不動産投資ローンと住宅ローンは、同じ住居への融資になるため、似ているようですが両者には明確な違いがあります。それぞれの融資目的や条件が異なる点を理解して利用することが大事です。また、2つのローンは併用することもできます。
本記事では、両者の違いや併用する場合の注意点、どちらを先に利用したらよいかなどを解説します。
目次
不動産投資ローンと住宅ローンの目的の違い
不動産投資ローン | 住宅ローン | |
---|---|---|
融資を受ける目的 | 賃貸物件を購入するため | 自分が住む住宅を購入するため |
返済原資 | 家賃収入 | 給与などの収入 |
融資審査基準 | 事業の収益性と物件担保価値 | 申込人の属性と物件担保価値 |
金利(一例) | 2.9~4.4%(変動) | 0.375%(変動)~1.31%(固定) |
借入期間の上限 | 法定耐用年数 | 完済時年齢 |
借入額上限の目安 | 年収の7~10倍 | 年収の5~6倍 |
不動産投資ローンと住宅ローンは、そもそも融資の目的が異なります。
不動産投資ローンはオーナーが住む人に物件を貸して利益を得るため事業融資となり、あくまで事業の収益性を評価して金融機関が融資するのが特徴です。
住宅ローンは、住居という不動産への直接貸付で申込人の属性と建物や土地を評価して融資します。返済原資も不動産投資ローンは事業収益、住宅ローンは申込人の給与などの収入となるため、審査の基準も大きく異なるのです。不動産賃貸の家賃収入は空室が出れば途絶えますが、給与収入は勤務している限り途絶えることはないため、住宅ローンのほうが金利は低くなっています。
このように2つの融資は、目的などの前提条件が全く異なることをまずは理解しておいてください。
融資額の違い
ここからは、融資条件の具体的な違いについて解説します。はじめに「いくら融資してもらえるか」です。金融機関が融資額を判断する基準は2つの融資で全く異なります。
不動産投資ローンの融資額
不動産投資ローンの融資額は、上記に加えて不動産経営の収益性(場所や管理力)で決められます。収益性の高い事業計画と判断されれば年収の7~10倍程度の融資を受けることも可能です。しかし、逆に低いとみなされれば融資額が希望に満たなかったり、最悪は断られたりすることも少なくありません。さらに以下のような内容も考慮されます。
・劣化の程度
・担保価値
・キャッシュフロー
・家賃収入に占める返済比率 など
築年数が浅く高い賃貸需要が見込めるなど、賃貸経営の条件に優れるほど多くの融資額が期待できます。また、万一ローンの返済が継続できない場合は金融機関が競売にかけるため、物件価値が高いほど融資審査では有利になります。
不動産投資ローンについて詳しく知りたい方はこちらの記事も合わせてご覧ください。
住宅ローンの融資額
住宅ローンは、申込人の属性によって融資額が決まります。年収や職種、勤務先、勤続年数などによって返済能力を判断され、場合によっては物件の担保評価も加味されるのが特徴です。
また、現在受けている他の融資や過去に利用した融資、カードの返済履歴なども審査され年収の5~6倍までが借入上限の目安です。このように融資額の決定では、申込人の信用が非常に大きなウェイトを占めます。
住宅ローンで購入するのは自分が住むための住宅なので、賃貸物件のように収益を生むわけではありません。そのため、いかに安定して毎月ローンを返済できるだけの属性を持っているかが融資審査で重視されることになります。
金利の違い
不動産投資ローン(アパートローン)の金利は、三井住友トラスト・ローン&ファイナンスの例では、団体信用生命保険なしの場合で2.9~4.4%(変動金利、2022年2月1日現在)となっています。これに対し住宅ローンは、みずほ銀行の例で変動金利が0.375%(2022年10月1日現在)、全期間固定金利が1.31%(同)で、不動産投資ローンのほうが高めになっています。
