国税庁がスポーツ界を救う英断 赤字補填が広告宣伝費として損金算入に!?
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佐古野 道人
佐古野 道人
一般企業で不動産運用や税務を経験後、ファイナンシャル・プランナーとして独立。マネー専門ライターとしてWEBライティングの他、書籍の企画・構成にも携わる。得意分野は資産運用。日本FP協会資格認定会員(AFP)。

2020年5月11日、法人税に関するある質問が国税庁に寄せられました。質問したJリーグの木村正明専務理事は約1週間後に記者会見を開き、てんまつを報告。結果は多くのスポーツ関係者にとって歓迎されました。それまで損金算入できるかどうか不明確だったスポーツクラブへの赤字補填について、算入できるということが明確化されたのです。専門的な話なので、そもそも損金とは?というところから説明します。

損金とは

損金とは、法人税のマイナス要因となる必要経費のことをいいます。法人税の計算は会計上の利益をもとに行いますが、法人税における損金と会計上の費用は必ずしも一致しません。法人税と会計の関係は次のように表されます。

【会計上の利益】 収益-費用=利益 ※会計基準など一般的な会計理論に企業の独自ルールを加えて計算する

【法人税】 益金-損金=所得 所得×税率-税額控除=法人税 ※法人税法にもとづいて計算する

会社の決算書は会計と税務の2通りがあるわけですが、2種類も作っていては事務負担が煩雑になります。そこで法人税の確定申告において、次のように計算します。

利益+(費用に計上したが損金にできないもの)-(収益に計上したが益金にしなくてよいもの)+(収益に計上していないが益金にしなくてはならないもの)-(費用に計上していないが損金にできるもの)

会計上の利益に、法人税との違いを加除することで、所得を計算するわけです。

損金として扱うことを、損金に算入するといいます。「仕入れ先を接待したときの領収書があるんだけど、損金算入できたっけ?」のように使います。損金に算入できない費用は「損金不算入」です。

簡単にすると、「損金算入=税金が減る=企業の最終利益が増える」「損金不算入=税金が増える=企業の最終利益が減る」 ということです。

損金になるもの、ならないもの

損金算入できるかどうか微妙な経費には、広告宣伝費や寄付金、交際費、福利厚生費などがあります。税務調査が入った際には、これらの科目を徹底的に調べられることでしょう。

これらの損金算入が認められるためにはまず支出の「経費性」が必要となります。事業遂行、つまり「売上を上げるために その支出が必要なのかどうか」という点です。

ただし交際費には算入限度額が決められています。これは接待飲食費などが事業性のあるなしを判断するのが難しいからです。すべて経費になるのであれば、「税金を払うぐらいなら取引先を呼んでパーっとやろう」とばかりに無駄な交際費を使う企業が出てくるでしょう。そうなると税収は下がりますし、企業の財務にとっても悪影響です。

子会社や関係会社に資金援助をしたとしても、それが売上や経費削減につながらないのであれば、「寄付金」とされます。寄付金は見返りを求めない支出のことであり、経費性がないため損金算入が認められません。

援助先と良好な関係を築くのが目的であり、ひいてはそれが売り上げの増加につながるのであれば交際費として扱うこともあります。資金援助のお礼として援助先が不特定多数の人に会社のアピールをしてくれるのであれば、「広告宣伝費」として損金算入できる可能性が高いでしょう。

Jリーグのクラブチームに対する支出

冒頭のニュースにおける質問のひとつは、「親会社が所有するJリーグのクラブに赤字補填として支出した場合、損金算入してよいか」というものでした。これに対して国税庁は「差し支えありません」と答えています。いわば満額回答です。

この質問は、新型コロナウイルスの感染拡大によってサッカーの試合が自粛され、クラブチームの収益が激減した状況下でなされました。スポーツの世界では同じような窮地に追いやられているところが多々あることでしょう。そのようなところに希望を与える結果だったといえます。

専門家に相談して適切な税金対策をしましょう

世の中には税金に関するさまざまな一般論がありますが、実際の取り扱いには微妙な部分がたくさんあります。広告宣伝費と寄付金の区分はその例のひとつです。相続税や所得税なども同様に、対策が必要だと感じたらひとりで考えず、専門家による指導を受けましょう。

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