輸入木材価格高騰でアパート建築に逆風が吹いている
(画像=TomaszZajda/stock.adobe.com)
丸山 優太郎
丸山 優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している。

輸入木材価格の高騰が問題になっています。アパートを建築する際のコスト上昇にもつながる輸入木材価格はなぜ上昇しているのでしょうか。値上がりしている背景や木材市況とあわせ、アパート・マンション経営にどのような影響を及ぼすのかを解説します。

なぜ輸入木材価格が高騰しているのか

輸入木材の価格は、この1年で約6倍に高騰しています。なぜそこまで激しい値上がりになっているのでしょう。輸入木材の価格が高騰している理由はいくつかあります。

理由その1:住宅市場が活況

1つは世界的に建築需要が高まっていることです。米国では新型コロナウィルスの影響で在宅勤務が増えた背景もあり、都心の集合住宅から郊外の一戸建てに移住する人が増え、住宅市場が活況になっています。

その影響で木材価格が高騰しているのです。米国の住宅着工戸数は2020年6月から急激に増加し、同年10月には半年前の約1.6倍に相当する10万戸を突破しています(林野庁調査 2021年5月公表)。2021年に入ってからも2月に寒波で一時需要が落ち込んだものの、3月には再び需要が急増しています。

理由その2:中国での木材需要が増加している

2つめの理由は、中国でも木材需要が増えており、いち早くコロナ禍から脱した中国がコンテナを買い集めていることです。世界的なコンテナ不足の影響で、通常2ヵ月程度で日本に入荷していた欧州の集成材が到着の見通しがつかないという状況に陥っています。

中国では長期的に木材需要の増加が継続しており、2010年から2019年までの10年間で針葉樹丸太輸入量は1.8倍に増えています(林野庁調査 2021年5月公表)。そのため中国が世界各地から木材を買い集めていることも、木材不足に拍車をかけているようです。

理由その3:海運市況が上昇し海上輸送費が高騰している

また、海運市況が上昇しているのも業界にとっては痛手です。「News week」の報道によると、中国発ヨーロッパ向けの海上輸送費は数ヵ月で4倍に高騰しています。テキスタイル業者が挙げた具体例として20フィートコンテナの海上輸送費で、2020年7月の1,000米ドルから4,400米ドルに、40フィートコンテナで2,200米ドルから1万米ドル以上に上昇したといわれています。

それだけでなく、予約も以前は10日前で済んでいたものが、平均50日前に予約する必要があるという状態です。キャンセルされるケースも少なからずあり、輸入量が減る要因になっているという事情もあります。 

新築アパートの建築コストが上昇へ

アパート経営のメリットは、木造アパートなら低いコストで建築できることです。相場では鉄筋コンクリート(RC)造に比べると坪単価が30万円程度安くなります。建築コストを抑えることで家賃を低く設定でき、入居者の確保につなげることができるというメリットがあります。

ところが、輸入木材価格の上昇により、建築コストが高騰しアパート経営に逆風が吹いているのが現状です。木造アパート建築を検討しているオーナーは、建築請負契約を締結する際、契約後に材料費が高騰した場合どちらが値上げ分を負担するか確認する必要があります。

建築請負契約は定めた契約条件で完成を約束するものです。したがって、契約後に材料費が高騰した場合は施工者側が負担するのが一般的ですが、施工費用に転嫁する条項を追加するケースも考えられます。そのようなときに受け入れを拒否するか、施工業者との関係を重視して受け入れるかは判断の難しいところです。

輸入木材価格の今後の見通し

構造用集成材の国内メーカーは、ひき板や丸太などの原材料の7割を海外から輸入しています。輸入木材価格の今後の見通しはどうなるのでしょうか。

COFI/カナダウッドジャパンが発表した「世界の木材市場の動向と展望」によると、2021年4月7日時点における見通しとして№2&ベター先物価格で見た場合、2021年夏中頃までには高値水準が900ドルから700ドルまで下がると予想しています。