なぜなら不動産投資ローンが事業融資となり「住宅ローンに比べてリスクが高い」と銀行が判断しているからです。銀行側は、万一返済されなかった場合に備え少しでも多く利息を回収しておく必要があります。
一方で住宅ローンは、不動産投資ローンに比べて金利およびリスクも低く設定されています。これは、安定した勤務先や職種であれば給与から支払われるローン返済は滞りにくいと考えているからです。そのため申込人の勤務先は、重要な審査対象の一つといえるでしょう。住宅ローンの支払いが滞れば住む場所を失うため、「申込人ができるだけ返済努力をする」と金融機関は考えているのです。
両者とも高額かつ長期の融資になりやすいため、わずか数%の金利の違いでも総支払額に大きな差が生じます。一例として、3,000万円の融資を金利2.0%と3.0%で受ける場合の支払い額の違いは次のようになります。
▽3,000万円を元利均等払い、返済期間35年で借りた場合
金利 | 毎月の返済額 | 総返済額 |
2.0% | 9万9,378円 | 4,173万8,968円 |
3.0% | 11万5,455円 | 4,849万768円 |
差額 | 1万6,077円 | 675万1,800円 |
上記のように1%の金利差でも総返済額では約675万円もの差となるので、金融機関をよく比較して、少しでも金利の低い金融機関で借りることが大事です。
借入期間の違い
不動産投資ローン、住宅ローンともに最長借入期間を35年としている金融機関が多いです。また、不動産投資ローンは建物の法定耐用年数、住宅ローンでは申込人の完済時年齢を借入期間の上限とする傾向があります。
不動産投資ローン融資で重視される法定耐用年数とは
法定耐用年数とは、国税庁によって示されている減価償却資産の耐用年数のことです。住宅用途の建物では、構造別に法定耐用年数は以下のようになっています。
建物構造 | 法定耐用年数 |
---|---|
鉄筋コンクリート・鉄骨鉄筋コンクリート | 47年 |
重量鉄骨 | 34年 |
軽量鉄骨 | 27年 |
木造 | 22年 |
引用:総務省
多くの金融機関が法定耐用年数から融資対象建物の築年数を引いた残りの年数を、借入期間の上限にしています。例えば築10年の木造アパートであれば、上記の表を参考にすると22年-10年=12年となり融資期間は12年が目安です。
このため中古物件での賃貸経営では、売却時に法定耐用年数までの残年数が少なかったり、法定耐用年数を超えていたりすると売却が難しくなるケースがあります。
また、法定耐用年数を超える長期の融資を行う金融機関もありますが、金利が高めになることが一般的です。
住宅ローンにおける借入期間には申込人の年齢制限がある
住宅ローンの借入期間では「申込人の完済時年齢」という制限が設けられています。返済が終わる時点での申込人の年齢が75歳以下や80歳以下などと定めている金融機関が一般的です。
例えば完済時年齢が80歳以下の住宅ローンの場合、申込人の借入時の年齢が50歳であれば最長の借入期間は30年です。ローンの要件が最長35年となっていても完済時年齢が優先される点に注意しましょう。
不動産投資ローンの申込人年齢は金融機関によって判断が異なる
不動産投資ローンで「申込人の完済時年齢による制限があるか」については金融機関によって異なります。申込人が高齢で亡くなっても物件が収益を生み続ければ相続人が返済してくれると考え完済時年齢を問わない金融機関もあります。ただし、物件が長期にわたり利益を生み出すことが見込める場合に限ります。
一方で近年は、相続トラブルを避けるため申込人が亡くなった後のリスクを考慮して完済時年齢の制限を設けたり、申込時の年齢を60歳までにしたりする金融機関も少なくありません。不動産投資ローンの申込人年齢は金融機関によって判断が異なるため、利用の際は事前に金融機関に確かめるようにしましょう。
2つの融資を併用することができる
