
不動産を購入する際に利用できるローンには「不動産投資ローン」と「住宅ローン」があります。両者はどちらも金融機関から融資を受ける仕組みですが、その目的や条件には大きな違いがあります。
「住宅ローンを利用しながら、不動産投資ローンを組むことは可能なのか?」「どのような基準で審査されるのか?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
両者は異なる目的で提供される金融商品で、融資目的や条件が異なる点を理解して利用することが大事です。
この記事では、不動産投資ローンと住宅ローンの違いを整理し、併用する際の注意点についても説明します。
目次
1.不動産投資ローンと住宅ローンの基本

まずは不動産投資ローン、住宅ローンのそれぞれの特徴を解説していきます。
1-1.住宅ローンとは?
住宅ローンは、自分や家族が住むための住宅を購入する際に利用するローンです。金融機関は 「自己居住用であること」 を条件に、比較的低金利での融資を提供します。住宅ローンの審査では、借り手の 年収・勤務先・信用情報 などが重視され、安定した収入があれば借り入れやすいのが特徴です。
1-2.不動産投資ローンとは?
不動産投資ローンは、賃貸物件を購入し、家賃収入を得ることを目的としたローンです。金融機関は 「物件の収益性」 を重視し、家賃収入を見込んで融資額を決定します。そのため、住宅ローンよりも 金利が高め に設定される傾向があります。
1-3.住宅ローンと不動産投資ローンの主な違い
項目 | 住宅ローン | 不動産投資ローン |
---|---|---|
融資を受ける目的 | 自己居住用の住宅購入 | 投資目的での賃貸物件の購入 |
主な返済原資 | 給与などの収入 | 家賃収入 |
融資審査基準 | 年収・勤務先・信用情報が重視 | 物件の収益性・担保価値も考慮 |
金利 | 低め(0.5~1.5%が一般的) | 高め(2~4%が一般的) |
借入期間の目安となる基準 | 法定耐用年数 | 完済時年齢 |
借入額上限の目安 | 年収の5~7倍 | 年収の10倍以上も可能 |
住宅ローンは、住居という不動産に対する直接貸付という性質をもつ一方、不動産投資ローンは不動産賃貸事業に対する事業融資という性質を持ち、融資の目的が異なります。
主な返済原資も不動産投資ローンは事業収益、住宅ローンは申込人の給与収入となるため、審査の基準も大きく異なるのです。不動産賃貸業は空室が出れば家賃収入が途絶えますが、給与収入は勤務している限り途絶えることはないため、住宅ローンのほうが金利は低くなっています。
このように2つの融資は、前提条件が全く異なることをまずは理解しておきましょう。
1-4.審査基準
金融機関はどちらのローンでも「貸し倒れリスクを避ける」ために慎重に審査を行いますが、審査の重点ポイントや基準が異なる ため、それぞれの違いを把握しておくことが重要です。
1-4-1.住宅ローンの審査基準
住宅ローンの審査では、「借り手の支払い能力」 が最も重視されます。そのため、金融機関は申込者の収入や職業、信用情報などを重視し、返済が可能かどうかを慎重に判断します。
大手企業の正社員や公務員といった職業に就いており、勤続年数が3年以上 であれば、安定した収入と判断され、審査が通りやすくなります。また、信用情報も審査に大きな影響を与えます。特に複数のローンを同時に抱えている状態にある場合は、信用スコアを下げる要因となるため、事前に整理しておくことが望ましいでしょう。
1-5.融資金額
住宅ローンと不動産投資ローンでは、借入できる金額の基準が異なりますが、どちらも年収や返済能力、物件の条件が大きく影響します。
一般的に、住宅ローンは年収の5~7倍、不動産投資ローンは7~10倍 が借入可能額の目安とされています。
ただし、不動産投資ローンでは、購入する物件の収益性や担保価値が加味されるため、物件次第で融資額が大きく変動します。一方、住宅ローンでは借り手の信用情報や勤務先の安定性が重視されます。
また、金融機関によって融資の条件は異なります。住宅ローンはフルローン(頭金なし)も可能な場合があるのに対し、不動産投資ローンはキャッシュフローの安定させるため自己資金(頭金)を20~30%用意することが推奨されるケースが多いです。
融資を受ける際は、自身の年収だけでなく、物件の評価や頭金の割合、金融機関ごとの審査基準を考慮し、無理のない資金計画を立てることが重要です。
1-6.金利
住宅ローンと不動産投資ローンでは、金利の設定に大きな違いがあります。不動産投資ローンは事業融資という性質上、住宅ローンに比べてリスクが高いと判断され、金利が高めに設定される のが一般的です。