カギを握るのは米国の住宅需要ですが、金利の上昇や値ごろ感の低下により、住宅需要の増加に歯止めがかかりそうだとみています。

海上輸送費の改善には時間がかかる

問題になっている海上コンテナ船の需給逼迫については政府も対策に乗り出しています。国土交通省は「世界的な国際海上コンテナ輸送力及び空コンテナの不足を受けて、日本発着の国際海上コンテナ輸送の需給の逼迫状況の改善に向け、令和3年2月5日付で、荷主、船社及び物流事業者等の関係団体に対し、コンテナの効率的な利用や輸送スペースの確保等に係る協力要請文書を発出」(国土交通省資料より引用)しています。

コンテナ船の需給が改善し、輸入量が増えれば価格も落ち着くことが期待できます。ただし、野村総合研究所が発表した資料によると、「国際物流は2020年11月以降に発生した港湾混雑・コンテナ船の沖待ちにより輸送遅延の状態が現在も続いている」(2021年4月23日現在)ため、海上輸送費の高騰が収束するにはまだ時間がかかる見通しとのことです。

国産木材の市況はどうなっているか

輸入木材価格の代替として国産木材を使おうという動きも出ています。しかし、中国への輸出が増加していることから国産の木材価格も上昇傾向にあります。

テレビ東京の報道によると、多摩木材センターにおける国産木材の価格は2021年1月10日に7,260円だったスギ材(3メートル材)の価格が4月9日には1万1,825円に上昇しています。1.5倍以上の値上がりですが、輸入木材が不足しているため、高値でも引き合いが殺到しているようです。

さらに木材不足は納期にも影響を与えています。朝日新聞の報道によると、加工木材の国内最大手ポラテックでは期日までに木材を納入できない状況になりつつあり、同社は「4月より5月、5月より6月と木材不足は激しくなる」と予想するなど、深刻な状況です。

もし、新築アパートの納期を延長することになれば、繁忙期にオープンを予定していたオーナーの戦略にも狂いが生じることになります。オーナーのなかからは「価格よりも痛いのは納期の遅れだ」との声も聞こえます。

輸入木材価格高騰はマンション価格に影響するのか?

マンションオーナーにとって気になるのが、輸入木材価格の上昇がマンションの建築価格に影響を与えることはあるのかという点です。マンションの構造はほとんどが鉄筋コンクリート(RC)造、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造、鉄骨(S)造であることから、輸入木材価格高騰の直接的な影響はないものと思われます。

木材価格高騰のなかでもセメントやコンクリート市況は安定的に推移しています。セメント協会の調査による、2020年5月~2021年4月までの1年間におけるセメント価格は、1トンあたり1万800円(普通ポルトランドバラ)でまったく動いていません。

東京地区生コンクリート価格は同じ時期、2021年1月に1立方メートルあたり1万4,300円から1万4,700円に400円値上がりしたものの、その後は1万4,700円で安定しています。

しかし、輸入木材市況の今後の行方いかんによっては、木造以外の構造によるアパートの建築を考えなければならないケースもあるでしょう。あるいは、アパートからワンルームマンション建築に計画を変更するオーナーもいるかもしれません。そうなるとマンションの建築需要が増え、セメント、コンクリート価格に影響を及ぼす恐れがないとはいえません。

マンションオーナーも木材市況の行方を注視

木材価格の高騰によってもたらされた木造アパート建築に対する逆風は、マンション経営の安定性を改めて確認する形になりましたが、影響がまったく無風というわけではないでしょう。

アパートに間取りが近いワンルームマンションに計画を変更するオーナーが増加すれば既存のマンションオーナーにとっては、競合が増えることになります。マンションオーナーも当面木材市況の行方を注視する必要がありそうです。

※本記事は2021年5月14日現在の情報を基に構成しています。市況は今後変化する可能性がありますので、参考程度にお考えください。

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