2017年に民法が改正され、2020年4月から施行されます。今回の民法改正は120年ぶりの全面改正であり、日常生活にさまざまな影響を及ぼすと予想されています。ここでは、不動産投資で物件を賃貸する際、民法改正がどのような影響を与えるかを確認しましょう。

「民法改正」を知っていますか?~実際の不動産投資に与える影響は~
(画像=Lukas Gojda/Shutterstock.com)

保証契約に関する事項

・保証人に対する極度額の設定 不動産賃貸借取引に関して最も影響が大きいのは保証についてです。賃貸借契約を締結する際、賃料債権を保全するために保証人を付けてもらうケースが多いですが、これに関して、今回の民法改正では、個人が保証人となる場合は極度額(保証限度額のこと)を設定しなければならないとしました(改正法第465条の2)。そして、極度額の定めがない場合は保証契約自体が無効となります(改正法第465条の2第2項)。

・保証債務の範囲 極度額の設定が義務付けられたことに伴い、個人である保証人が負担する債務の範囲も、債務の元本、利息、違約金、損害賠償などについて、極度額を限度とする負担にとどまります。従って、これまでよりも厳重に債権管理をすることが大切になります。

敷金に関する事項

・「敷金」の定義の規定 従来の民法には、敷金の取り扱いについての規定がありませんでした。今回の改正で、敷金について「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」と定義されました(改正法第622条の2第1項)。 これによって、従来は「保証金」という名目で授受されていた金銭も、その目的が賃借人の負担する債務を担保するためのものであれば、法律的には「敷金」として民法の規定が適用されることになります。

・敷金の取り扱いについて 敷金の規定ではふたつのことが定められています。 第一は返還時期について、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」に賃貸人は敷金を返還する義務を負うことが明記され、物件の明け渡しが先に履行されるべきことが明確になりました(改正法第622条第1項)。

第二は返還義務の範囲について、賃貸人は「受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない」と明記されました(改正法第611条第1項)。これが「敷引き」(敷金から原状回復費用とは別に差し引かれるお金)や保証金償却を認めない趣旨なのか、それとも、特約で定めれば、敷引きは依然として可能なのか、まだ明確ではありません。実際の事例が出てくるまでは、取り扱いに注意しましょう。

賃借人・賃貸人に関する事項

・賃貸物件の譲渡と賃貸人たる地位の承継 賃貸物件が譲渡された場合について、従来の民法は特に規定を設けておらず、判例では「賃貸物件が譲渡された場合には、賃貸人たる地位も当然に譲受人に承継される」としていました。今回の改正法では、この判例の考え方を確認し、明文で規定しました(改正法第605条の2第1項)。 ただ、その一方で、信託的譲渡など賃貸人の地位を譲渡人に留保する必要がある場合もあるため、当事者間の合意で賃貸人の地位を譲渡人に留保することも認めています(改正法第605条の2第2項)。

・賃貸人の修繕義務の範囲 現行民法は賃貸人の修繕義務について定めるだけで、賃借人に原因がある場合については、特に規定していませんでした。改正法では、賃借人に帰責事由がある場合には、賃貸人は修繕義務を負わないことを明記しました(改正法第606条第1項但し書)。

・賃借人の修繕権 現行民法は、賃貸人が修繕義務を負うとするのみで、賃借人が修繕を行うことについては規定していませんでした。改正法は、賃貸人が修繕を行わないとき、急迫の事情があるときは、賃借人自らが修繕を行うことを認めました(改正法第607条の2)

・賃貸物件の一部使用不能の場合の賃料減額 現行民法は、賃貸物の一部が滅失した場合に限り、賃借人は賃料の減額を請求できるとしています。改正法はこれを推し進め、一部滅失の場合に限らず、賃借人の責めに帰さない理由で賃貸物が使用できなくなった場合には、賃借人からの請求がなくても当然に賃料が減額されることとしました(改正法第611条第1項)。

・原状回復義務の範囲 現行民法では、原状回復義務の内容についての規定はありません。改正法では、賃借人の原状回復義務の具体的内容について、賃借人は「通常の使用収益によって生じた賃借物の損耗ならびに賃借物の経年劣化」を除く損傷についてのみ、原状回復義務を負うと明記しました。

妨害排除請求権の新設

現行民法では、賃貸借物件の使用が第三者によって妨害されている場合でも、賃借人に妨害排除請求権は認めていませんでした(判例ではこれを認める取り扱いがなされていました)。改正法では、判例の考え方を採用し、賃借人の妨害排除請求権を明記しました(改正法第605条の4)。

改正法が施行されるのは2020年4月とされています。また、改正法施行以前に締結された契約については、更新期間や妨害排除請求権の規定を除き旧法が適用されますので、既に締結済みの契約が大きな影響を受けることはありません。また、改正の内容も、多くはこれまで解釈や判例で認められていた取り扱いを規定化したものや、これまでの取り扱いをより徹底したというものが多く、賃貸借契約の内容が著しく影響を受けることはないでしょう。ただし、保証契約について「極度額の定めを設けない場合には、保証契約自体が無効とされる」という点には、十分な注意が必要といえます。

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