不動産投資ローンと住宅ローンの両方を利用したい人にとって、併用できるかどうかはその後の戦略にも関わる大きな問題です。不動産投資ローンと住宅ローンの併用は、原則として可能です。これは、それぞれのローン返済原資が異なるためですが、場合によっては金融機関が行う融資審査に影響し合う可能性があるため注意しましょう。
事業収益が落ちるリスクを考慮する
不動産投資ローンの返済は、事業収益です。しかし審査では万一収益が落ちた場合を考えて、申込人の返済能力も審査されます。このとき住宅ローンを受けていると返済能力を差し引かれてしまう可能性もあります。
特に賃貸経営の収益に対し融資割合が大きいと、金融機関は住宅ローンの有無を考慮し「リスクが高い」と判断、不動産投資ローンの融資額を減額することも考えられます。
不動産投資ローンを組むと住宅ローンに影響が出ることも
逆に住宅ローンを申し込む際に不動産投資ローンを組んでいる場合、審査に影響する可能性があります。しかし。これは必ずしもマイナスになるわけではありません。賃貸経営で収益が安定して発生していればそれを申込人の収入に合算することも検討できるため、より高額な住宅ローンの融資を受けたい人にとっては有利に働きます。
しかし賃貸経営の収支が大きく赤字となっている場合は、住宅ローンを返済するうえでのマイナス要因と捉えられ、住宅ローンの融資額を減額される可能性もあるでしょう。その理由は賃貸物件で空室が出て給与収入から補填しなければならない事態になると、住宅ローンの支払いに影響が出るからです。
このように2つのローンはお互いに影響し合う可能性がありますが「どのような条件が考慮されるか」は金融機関ごとに判断基準が異なります。
2つの融資を併用する際に注意すべきポイント
不動産投資ローンと住宅ローンの融資を併用する場合に注意すべきポイントがあります。まず、不動産投資ローンは住宅ローンに比べて金融機関の審査が厳しくなる傾向があります。特に住宅ローンを支払っている人が不動産投資ローンを利用する場合は、より審査が厳しくなる可能性があるので注意が必要です。
もう1点は金利の違いです。不動産投資ローンを借りるときに、住宅ローンの低い金利水準で資金計画を立てると大きく目算からはずれる恐れがあります。不動産投資ローンのほうが金利は高いため、毎月のローン返済額は多めに見積もる必要があるのです。
住宅ローンで賃貸経営の物件購入はできない
住宅ローンは低金利なため「賃貸物件の購入に利用できないか」などと考える人もいますがこれはできません。なぜなら住宅ローンの利用条件は「本人か家族が住む住宅購入」となっているからです。
例えば、住宅金融支援機構の「フラット35」では公式サイトで、投資用物件の取得には利用できない旨を掲示しています。住宅金融支援機構は転送不要郵便で「融資額残高証明書」を送付することにより、本人または親族が購入した住宅に実際に住んでいるかを定期的に確認しています。万一第三者に賃貸するなど投資用住宅や店舗・事務所といった目的外の使用が判明した場合は、融資金額の全額を一括返済してもらうとしています。
過去には、書類を偽装して住宅ローンで投資用物件を購入した事件もありました。これは立派な犯罪です。上記の例のように発覚すれば全額一括返済を求められる可能性が高く、厳しい経済状況に陥ってしまいかねません。そもそも目的が全く異なるローンのため、それぞれ適切な目的で利用するようにしましょう。
ただし、テレビで報道されているような住宅ローンを悪用して高額な投資物件を購入させる事件は、本人にわからないように不動産会社が書類を偽装するケースがあるため、悪質な不動産会社と関わらないように注意することが必要です。
悪質な不動産会社と出会うのを避けるには、上場不動産会社、有名不動産チェーン店、地元で長年営業している不動産会社から選ぶことが有効です。
不動産投資ローンと住宅ローンのどちらを先に利用すべき?
