生命保険は節税にならない?個人・法人別に注意点を解説
(画像=New good ideas/Shutterstock.com)

「生命保険で節税できる」と耳にしたことがある方も多いでしょう。たしかに、以前は法人向けの保険商品を活用して大きな節税効果を得るスキームも存在していました。しかし近年では、税制改正によってその多くが制限され、「想定していたより節税効果を感じにくい」といった声も増えてきました。

個人と法人では、保険を使った節税対策に対する考え方や制度の仕組みに違いがあり、それぞれに注意すべきポイントがあります。

本記事では、「生命保険は本当に節税になるのか?」という疑問に対し、個人・法人の立場ごとに注意すべきポイントや制度変更の背景、よくある誤解やリスクをわかりやすく解説します。

目次

  1. 生命保険で「節税」となる仕組み
  2. 生命保険は節税にならないと言われる理由
    1. 個人向け生命保険料控除の仕組みと限界
    2. 法人向け生命保険の制度改正と影響
  3. 生命保険の活用は“課税の先延ばし”にすぎない
  4. 生命保険の本来の役割と、節税以外の価値とは?
    1. 万が一に備えるという“保障”の原点
    2. 相続対策や資産保全としての活用
    3. 中長期の資金準備や資産の分散手段として
    4. 保険は目的に合わせて“使い分ける”時代へ
  5. 生命保険の節税効果は過信しないことが大切

生命保険で「節税」となる仕組み

生命保険を活用した節税とは、保険に支払うお金が税金の計算上、控除や損金として扱われることで、課税所得が減り、最終的な税負担が軽くなることを意味します。ただし、この仕組みは個人と法人で異なるため、正しく理解する必要があります。

まず、個人の場合は、年末調整や確定申告において生命保険料控除を活用することで、所得税や住民税の一部が軽減されます。 一方、法人では、保険料を経費(損金)として計上できる場合があります。たとえば、役員の退職金準備を目的とした保険に加入し、支払った保険料を損金として処理すれば、法人税の課税所得を減らすことで節税につながるという考え方です。

生命保険は節税にならないと言われる理由

ここでは、個人・法人それぞれの立場から、「生命保険=節税になる」と言われる背景と、その限界についてさらに詳しく解説します。

個人向け生命保険料控除の仕組みと限界

個人が生命保険で節税できるとされる根拠は、「生命保険料控除」にあります。これは、支払った保険料の一部を課税所得から差し引くことで、所得税や住民税の負担を軽減できる制度です。年末調整や確定申告で活用され、一定の節税効果を得ることができます。

保険料控除には以下の3つの種類があり、それぞれに上限があります。

  • 一般生命保険料控除
  • 介護医療保険料控除
  • 個人年金保険料控除

それぞれの控除を最大限利用した場合でも、所得税では合計12万円、住民税では合計7万円が上限となっています。

たとえば、課税所得が高い方(所得税率45%、住民税10%)の場合でも、軽減できる税額は以下のとおりです。

所得税:12万円 × 45% = 5万4,000円
住民税:7万円 × 10% = 7,000円
合計:最大で6万1,000円の節税

つまり、控除による効果は限定的で、「節税になる」というよりはわずかに軽減される程度といえるのが実際のところです。

また、控除額を増やすことだけを目的に高額な保険料を支払ってしまうと、保険の本来の役割を見失い、必要以上の出費で家計を圧迫する可能性もあります。節税効果だけを目的に保険へ加入するのではなく、自分にとって必要な保障かどうかを軸に考えることが大切です。

法人向け生命保険の制度改正と影響

一方、法人が生命保険を節税目的で活用するケースでは、以前はかなり高い節税効果が得られる商品が存在していました。特に、保険料を全額損金として処理できる「全損型」の定期保険は、法人税を圧縮しながら、将来的に解約返戻金を受け取るスキームとして多くの企業に採用されてきました。

しかし、こうした商品は「節税目的の金融商品」として使われることが常態化し、本来の保険の趣旨を逸脱しているとの批判が高まっていました。これを受けて、国税庁は2019年に「法人税基本通達の一部改正」を実施。保険の種類や返戻率などに応じて、保険料の損金算入割合を細かく制限するルールが導入されました。

この改正内容が発表されたのは、2019年2月14日。その突然の発表と影響の大きさから、業界では「バレンタインショック」として知られ、大きな混乱を引き起こしました。

