の割合なので、決して多い数字ではありません。それでは残りの4人のうち3人はマンション経営を始められないのかというと、そんなことはありません。当記事ではそんな方が知っておくべき攻略法も解説していきます。
1-4.平均年収が700万円を超えるのは50代
平均年収をさらに、細かく年代別にも見てみましょう。一般的に年齢が高くなるにつれて年収は高くなっていくといわれています。それを踏まえて厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の令和2年(2020年)版を見てみましょう。
赤い色を入れた付近が、年収700万円以上もしくはそれに近い年収ゾーンです。学歴別では大学院卒、そして年齢では若くても男性の55歳以上、男性の70歳以上のみが該当しています。つまり、平均年収が700万円を達成するまで待っていると、早くても55歳まで待たなければならないことになります。
マンション経営は若いうちから始めることでメリットを最大化できるといわれているだけに、これでは遅すぎる感があります。できれば30代の頃からマンション経営を手がけるのが理想といえますが、それだと平均年収は300万円台から400万円台です。
1-5.年収700万円になるのを待っているとマンション経営を始められない?
ここまでのデータを見る限り、マンション経営を始める「資格」がある人は4人の1人であり、年齢は早くても55歳以上ということになってしまいます。それまで待たないとマンション経営は難しいのかというと、そうではありません。
次章以降では年収700万円未満の方がマンション経営を始める方法、年収以外の部分で審査に通りやすくする攻略法について解説していきます。
2.年収700万円台の人と審査の関係

年収700万円台の人はマンション経営が射程に入っていると考えられるわけですが、ここでは年収と金融機関の審査の関係について解説したいと思います。
2-1.金融機関によって年収の基準は異なる
一口に「金融機関」といっても、その種類はさまざまです。私たちが金融機関と聞いて真っ先に思い浮かべるのは銀行ですが、それ以外にも信用金庫や信用組合、政府系金融機関、ノンバンクなどがあります。これらはいずれもマンション経営に利用できるローンを提供しているので、資金調達の選択肢になります。
しかし、金融機関によって審査の基準が異なるため、必然的に年収の基準も異なります。
・オリックス銀行
・地方銀行
・信用金庫、信用組合
・日本政策金融公庫、商工中金
・ノンバンク
大手メガバンクがもっとも厳しい審査基準を設けているのは、何となくイメージしやすいかと思います。それ以外については投資家の間で認識されている一般的なイメージでの序列なので、必ずこの順番になるとは限りません。
このうち、年収700万円の人がローンを利用できる金融機関として現実味があるのは、地方銀行以降です。地域に密着した金融機関や政府系の金融機関、それに加えてノンバンクが現実的な選択肢といったところでしょうか。
それでは、これらの金融機関について個別にワンポイントコメントをつけていきたいと思います。
2-2.大手メガバンクは基本的に難しい
大手メガバンクは原則として大手企業向けに融資をしているので、個人のマンション経営でローンを利用するのは難しいと考えるべきでしょう。年収700万円未満はもちろんのこと、年収700万円以上の人であっても難しい傾向です。
2-3.地方銀行
日本全国には、それぞれの地域に密着した地方銀行があります。営業エリアがその地域だけなので、その地域で事業を営む人にとっては重要な金融機関です。日本全国には60を超える地方銀行があり、それぞれは全く別の会社です。
そのため「地方銀行」という1つのカテゴリーで融資の審査を語るわけにはいきませんが、年収についてはおおむね700万円前後もしくはそれ以下でも現実味があります。
2-4.信用金庫、信用組合
地方銀行と同様に、それぞれの地域に密着した金融サービスを提供しているのが信用金庫や信用組合です。根拠となる法律や対象の顧客などに違いはあるものの、どちらも地域密着型の金融機関なので、日ごろからの取引がしっかりとある人であれば年収700万円未満であっても審査に通りやすいでしょう。
2-5.日本政策金融公庫・商工中金
日本政策金融公庫、商工中金はともに政府系の金融機関です。厳密には商工中金は国と民間の共同出資による金融機関ですが、「政府系」であることでは両者同じです。
以下の表は政府系金融機関の一覧になります。

(引用:財務省 政府関係金融機関)
先ほどまでの金融機関はいずれも営利企業なので「返済できるか」が重要な審査のポイントになりますが、これらの政府系金融機関は本人の属性よりもマンション経営の事業性が重視されます。
2-6.ノンバンク
7つめに紹介するのは、ノンバンクです。名称のとおり銀行ではないものの、融資を行っている民間企業です。銀行との最大の違いは自社で預金を集めることはせず、融資のみを行っていることです。
以下は主なノンバンクです。
信販会社 | クレジット会社 | 消費者金融 |
リース会社 | 事業金融専門会社 | 不動産金融専門会社 |
金利や手数料などは銀行などと比べると高いのが一般的ですが、その分審査は緩いとされています。年収700万円未満の人であっても、ここで紹介した7つの金融機関のなかではもっとも審査に通りやすいと考えられます。
3.年収以外にも審査でココを見ている