住宅ローンの金利は、変動金利で0.3~1.0%、固定金利で1.0~1.5%程度が主流です。特に、メガバンクやネット銀行の住宅ローンは金利競争が激しく、低金利での融資が可能な場合があります。一方で、不動産投資ローンの金利は2.0~4.5%程度と、住宅ローンよりも高めに設定されることが一般的です。
また、金利タイプにも違いがあります。住宅ローンは変動金利・固定金利・期間固定金利 から選択できますが、不動産投資ローンは変動金利が主流であり、固定金利が選べるケースは限られます。
金利は総返済額に大きな影響を与えるため、金利タイプの選択や金融機関の比較は重要です。
1-7.借入期間
住宅ローンと不動産投資ローンでは、設定できる借入期間の長さが異なります。住宅ローンは、長期的な返済を前提としており、申込人の完済時年齢を目安として期間が決まります。一方で、不動産投資ローンは投資用物件の耐用年数に応じて決まる傾向にあります。
耐用年数とは、国税庁が定める減価償却資産の法定耐用年数を指します。住宅用途の建物では、構造ごとに以下のように定められています。
建物構造 | 法定耐用年数 |
---|---|
鉄筋コンクリート・鉄骨鉄筋コンクリート | 47年 |
重量鉄骨 | 34年 |
軽量鉄骨 | 27年 |
木造 | 22年 |
多くの金融機関が法定耐用年数から融資対象建物の築年数を引いた残りの年数を、借入期間の上限にしています。例えば築10年の木造アパートであれば、上記の表を参考にすると22年-10年=12年となり融資期間は12年が目安です。
また、どちらのローンでも繰り上げ返済を活用することで、総返済額を減らすことができます。ただし、不動産投資ローンの場合は、予期せぬ大規模修繕が必要となる場合もあるため、ある程度の手元資金を残しつつ、無理のない返済計画を立てることが重要です。
2.不動産投資ローンと住宅ローンを併用する場合の注意点

不動産投資と住宅の購入を両方検討している人にとっては、「不動産投資ローンと住宅ローンを併用できるのか?」という点は気になるポイントでしょう。結論から言えば、併用は可能ですが、審査の難易度は上がるため、慎重な資金計画が求められます。ここでは、併用する際の重要なポイントと注意点を解説します。
2-1.住宅ローンが先か? 不動産投資ローンが先か?
自身の住宅と収益物件のどちらを優先するかはその人のシチュエーションによって異なります。ただどちらも重要度がどちらも同じということであれば不動産投資ローンを先に組むことをおすすめします。
住宅ローンを申し込む際、金融機関はすでにどれだけ借り入れがあるのかを細かくチェックします。もし先に住宅ローンを組んでしまうと、「すでに大きな負債がある」と判断され、不動産投資ローンの審査が通りにくくなります。一方で、不動産投資ローンを先に組む場合は、その後住宅ローンを申し込む際に「家賃収入がある」という評価を受け、収支のバランスが良いと判断されることもあります。
融資枠の問題も考える必要があります。住宅ローンを先に組んでしまうと、総借入額の制限に影響し、不動産投資ローンで希望額を借りにくくなる可能性があります。これに対し、不動産投資ローンを先に組めば、物件の担保価値や収益性も融資の評価基準に含まれるため、自身の借入枠をより有効に活用できるチャンスが増えます。
また住宅ローンは比較的審査に通りやすい仕組みになっています。先述の通り、住宅ローンは自己居住用という性質上、金融機関としても貸し倒れリスクが低いと判断しやすく、一定の条件を満たしていれば審査を通過できる可能性は十分にあります。
2-2.併用時に気をつけるポイント
2-2-1.住宅ローンの「目的外使用」に注意
住宅ローンは「自己居住用」が前提のため、住宅ローンで購入した物件を賃貸に出す(投資に転用する)と契約違反になる 場合があります。
例えば、住宅ローンを利用して購入した家を賃貸に出した場合、ローンの一括返済を求められるリスク もあるため、必ず金融機関の規約を確認しておくことが重要です。
2-2-2.住宅ローンの借入可能額が減る
不動産投資ローンを組んだ後に住宅ローンを申し込むと、「すでに借入がある」ことが審査時に考慮され、希望額が借りにくくなる可能性があることは考慮しておきましょう。特に、住宅ローンをフルローンで借りる予定の人は、不動産投資ローンの影響を事前に把握しておくことが重要です。
2-2-3.不動産投資ローンの金利が上がる可能性
住宅ローンと比べて不動産投資ローンは金利が高めに設定されていますが、借入額が増えるとリスクが高まると見なされ、さらに金利が上がる場合があります。金融機関によっては、「すでに住宅ローンがある人は投資用ローンの金利を優遇しない」 というケースもあるため、事前に確認が必要です。
3.住宅ローンで不動産投資をすることはできないのか?

