最終更新日:2024/9/4
 
ウソ?ホント?生命保険に節税効果はあるのか
(画像=New good ideas/Shutterstock.com)
山中 勇樹
山中 勇樹
ライター/編集者。主に企業経営者への取材・インタビューを通じて、ビジネス系の文章(書籍・雑誌等)を執筆。インタビュー実績多数。

収入が多ければ多い人ほど、「節税」に関心があるのではないでしょうか。日本では累進課税制度が採用されており、家族構成や事業主・雇用者などによる違いはあるものの、所得が多い人ほど税金が高くなる仕組みになっています。例えば個人における所得税の税率は、最大で課税所得金額の45%です。(所得が4,000万円以上の場合)つまり収入の半分近くを、所得税として納める必要があります。

もちろん高額な課税が行われる前に、法人化などの対策を検討する人も多いかもしれません。ただ実際に稼いでしまってから慌てて対応しようとしても、「時すでに遅し」という場合もあります。これでは翌年の税金は、厳しくなることが容易に想定できるでしょう。税金対策というのは、あらかじめその内容をきちんと把握し、事前に着手することが大事なのです。

本稿では、「生命保険」の節税効果に的を絞り、その本質に迫ってみます。

目次

  1. 税金対策の王道といえば?
    1. 1.扶養控除
    2. 2. ふるさと納税
    3. 3.NISA(少額投資非課税制度)
  2. 生命保険の節税効果を検証する
    1. 生命保険が節税になるという根拠
    2. 事業主による生命保険の活用
    3. 生命保険の活用は課税を先延ばしにするだけ
  3. 税金の先延ばしは本質的には節税とはいえない

税金対策の王道といえば?

税金対策(節税)の王道といえば、どのような手法をイメージするでしょうか。まずはメジャーな税金対策を3つご紹介します。

税金対策
Dear Reicious Online編集部

1.扶養控除

さまざまなところで語られている手法としては、まず「扶養家族を増やすこと」が挙げられます。扶養家族とは、生活費をはじめとした「経済的な面で支える必要がある家族」のことです。節税という観点で考えると扶養家族を増やすことによって、所得税の基礎となる課税所得金額から差し引ける控除額が大きくなります。

控除額が大きくなるということは、その分だけ課税所得金額が減額されるため、結果的に所得税の額は少なくなるのです。所得税の場合、「納税者と生計を一にしていること」「年間の合計所得金額が38万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)」などの条件があります。しかし、配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族)も対象となるため、広範にわたって適応が可能です。

参照:国税庁

2. ふるさと納税

ふるさと納税とは、自分が住んでいる自治体以外の自治体に寄付を行うことで、その寄付額に応じた税金の控除を受けることができる制度です。

この制度を利用することで、寄付金額の一部が所得税や住民税から差し引かれ、実質的に自己負担が軽減されます。具体的には、ふるさと納税で寄付を行うと、寄付金額から自己負担の2,000円を除いた額が、翌年の所得税や住民税から控除されます。たとえば、3万円の寄付をした場合、自己負担の2,000円を除いた2万8,000円が税金から控除されることになります。

また、ふるさと納税は、単に税金の控除を受けるだけでなく、寄付した自治体から特産品やサービスが返礼品として送られます。つまり、税金対策としてのメリットに加え、地域貢献や返礼品を楽しむことができるという利点もあります。さらに、ふるさと納税は地方自治体の財政支援にもつながり、寄付者としては自分の好きな地域や応援したい地域を支援することができます。こうした多面的なメリットから、ふるさと納税は効果的な税金対策として広く利用されています。

3.NISA(少額投資非課税制度)

NISA(少額投資非課税制度)は、個人投資家が一定額までの投資に対して得られる利益を非課税にする制度です。通常、株式や投資信託から得られる配当金や売却益には約20%の税金がかかりますが、NISA口座を利用することで、この税金が非課税となります。

2024年より新しく導入された新NISAでは、非課税対象となる範囲が更に増えました。
新NISAでは生涯投資額1,800万円までが、年間では360万円までが非課税対象となります。 非課税期間に期限はなく、一度購入した金融商品の利益は課税されないので、新NISAは長期的な資産形成を目指す個人にとって有利な制度です。

さらに、NISAは投資初心者にも適した制度と言えます。 特につみたてNISAは長期投資を前提としており、リスクを分散しながら安定的に資産を増やすことが可能です。これにより、長期的な視点で計画的に資産を増やすことができ、将来的な税負担を軽減することが期待されます。

NISAを活用することで、投資による利益を非課税で享受しつつ、将来的な資産形成と税金対策を両立させることができるため、多くの個人投資家にとって魅力的な制度となっています。

生命保険の節税効果を検証する

扶養控除とともに、節税になるといわれているのが「生命保険」の活用です。ただ本当に生命保険を活用すれば節税効果を得られるのでしょうか。検証してみましょう。

生命保険が節税になるという根拠

生命保険が節税になる根拠としてよくいわれているのは、「生命保険控除」に関するものです。生命保険控除とは、その年に支払った生命保険料などの一定額が、課税所得から控除される制度のことです。この制度により、生命保険に入っていれば節税につながると考えられているのです。ただし生命保険料控除額には上限が定められており、所得税で最大控除額12万円、住民税で最大控除額7万円までとなります。

例えば最高所得税率の45%(住民税10%)の場合で考えても、所得税軽減額は所得税で12万円×45%=5万4,000円、住民税7万円×10%=7,000円となり最大6万1,000円にしかなりません。複数の高額な生命保険に加入していたとすれば、節税どころか余計な出費になりかねない場合もあるのです。

生命保険控除については国税庁の資料をご覧ください。

事業主による生命保険の活用

上記は個人の場合ですが、事業主の場合はどうでしょうか。会社を経営している事業主に対し、節税目的として、生命保険への加入をすすめるケースは多い傾向です。具体的には、保険料の支払いは全額損金として扱われるため、課税対象外となり利益を圧縮することができるというものです。

ただこうした手法に待ったをかけるかたちで、「中途解約で戻る返戻率の最も高い値段に応じて課税水準を分ける」と改められました。これにより損金にできる比率が減るため、保険活用のうまみは少なくなることとなります。

生命保険の活用は課税を先延ばしにするだけ

保険料の支払いによって利益を圧縮するということは、返戻金を受け取ったときに、あらためて課税されるという点も見逃せません。返戻金を受け取ることを前提に保険を活用するのは、単純に税金の支払いを先延ばししているだけに過ぎないのです。ただ生命保険の営業マンは、そこまで解説してくれないことあります。

痛みを避けるために痛み止めを打つような保険活用は、結果的にどこかで負担が生じます。生命保険の活用は、支出がともなうという点も加味しつつ、本質的な節税にはならないことを理解しておくべきでしょう。

税金の先延ばしは本質的には節税とはいえない

このように、節税効果があると思われている生命保険の活用ですが、個人でも事業主でも本質的な節税にはつながりません。本稿で紹介したような扶養家族を増やすといった基本的な節税対策を行いつつ、その効果性についても検証していくことが求められます。

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