改正後は、保険商品によっては損金処理が一切できなかったり、50%までしか計上できなかったりと、実質的に節税目的での保険活用は難しくなったのが現実です。また、税務処理の複雑化により、保険代理店や税理士にも慎重な判断が求められるようになりました。

このように、法人保険を使った従来型の節税スキームはすでに時代遅れとなり、「思ったほど節税にならない」と感じる企業も増えています。制度の変化を知らずに従来の手法を続けることは、将来的な税務リスクや損失にもつながりかねません。

参考:法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)(定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱い)の趣旨説明
(国税庁)

生命保険の活用は“課税の先延ばし”にすぎない

生命保険の活用によって一時的に利益を圧縮し、税負担を減らすことができたとしても、その多くは”課税の繰延べ”にすぎないという点に注意が必要です。たとえば法人保険では、支払った保険料を損金として処理できても、将来的に解約返戻金を受け取った際には、その金額が益金として計上され、あらためて課税されることになります。

つまり、目先の税負担を減らせたように見えても、最終的には別のタイミングで税金を支払う必要があるということです。この構造を理解せずに、「保険に入れば得になる」と捉えてしまうと、将来的な資金計画に誤算が生じかねません。

これは法人に限らず、個人で契約した生命保険でも同様です。たとえば保険を解約して返戻金を受け取った場合、その差益部分は「一時所得」として課税対象になります。

金額次第では、想定以上の納税が発生することもあるため、契約前から出口まで見据えた設計が重要です。

繰延べによる一時的な負担軽減は、本質的な節税とはいえません。だからこそ、税金の仕組みと保険の本来の目的を両面から理解したうえで、自分にとって本当に必要な保障かどうかを見極めることが大切です。

生命保険の本来の役割と、節税以外の価値とは?

生命保険の価値は、税金対策だけではありません。むしろ本来あるべき生命保険の役割を見直すことで、自分にとって必要な保険かどうかをより正しく判断できるようになります。

万が一に備えるという“保障”の原点

生命保険の最も基本的な役割は、被保険者に万が一のことがあったときに、家族や遺された人の生活を支えることです。死亡保険や収入保障保険などは、家庭の収入を支えている人に万一のことがあった場合に、一定の金額を支払うことで生活を安定させることを目的としています。保険は“安心を買う手段”であることを忘れないことが重要です。

相続対策や資産保全としての活用

生命保険は、相続対策の一環としても一定の有効性があります。たとえば、死亡保険金は「500万円 × 法定相続人の数」まで相続税が非課税となるため、現金を相続するよりも有利になることがあります。

また、保険を通じて資産を分割・移転することで、“争族”の回避や受け取りの明確化にもつながるケースもあります。これらは節税効果とは異なりますが、財産の管理や移転において合理的な選択肢となることがあるのです。

参考:No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
(国税庁)

中長期の資金準備や資産の分散手段として

一部の積立型保険や外貨建て保険などは、長期的な視点での資金準備としても活用できます。たとえば教育資金や老後資金の準備などにおいて、「毎月一定額を積み立てる」ことで貯蓄の習慣を持ちつつ、保障も確保できるという点で有効な場合もあります。

また、資産を現預金以外に分散させることでリスク分散になるという考え方もあります。これらは、「節税になるから加入する」のではなく、自分のライフプランや家計全体の設計に合った保険を選ぶことが大前提です。

保険は目的に合わせて“使い分ける”時代へ

かつてのように、「節税になるからとりあえず保険に入る」という時代ではなくなっています。今は、保障・相続・資産形成など、目的ごとに適切な保険商品を選ぶことが求められる時代です。

そのためにも、目先の節税効果だけにとらわれず、「何のために保険に入るのか」を見極める視点が、これからはより一層重要になります。

生命保険の節税効果は過信しないことが大切

ここまで生命保険の節税の仕組みや、本来の役割について解説してきました。重要なのは、生命保険はあくまでも「保障」や「資産形成」など、本来の目的に基づいて加入するべきものだということです。節税効果が副次的に得られることがあっても、それを主目的としてしまうと、期待と現実のギャップに後悔するリスクがあります。

税制や保険商品は年々変化しており、情報が古いまま判断すると損をしてしまうこともあります。契約を検討する際は、制度の仕組みやリスクを正しく理解し、自分の目的に合った保険を選ぶことが、最も賢明な選択といえるでしょう。

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