マンション経営向けのローンでは、年収以外にもさまざまな項目が審査されます。金融機関は返済能力をどんな項目で判断しているのでしょうか。
3-1.年収以外にも重要な審査項目がある
ローンの返済を最後までちゃんとしてくれるかどうかの判断は、実はとても難しいものです。未来のことはわかりませんし、その人のことを審査だけですべて理解できるわけではありません。そのため、金融機関では客観的な項目を使って審査をします。
年収はその中でもかなり重要な項目ですが、それ以外にも職業や家族構成、他社からの借入れ状況や資産状況などを入念に審査しています。それぞれの項目について、次項から概要を解説していきましょう。
3-2.雇用形態・勤務先
年収がいくらなのかというのと同時に、その収入がどこから出ているのかも重要です。なぜなら、その出所が安定しないことにはその収入が今後も続くかどうかが判断できないからです。
公務員や大企業といったように勤務先に安定感がある場合は属性が高いとされ、雇用形態についても非正規雇用よりも正社員が有利です。逆に自営業者や個人事業者については事業の安定性を評価しにくいことから、審査に通りにくいとされています。
3-3.家族構成
家族構成がローンの審査対象になることに意外さを感じる方もいるかもしれません。家族構成からはその人の生活環境をうかがい知ることができるため、審査の対象となります。
3-4.他社からの借入れ状況
他社の借入れは、返済能力に直結します。すでに多くの借入れがある人はマンション購入のためにローンを組むとさらに返済が苦しくなることが予想され、最悪の場合は返済不能に陥ってしまいます。
注意したいのは、だからといってローンの申し込み時に他社の借入れがないと嘘をついたり、少なく申告したりしてはならないことです。嘘の申告をしても調査ですぐにわかってしまいますし、嘘が発覚すればまず審査には通りません。
3-5.資産状況
今回購入するマンション以外に、不動産や預貯金などがどれくらいあるのかといった資産状況も返済能力に直結するので、審査対象になります。もちろん資産が多いほど審査には有利になります。
3-6.自己資金
マンション購入代金の一部を自己資金で負担するのが一般的ですが、それが多いほど審査には通りやすくなります。自己資金が多いと融資額が小さくなるので有利になるのはもちろんのこと、金融機関は自己資金の多寡によって利用者の「本気度」をはかっている側面もあるようです。
4.属性を高くして審査に通りやすくする攻略法5選

前章で紹介した各種の属性はいずれも高いほど審査には通りやすくなります。そこで、属性を高くして審査に通りやすくする攻略法について5つの項目で解説します。
4-1.可能であれば一時的に年収を増やす
年収700万円をすでにクリアしている人であっても、そうでなくても年収は高いに越したことはありません。残業代や休日出勤などを意識的に多くして年収を増やせる余地があるのであれば、少なくともローン申し込みをするまでは意図的に年収を増やすのも有効な攻略法です。
4-2.クレジットカード、消費者金融の利用可能額を減らす
クレジットカードや消費者金融のカードを多く保有している方は、それが審査の足を引っ張る可能性があるので要注意です。使っていなくてもカードを持っていることは「いつでも借金ができる枠」を持っていることになるため、それが大きいと審査に影響することがあります。
使っていないクレジットカードや消費者金融のカードがある場合は、それらを解約するのが有効です。
4-3.会社を辞める前に審査を
勤務先や勤続年数も属性の一部なので、長く勤めてきた会社の退職を検討している場合はローン審査に通ってからでも遅くはありません。辞めてからだと勤続年数の観点から属性が低くなってしまう可能性があり、審査に不利になります。
4-4.自己資金を多く用意する
先ほど述べたように自己資金は多ければ多いほど属性が高くなるので、不動産投資を始める頭金分として貯金しておくことも効果があります。
5.まとめ

年収700万円ないとマンション経営を始められないのか?との疑問にお答えするために、年収とローン審査の関係について解説してきました。必ずしも年収700万円が必須の当確ラインになっているわけではなく、あくまでも審査項目の1つであることがおわかりいただけたと思います。
また、年収を含む属性は工夫や努力によって高くすることができるので、審査に不安がある方は記事中で解説した5つの攻略法を参考に、万全の態勢で臨んでください。
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