先述した通り、住宅ローンは本来「自己居住用の住宅を購入するためのローン」 であり、投資目的での使用は基本的に認められていません。例えば、住宅金融支援機構が提供する住宅ローン「フラット35」の公式サイトでも、投資用物件の取得には利用できないことが明確に示されています。
また、住宅金融支援機構では、転送不要郵便で「融資額残高証明書」を送付することで、購入した住宅に本人または親族が実際に住んでいるかを定期的に確認しています。もし住宅を第三者に賃貸するなど、本来の目的以外で使用していることが判明した場合、ローンの一括返済を求められるなどのペナルティが科される可能性があります。
参考:【フラット35】の不適正利用に巻き込まれないために(住宅金融支援機構)
しかし、一定の条件を満たせば、住宅ローンを活用しながら賃貸経営を行うことができるケースもあります。ここでは、例外的に住宅ローンで賃貸運用が認められるケース について詳しく解説します。
3-1.賃貸併用住宅の活用
住宅ローンを利用しながら賃貸収入を得る方法のひとつに、「賃貸併用住宅」の活用があります。賃貸併用住宅とは、自宅の一部を賃貸用として貸し出す住宅のことで、自己居住部分と賃貸部分が同じ建物内にあるのが特徴です。
ただし、住宅ローンを適用するためには、一定の条件を満たす必要があります。
- 自己居住部分が床面積の50%以上であること
- 自住宅ローンの契約時に、賃貸併用住宅として申請すること
例えば、2階建ての住宅を取得し、1階部分を賃貸、2階部分を自宅として使用する場合、2階部分の床面積が全体の50%以上であれば、住宅ローンを利用できる可能性があります。この場合、比較的金利負担の軽い住宅ローンの返済に賃貸収入をあてることができ、住居費を抑えながら資産形成を進められる点が魅力 です。
しかし、賃貸部分の割合が大きくなると、住宅ローンではなく不動産投資ローンに適用される可能性がある ため、事前に金融機関に確認することが重要です。
3-2.転勤など、やむを得ない事情がある場合
住宅ローンで購入した物件は、原則として自己居住が義務付けられていますが、転勤などのやむを得ない事情がある場合は、賃貸に出すことが認められるケース もあります。
例えば、購入後数年以内に転勤が決まり、一時的にその住宅に住めなくなる場合、金融機関に相談すれば賃貸運用を許可してもらえる可能性があります。ただし、転勤による賃貸が認められるかどうかは金融機関の判断によるため、事前に申告し、正式に許可を得ることが大切 です。
また、転勤で一時的に賃貸に出した後、戻ってきて再び住むことが前提となる場合が多いため、長期的に投資用として運用する意図がある場合は不動産投資ローンを検討する方が安全 でしょう。
4.まとめ

不動産投資ローンと住宅ローンは、目的や審査基準、金利、融資条件が大きく異なるローン です。両者の違いを適切に理解し、戦略的に資金計画を立てることで、将来的な資産形成の可能性を広げることができます。ローンを組む際には、金融機関の審査基準をよく理解し、自分にとって最適な方法を選びましょう。
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