不動産投資ローンと住宅ローンを併用する場合、どちらを先に利用したらよいのでしょうか。それぞれ、先に利用するリスクと、先に利用したほうがよい人のタイプを確認しましょう。
不動産投資ローンを先に利用するリスク
不動産投資ローンを先に利用すると、金融機関の与信枠がなくなり、住宅ローンを組めない可能性があります。与信枠とは「年収の何倍まで借りられる」という金融機関が設定している融資限度枠のことです。
例えば、個人の属性から5,000万円の与信枠がある人が、先に不動産投資ローンを組んで4,000万円借り入れた場合は、住宅ローンを組む際に1,000万円しか融資を受けられない可能性が出てきます。
住宅ローンを先に利用するリスク
一方住宅ローンを先に利用すると、不動産投資ローンの融資審査がより厳しくなるリスクがあります。不動産投資ローンは家賃収入で毎月のローン返済を行う仕組みになっています。しかし、区分所有マンションの場合、空室になった月は収入が途絶えるので、給与収入等で補填しなければなりません。
ところが、住宅ローンを組んでいると給与収入は住宅ローンの支払いに充てられるので、返済遅延が生じる可能性も考えられるのです。
今後のプランによって先に利用すべきローンは変わる
先に利用するリスクで見たように、今後のプランをどうするかで先に利用すべきローンが変わってきます。まず、将来的にも住宅を購入する予定がない場合は、住宅ローンを組むことはないため、不動産投資ローンを先に利用しても問題ないでしょう。
逆に住宅の購入を近い時期に予定している場合は、住むことを優先し、生活が安定してから不動産投資ローンを借りることを計画したほうがよいと思われます。
不動産投資ローンを先に利用した方がよい人
不動産投資ローンを先に利用したほうがよい人は、住宅ローンを組んでいない人、あるいは住宅ローンを完済している人です。住宅ローンを完済していれば与信枠を気にする必要がないので、不動産投資ローンを与信枠目一杯まで借りることができます。
住宅ローンを現在は利用していないが将来組む可能性がある人は、不動産投資ローンを目一杯借りずに頭金を多めに入れておくことで、住宅ローンを併用できる可能性が高くなります。
住宅ローンを先に利用した方がよい人
住宅ローンを先に利用したほうがよい人は、二世帯住宅を購入して親を招き入れるなど、家庭の事情で住宅ローンを組むことが必須の人です。この場合はまず住宅を購入して、残りの与信枠を不動産投資ローンを組むときに役立てるとよいでしょう。
2つのローンの違いを見ましたが、結論としては不動産投資ローンを先に利用したほうが有利です。不動産投資ローンのほうが審査は厳しいので、先に借りたほうが少しでも審査に通りやすくなるからです。ただでさえ審査が厳しいのに、住宅ローンを既に組んでいれば、より審査で不利になってしまいます。
いずれにしても併用を考えるなら、片方のローンを組むときに与信枠を目一杯使ってしまうことは避けたほうがよいでしょう。
2つのローンを同時に組む際は慎重に
不動産投資ローンと住宅ローンは、本来の目的が異なるため全く別の性質の融資です。条件や評価対象も異なりますが、審査では互いに影響し合う可能性があります。重なって申し込むことはできるものの、タイミングも含めて慎重に判断することが大切です。
また、不動産投資ローンと住宅ローンを併用する場合は、投資家が置かれている家庭の状況によってどちらを先に利用するかという問題もあります。借りにくいローンを先に借りるという原則からすると、不動産投資ローンを先に借りてしまったほうが安心でしょう。
特に気をつけなければいけないのは、住宅ローンで投資用物件を購入することはできないことです。流用した場合、金融機関から全額を一括返済することを要求されますので、不動産投資ローンと住宅ローンを混同しないように注意しましょう。
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※本記事は2022年10月5日現在の情報を基に構成しています。各種ローンの金利は変更になる場合があります。参考程度にお考えください。
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